閑話 シェラザード
ルチィが俺の番だと皆に発表して良いと言ってくれた。
聞いた時は、まことなのかと耳を疑った。
嬉しい……。
胸が高鳴り苦しい。
気がつくと涙を流していた……
そうか、俺はそれ程までに番の発表を望んでいたのか。
ルチィに気付かれぬよう瞳を手で隠す。
俺は涙が出るほどに、この言葉を待っていたのだな。
ルチィは初めて竜人国に来た時に、番だと皆に知られて嫌がっていた。
人族と竜人族は、少し感覚が違うのだと教えられたが、やはり俺の番である事が嫌なのかと……悪い方に考え眠れぬ夜もあった。
こんな情け無い気持ち全てを、ルチィに気付かれないよう、いつも気丈に振る舞っていた。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、成長するにつれルチィはどんどん綺麗になる。
誰にも触れさせたくない。
見せたくもない。
出来る事なら部屋に閉じ込め、俺だけを見ていて欲しい。
ルチィの美しい瞳が映すのは俺だけでありたい。
ドロドロした独占欲が、俺の脳を支配するする。
だがそれは到底無理な話。さすがに俺もちゃんと理解している。
だが俺の番と知れば、皆は恐れルチィに触れることなどないだろう。
ああ……せめて皆に我の番であると知らしめたい。
ある日とうとう不安が的中した。
エルフの男が可愛いルチィの手を握りしめている。あれに触れて良いのは我だけだ!
殺してやりたかったが、ルチィが急に可愛いおねだりを言うから、エルフの男などどうでも良くなり、殺すのはやめた。
ああ……ルチィの可愛い口から抱っこしてと言われるだけで、胸が高鳴る。
ルチィと出会え無ければ知らなかった高鳴りだ。嬉しい。
そして今日、ルチィが番である事を皆に言って良いとやっと言うてくれた。
嬉しさの余り、俺は気がつくとルチィに口付けをしていた。
甘い……ビックリした。
ふと、皆が言っていた事を思いだした。番は甘いと。
一度味わってしまうと、その甘美な甘さに虜になると。
その時は、半信半疑で話を聞いておったが、本当にこんなにも甘く愛しいのか、ずっとキスしていたい。
だがこれ以上調子に乗って、ルチィに嫌がられたら困る。
少しずつ。少しずつ。
一度番の甘美なキスを知ってしまったら、この先も知りたい。
ああルチィの全てが早く欲しい……。
明日は番の発表だ。嬉しくて眠れない。皆にやっと俺の愛しい番だと表明できる。




