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あなたのおかげで助かりました、と、高岡さんはもう一度深く頭を下げた。いや、そんな、とわたしは片手を自分の前でバタバタさせた。
「わたしは道を聞いただけだから…。」
いーえ、と高岡さんは小鼻を膨らませる。
「この辺にお住いの方ですよね?わたし何度もお見かけしたことありますもん。だからあの日、凄い不思議に思ったんですよ?地下鉄に乗らない主義の人かなんかかなとか、変なこと考えながら説明してたんだから。そしたらあんなことになったでしょ、ああ、あの人はきっと超能力でわたしの危機を察知して信号が変わってもすぐに動かない状況を作り出してくれたんだと。」
…基本的に当たっているのでわたしはなんと答えたものかわからず、愛想笑いをした。高岡さんはそれを瞬時に肯定と受け取り、ギアを上げてきた。
「お礼をします。今度会えたら絶対にお礼をしようと決めていたんです。あ、お時間ありますか?わたしは今日明日お休みなのでたっぷりあります。あ、そちらもお休みですか、よかったぁ、なんか予定在ります?あ、特にない?お昼食べました?まだですか?ランチ奢ります、どうか奢らせてください、お礼をしないと気が済まないのです。」
この子は前世台風かなにかだったのかしら?
「お名前を教えてください。トークアプリ的なもの、なにかやってます?」
大きな観光ホテルの中に入っている、高そうなレストランに腰を下ろすや否や、高岡さんはそう切り出した、お、おう…とわたしは心で答えながら名乗り、トークアプリ的なものはやっていないと付け加えた。
「うーん、そうか~、えーとえーと、それじゃあメアド教えていただけます?」
教えて差し上げた。高岡さんはたいそうお喜びであられた。
「前から気になってたんですよ、日向さんのことは。」
恋か、とわたしはつい突っ込んだ。いいツッコミです!と高岡さんは止まらなかった。彼女が黙っていたのは注文を決める時だけだった。でもあまり煩いと感じなかったのは、わたしが話しているときはちゃんと聞くし、話の腰を折ったりもしなかった。ちゃんとした子なのだ。ちゃんとした子の回転数が二倍なのだ。何かの話が一段落して、小さな間が出来た時、高岡さんはあ、そうだ、と、急に話を変えた。
「禅、って興味あります?」
禅。と、わたしは復唱した。
「座って目を閉じて、我を失くし、世界を感じ取る、禅?」
「まさに仰る通りの禅です。」
正直これまでまったくの興味の対象外だったが、その日はなぜかその言葉が気になった。
「禅がどうしたの?」
わたし、禅の体験したいんですよ、と、高岡さんはスマホをしゃっしゃしながら答える。そしてスマホをこちらに向ける。ここから車で四十分程度の、山の中にあるお寺でその体験は出来るらしい。
「どうしてまた、禅体験をしたいの?」
そのう、と、高岡さんは少しハニカミながら、こう言った。
「ダイエットにも、いいらしくて…。」
なるほど、とわたしは頷き、引き続きスマホの画面を見せてもらった。確かに、ダイエットにも良いと書いてある。まあ、わたしはダイエットをする必要はないけれど…わたしは不思議なほどその寺に興味を感じていた。
「わたしもやってみたいかな、これ。」
「本当ですか!行きましょう一緒に行きましょう。」
「あ、料理来たよ、まず食べようよ。」
「食べましょう食べましょう。」




