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三週間の間に、二つ仕事をこなした。普通に仕事をするというのはどういうことか、どれくらいの状態で臨めばいいのか、ということを考えながらこなしたので、どちらの仕事もクタクタになった。でも、ある程度はセーブ出来るようになっていることがわかった。日進月歩。小さなことからコツコツと。あとはのんびり過ごしていた。時々凄く集中して瞑想をした。丸一日かけた日もあった。頻度を考えること、それがとても重要なことだと思うようになっていた。多過ぎてもいけない。少なすぎてもいけない…まるで筋トレだ。鍛えるという意味では、どんなものごとも大差ないのかもしれない。自分の状態を常に把握しながら、時には押して、時には引いて。ゆっくりと感覚を身体に覚え込ませる。
月が替わって、住職のもとを訪ねた。高岡さんはもうお寺は嫌だと断固拒否の構えを見せたので、わたしは通行手段として電動自転車を買った。前にも少し話したけれど、わたしはエンジンのついた乗り物には乗らないことに決めている。誰を避けて誰を避けなくていいのか瞬時に判断出来ない気がするからだ。でも自転車なら大丈夫。そんなものに乗るのは久しぶりだった。でも、思いのほか気持ちよく、これはたくさん乗ることになりそうだなという予感がした。まあ、仕事の日は乗らないようにするだろうけれど。お寺のある山の道に入ってからは、少し虫が多くなったけれど、わたしは昔から虫が近寄らない空気を出すことが出来る。虫が、というか、わたしが嫌だと思うもの全般がわたしを避ける環境を作ることが出来る、とでもいうのか。それは小さな子供のころから出来た。どうも生まれつき備わっているものらしい。
アポなしで来て良い、と、住職さんは仰っていたので、特に連絡もせずに訪れたのだけれど、住職さんは門のところで待っていてくれた。そろそろおいでになるかなと思っておりましたよ、と、孫を迎える田舎のおじいちゃんみたいににっこり笑った。
「ひと月でよくここまで仕上げましたな。」
とりあえずわたしの座禅を見たい、と、いうことでわたしは披露した。
「あなたはすでにご自身の禅を見つけている。あまりわたしがあれこれ言うことはなさそうだ。」
でも、わたしはまだこれを始めたばかりです、と、わたしは言った。
「これからわからないことが出てくるかもしれません。」
良い心がけです、というように住職さんは頷いた。
「いまは漏斗のイメージで気を入れています。それでいいですか?」
ふむ、と住職さんは少し考えた。
「もう少し減らしてもいいかもしれませんな。コーヒーのドリップ、わかりますか?」
「コーヒー大好きです。」
「では、そのドリップのイメージでやってみるといいかもしれません。ポタ、ポタという感じで。」
なるほど。わたしは軽くイメージして何度か頷いた。今日はもう寺にはお客はみえません、と、住職さんは微笑んで言った。
「好きなだけ座って行って構いませんよ。」
ありがとうございます、とわたしは言った。そして、あることを思い出し、場を去ろうとした住職さんを呼び止めた。
「わたしが最初に自宅で座禅を組んだ日…いらっしゃいましたよね?」
住職さんは、おお、と驚いたような顔をした。
「やはり、聞こえておりましたか。」
「わかっていたのですか?わたしの気が暴走することを。」
ええまあ、と、住職さんは何度か頷いた。
「潜在能力が強い方は、だいたいああいうことになりがちですからな。それでちょっと波長を合わさせてもらいました―器、ここでは、身体ということですが、いきなりたくさんのものを詰め込んでは割れてしまいます。しかし、人の身体というものは融通が利くもので、少しずつ入れていけばそれに合わせて形状や容量を変えることが出来ます。あなたはもう心配ないでしょうな。」




