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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
たましい
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5

そういうわけで翌週の週末、わたしと高岡さんは連れだって件の禅寺を訪れた。高岡さんが軽自動車を持っているので、わたしはひたすら助手席で欠伸を噛み殺しながら、高岡さんの話に相槌を打ちながらの四十分を過ごした。山中のくねくねした道を走っていると、自分が知っている時間の倍近い体感がある気がする。


住職さんは門のところで待っていてくれた。よろしくお願いします、と、わたしたちは揃って頭を下げた。わたしと目が合った時、住職さんはおや、という顔をした。わたしはよく、神様に関わる仕事をしている人にそういう反応をされるのだ。今回の参加者はわたしたちだけのようだった。かくして一泊二日の禅寺体験は幕を開けた。と言っても、簡略化された修行であり、掃除だの家事だのをする必要はなく、ただひたすら座り、食べて寝て起きて座って終わり、というものだった。スマホは預けなければならなかった。高岡さんは少し困っていた。


始めに簡単なレクチャーを受ける。微動だにしてはならないイメージがあったが、姿勢が整うまでは座り直したりモゾモゾしたりと、微調整をしても構わないそうだ。ちなみに、脚は胡坐とかでも良いそうだ。意外だった。わたしは幼いころから自己流で瞑想をしていたので、行自体はとても為になるものだった。高岡さんが時折ピシッと警策で肩を打たれていた。わたしは一度も打たれなかった。


昼食のあと、少しの休憩を挟んでもう一度。そこからわたしは少しおかしなことになった。座っているのにふわふわとして、浮遊しているのではないかという感じになった。そんなふうになったのは初めてのことだった。かなり狼狽えていたので肩を打たれるのではないかと思ったが、打たれなかった。傍目には静かに見えたのだろうか。ふわふわとした感じは、夕食の後もずっと続いた。


そうそう、食事は簡素なものだったが、なんというか心の籠った丁寧な美味しいものだった。高岡さんは食べたりなさそうにしていたけど。


夕食の後はお風呂を頂き、早めに就寝というスケジュールだった。高岡さんはあっという間に寝付いてしまったが、わたしはふわふわした状態が続き、なかなか寝付けなかった。ウロウロしていいものかどうかわからなかったが、起き出して昼間の場所でひとりで座ってみた。悪くない。と、後ろに人の気配がした。住職さんだった。

「早く寝んか!…と、本当は叱るところなのですが、あなたはどうも、普通の仕事をしているお人ではないようですな?」

住職さんはそう言いながら、わたしと向き合うように座った。はい、とわたしは返事をした。

「もしかしたらお聞きになったことがあるかもしれません。不動産やらに居付く霊を始末して生計を立てております。」

おお、と、住職さんは相槌を打った。

「それでは、あなたがあの日向さんなのですか。」

「はい。今回は少し思うところありまして。」

わたしは少し住職に打ち明け話をした。もちろんこの間の、墓地跡での仕事のことだ。うぅむ、と住職さんは顎をさすった。

「わたしは貴方のように、目で見ることは出来んです。しかし、こうは思いませんか…彼らが望んであなたの力に寄って来たのなら、それは供養として妥当だったと。」

わたしは小さな雷に打たれたようになった。そうか。確かに彼らは望んでわたしの中に入ってきた。わたしが彼らを吸い込んだわけではないのだ。

「然るべき祈りもなく、供養もされず、あやふやなものになってもまだ生きなければならぬ。彼らはずっとそうしてその場所に縛られておった。魂移しもいい加減なものだったのかもしれませんな。あるいは行われていなかったのかも。成仏や消滅などと言ったものは、所詮、生きているものの概念に過ぎません。我々が彼らの行く末を決定することは出来ないのです。確かに今回のあなたの場合は、仕方のない結果であったかもしれない。しかし彼らの魂が本当にもう何処へも行けぬのかとなると、わたしはわからん、と答えます。少なくとも彼らは、縛られた場所から離れることが出来たのですからな。わたしにはそれが無情なことだとは思えんのですよ。」

住職さんはゆっくりとそう話し、わたしは深々とお辞儀をして、ありがとうございました、と、しっかりと目を見て言った。住職さんは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。それから、そろそろお休みなさい、と、一礼してさっさとお戻りになった。わたしは我慢していた涙をようやく解放した。心行くまでしばらくそこに留まって泣いていた。

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