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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
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2

遠藤さんに続き、わたしも玄関に足を踏み入れた。「嘘だろ」と思わず言ってしまった。日常生活の中で、これほどクリーンな環境に身を置くことは絶対にないだろうというくらいに、建物の中は綺麗に浄化されていた。出ましょう、と、わたしは遠藤さんの腕を取って、外へと連れ出した。は、はい、と、遠藤さんは少しはにかみながらわたしについて来た。

「綺麗過ぎて身体に悪いという状態です。」

「そんなことあるんですか…。」

普通はないです、とわたしは答えた。

「ですが、わたしは現在、スキルアップ中でして…若干ノーコンになってます。」

ノーコン、と遠藤さんは難しい顔になった。まあ、普通の人にその状態を理解しろというのは、無理な話だろう。

「なので、ええと…一週間ですね。それくらいしてもう一度来てください。その頃には周囲の空気と再び交じり合うはずですから。本当は今日の日中だけでも窓を開けておければ一番いいんですけど、その時間さえ危ないんです。」

「綺麗過ぎて身体に悪いっていうのは、具体的には…?」

「無菌室で育った花を外界に出したら、一瞬で枯れてしまうでしょう?美しい空気の中で育ったものは、外では生きられない。その逆も然りです。人間の身体は綺麗なものではありません。浄化された空気には耐えられないんです。」

なるほど…と遠藤さんは言ったけれど、納得していないのは明らかだった。とにかく一週間は明けてください、でないとなにか致命的な故障を抱えることになるかもしれませんよ、とわたしは念を押した。遠藤さんは震えあがって何度も頷いた。


そして、料金を頂き、わたしは家に帰った。


コーヒーを飲みながら今日のおさらいをした。実際のところ、わたしが急いで処理をしたわけではなかった。わたしはいつも通りにやるつもりだった。でも、問題の物件の前に来た時、通常の呼吸に合わせてなにもかも吸い込んでしまったのだった。

「だから、つまり…」

と、わたしは、ひとり言を言った。

「開くだけじゃ駄目なんだ。開き方を覚えなければ…。」

明日にでもあの寺を訪ねて教えを乞うべきだろうか?それが一番いい気がした。でも、わたしの悪い癖で、出来れば自分で何とかしてみようと考えてしまう。それが功を奏することもあるし、醜態に繋がることもある。

「瞑想か。」

つまり、気とか力だとかいうものを、必要な時に必要なだけ取り出すような使い方を覚えればいい。車みたいなものだ。スピードメーターには二百キロ近い表示があるけれど、通常は六十とか八十あたりで充分だ。だからわたしは、アクセルの踏み方というものについて考えればいい。わたしはコーヒーを飲み干した。カップを洗い、金網に伏せた。


こういうのって、普通結構ビギナーのうちに習うことじゃないのかな?


調整とか、習得だとか、そんな感覚、これまで一度も必要だと思ったことはなかった。我流ゆえの荒さなのか。とんでもなくプリミティブだな。なんだか少し恥ずかしいような気さえする。やったとかやらなかったという話ではない。そんなこと考えたこともなかったという自分のことが、だ。まあ、仕方ない。人生は一回しかない。シャワーを浴びて、のんびり瞑想に精を出そう。何をどうすればどうなるのか、そういうのをひとつずつ探していこう。退屈はしないだろう。でも今夜はきちんと睡眠をとっておきたいな。

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