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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
新しい段階
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移動しているうちに、完徹のダメージが時間差で来るのではないかと危惧していたが、まったくそんなことはなかった。わたしは心身ともに、普段通りの、いやあるいは絶好調といってもいいくらいのコンデションを維持していた。座禅は余程わたしの性に合っていたのだろう。実のところわたしは、これまでどんな種類の宗教とも関わるべきではないと思って生きてきた。自分に自信を持っていたわけではない。自分が異端だという自覚があっただけだ。だから、正統派のものと関わってもきっと得るものはないだろうと、勝手に決めつけていた。いまとなっては恥ずかしいくらいの視野狭窄だ。わたしは、これからいろいろなものと関わって行こう、という気持ちになっていた。もちろん、闇雲にではなく、その都度アンテナに引っかかったものに首を突っ込んでみよう、ということだ。幸いわたしの名は神職関係の方々にはそこそこ知られている。お寺が持っている不動産なども手掛けたことがあるせいだろう。まあ、ついでに言わせてもらえば、あまりそういう関係の仕事で人間的に快い思いをしたことがない。それが宗教を避けるきっかけになった部分もあるにはあるだろう。


とかなんとか、電車の中でもの思いに耽っているうちに目的の駅に着いた。駅を出るとすぐに、顔なじみの不動産担当者に呼び止められた。遠藤という四十代くらいのちょいポチャの男性で、つまらない話でも面白く話せるという営業の鏡のような特技を持っている。本音を言えば、あまり夏に会いたくない人ではある。彼の勤めている不動産会社は、言葉を選ばずに言えば、「売れる家は全部売る」的な方針のイケイケな…オラついた感じの社風で、結果的にヤバい物件もたくさん抱えることになる。なのでわたしは三か月に一度は彼に物件を案内してもらうということになる。しかし、金銭の関わることにはちゃんとしているし、時々は謝礼というかたちで料金に少しおまけをつけてくれる。だからわたしは、例え夏にちょいポチャと二人でエアコンが死にかけている軽自動車に乗るハメになっても文句ひとつ言わない。幸いなことに、その日の物件は駅から車で十分程度の位置にあった。


ごくごく普通の、取り立てて語ることもないような、標準的な八十年代後期くらいからの住宅。けれど、中になにかがあることは少しカンのいい人ならすぐに感じ取れるだろう。

「あー、ちょっとタチ悪い感じですね。」

「わかります?」

「寝入りばなを狙って何度もちょっかい出してきたりとか、階段降りている時に目の前に現れたりとか…そういうストレス感じる出方したりする…。」

いつもながらお見事です、という感じで遠藤さんは言う。

「まさにその通りで…じゃあ、鍵はこちらになりますので…。」

いえ、とわたしはそれを遮った。

「終わりました。」

「…はい?」

「ですから、もう終わりました。賃しでも売りでもご自由に。」

えぇ…、と、遠藤さんは目を丸くしながらオロオロした。

「まあ、日向さんの言うことですから、間違いないんでしょうけど…。」

わたしはにっこり微笑んで言った。

「じゃあ、久しぶりに立会確認やっときます?わたしも外からの処理は初めてしたので、確認出来るものならしておきたいです。」

そう、そうですね、と、遠藤さんは軽く頭を掻いてから玄関を解錠した。そして、扉を開いた途端にえっ、と小さな声を出した。

「空気変わってます。いままでは昼間でも薄暗く感じたのに…。」

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