最狂
男は雪さんに突っ込んで行く。雪さんはその攻撃をギリギリで避けてカウンターを放つ。その瞬間雪さんと男の位置が最初の位置に戻っていた。
「ふーん、時間を巻き戻す系かな?」
「そうだ。さてどう対策する?」
「そうだな…」
雪さんは考えるそぶりをする。だが男はそれを許さない。再び突っ込み蹴りを放つ。雪さんはそれを軽く避けていく。
「ねえ、能力ってどんな感じで発動してるかわかる?」
「?急になんだ。」
「能力は意識的に発動させるか無意識の中で本能的に発動するか、元々プログラムした発動条件を達成した場合すぐに発動するかの三択なんだよね。でもすべてに共通する弱点がある。それは…」
その瞬間雪さんの姿が消える。男は焦ったように顔を振って周りを確認しようとした時…男の腹は雪さんの手で貫かれていた。
「弱点は本人が認識する前に攻撃することだよ。認識しない限り能力を発動することは出来ない。そして君の能力は痛み自体は戻せないでしょ?最初に僕がカウンターを放った時、僕は君が能力を使おうとしていたのが分かっていた。能力を使うには準備が必要だ。普通なら感じられないぐらいの時間、僕はそのタイミングでカウンターを止めていた。急に止めたせいで少し腕が痛くなっちゃったんだよね。その痛みが君の能力発動後も残っていた。つまり君の能力では痛みは消せない。」
「だからなんだ!」
男は自分に能力を使って傷を塞ぐ。
「傷自体は消せる。お前は俺を殺せないんだよ!」
「はは、そうかい。それじゃあさ…」
その瞬間俺の背筋が凍る。雪さんの顔は人が出していい顔なのかと思うほどに狂った笑顔をしていた。
「君はどれだけの痛みに耐えられるんだろうね。」
雪さんがそう言った瞬間男の顔がみるみる青くなっていく。
「胸を貫いても意識が一瞬でもあればきっと戻せるんでしょ?でも痛みは消せない。ゲームでさ、何回やってもクリアできないコースがあったら諦めるでしょ?この戦いはそれだよ。君は僕には勝てないし殺せない。でも僕は君を殺せる。でも君は能力を使い続ける限り死なない。何回殺せば君は生きることを諦めるのかな?」
そう言って雪さんは男に近づく。その瞬間男はその場に倒れこむ。
「来るな…来ないでくれ!」
「君が能力を使わなければ済む話だよ。さあやろうか。」
……
あれから10分程度が経った。男はピクリとも動かなくなった。最後はもう意識外など関係なく、ただの拷問だった。周りにいた人質の中には吐いている人もいる。それもそのはずだ。男は両腕をもがれ、足は片方もがれて口には自分の指を詰め込まれて目にはボールペンが刺さっている。それでもトドメとなったであろう腹の風穴があくまでは生きていたのだ。それはきっと男の生存能力が高いってわけではなく雪さんの技術によるものなのだろう。その光景を見ていた俺も恐怖で頭が真っ白になっていた。目の前で助けを呼ぶ男が拷問されたのだ。誰だって恐怖を抱くだろう…そんな状態で雪さんが口を開く。
「それじゃ逃げましょうか。」
雪さんはそう言って入って来た扉に歩いていく。その瞬間一人の男が雪さんの背後に急に現れる。その男の手にはナイフが握られていた。
「雪さん!危ない!」
俺は咄嗟に叫ぶ。その瞬間男はナイフで雪さんを刺そうとする。だがそのナイフは空を斬った。
「はあ…ここは敵陣、油断するとでも?」
「…」
「敵陣での油断は死を招く。そして次に…挑む相手を間違えた君は…」
雪さんは一瞬で男の背後に周り蹴り飛ばす。
「死にます。」
吹っ飛んだ男は起き上がってこない。見た感じ息はしている。だが骨は数本折れているだろう。背中からの攻撃だったため内臓にはダメージは少ないだろうがそれでも意識を戻したときには激痛に襲われるだろう。
「死にはしませんでしたか…まあ僕は快楽殺人鬼じゃないので見逃します。次はない。」
そう言って雪さんは再び歩み始める。そんな雪さんの背中を見ながら僕は思った。
(最狂)
と。




