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手を取れ、手を離せ。  作者: ホロウ・シカエルボク
たましい
11/31

3

疲れ果てて自宅に帰りつき、入浴をし、ソファーにもたれてマイナーなホラー映画をしばらく眺めたあと、コーヒーに少し蜂蜜を入れて飲んだ。途端に眠くなり、歯を磨いてさっさと眠った。催眠術師が手をパンと打った途端に寝る、あんな調子であっという間に眠りに落ち、十時間身じろぎもせずに眠っていた。何の夢も見なかった。起きて顔を洗い、朝食を作り、FMを聞きながら食べた。トーストを噛みながら、昨日は少し取り乱し過ぎたかもしれない、と反省した。無理もないことかもしれない。でも、どんな事態にあっても自分を見失わないようにしなければ…もしもあそこに依頼人が居たとしたら…


「いけない。」


依頼人になんの連絡も入れていなかった。いったい何をやっているんだ。時計は九時を回ったところだった。もう電話しても大丈夫だろう。わたしは仕事用のスマホを取り、コールした。相手はすぐに出た。ああ、日向さん、と、普通の調子だ。わたしは、昨日連絡を入れられなかったことを詫びた。

「思いのほか時間が掛かってしまって。」

問題ありません、と彼は答えた。

「それで、どうなりましたか?」

問題なく完了しました、とわたしは答えた。

「ただ、数がとても多かったので…ともあれ、あそこはもうただの空地です。ホテルを建てても大丈夫ですよ。」

驚きました、と依頼人は息を飲んだ。

「今まで何人か、霊能者の方にお願いをしてみたのですが、どうも要領を得なかったのですよ。居るのやら居ないのやら。害があるのやらないのやら。居ないことは無いですがまあ害はないでしょう、という方もおられました。お祓いは出来ないのですかとお願いしたら、これはお祓いの通じない類の霊です、みたいなことを言われましてね。」

そうだったんですか、とわたしは言った。それで少し気分は良くなった。立ち会っての確認はもう必要ないとのことだった。

「わたしは日向さんを信じます。はっきりとした仕事をしてくださったのはあなただけですから。」

今日中に料金を振り込みます、と、彼は言った。ありがとうございます、とわたしは言った。

「またなにかありましたら、ぜひどうぞ。」

「それはもう、ぜひ。」

「それでは失礼します。」

「失礼いたします。」


電話を切ると変なトーンのため息が出た。まったく…何が正解なのか。


朝食の残りをもしゃもしゃと食べて、コーヒーマシーンが入れてくれたコーヒーを二杯ゆっくりと飲むと、今日は繁華街でもブラブラして、何か面白いものを見つける日にしよう、と決めた。少なくとも今日は、仕事のことは考えないでおこう。頭を悩ませてもわからないことの多くは、時間が教えてくれるとしたものだ。わたしは服を着替えて、外へと繰り出した。


繁華街の入口で、若い女性に呼び止められた。と言っても名前ではなく、あの、すいません、と言った調子で。

「ここから一番近い地下鉄の駅って、どちらでしょうか…?」

それなら…と説明をしている途中で、なんかついこの前こんなことあったな、と思い出した。呼び止めた女性はワンショルダーのオーバーオールをカッコよく着こなしていた。彼女の顔をまじまじと見てわたしはようやく思い出した。

「この前の。」

はい、高岡です、と、にっこり笑って高岡さんはお辞儀をした。

「この前はどうも。」

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