閑話 リディア
この国の重鎮や貴族たちが、会場に犇めき合うように集まっている。
ここにいる全ての人達が、聖女となる私を見に来ているんだわ。
とうとう私が主役のストーリーが始まる……フフッ
きっと私の可愛さに驚いているはずね。
本当なら、もっと派手でゴージャスなドレスが良かったんだけど……白く飾り気の無いワンピースを着ている。ハッキリ言って好みじゃない。
でもこれが聖女の式典服らしい。はぁ地味だわ。なんでもっと派手なドレスとかにしなかったのかしら……私をもっと目立たせてくれないと。
「聖女リディアよ、前へ」
などと考えていたら、国王様から名前を呼ばれる。キタキター!
会場を見回すと皆がウットリと私に注目する。
「はい」
私は返事を返し美しいカーテシーを披露した後、国王様の前に歩いて行く。
ぐふっ、もっと私を見て!
あれぇ? ところでルチアはどこにいるの!? 今から良いシーンなのに!
「これより、リディア・クロノス侯爵令嬢の聖女認定式を始める」
国王陛下がそう言うと、会場から割れんばかりの拍手喝采が鳴り響く。
そうそうコレコレ! はぁ最高!
「本日よりリディア・クロノス侯爵令嬢を、我が国の新たなる聖女として認めようではないか! 異議のある者は申し出よ」
国王様ったら何を言ってるの? 異議なんてないでしょうよ!
もちろん異議のある人なんて現れず、そりゃそうでしょ? 五十年ぶりに現れた聖女様なのよ私。もっと崇め奉りなさいよ。
「ではリディア・クロノス侯爵令嬢にこの聖女の証である王冠を授ける。聖女リディアよ前へ」
王様が私の頭にそっと王冠をのせる。
憧れの聖女の証! みんな私を見てー! 王冠をつけた私、綺麗でしょう?
チラリと周りを見渡すが、ルチアの姿がやはり見当たらない。
私の素晴らしい所を見せつけてやりたいのに、肝心な時に何処に行ったのよ!
ったくイライラさせないで欲しいわ。
「これにより、我が国の聖女リディアが誕生した」
国王様がそう言うと、会場から盛大な拍手喝采が鳴り止まない。
フフッ……もっと私を見て!
あー気持ちが良いわ! さてと仕上げといきますか。
「国王陛下、お話があります。聞いて頂けますか?」
「何じゃ? 聖女リディアよ。発言を許す」
「……実は私……長らくの間、義妹のルチアに虐げられておりました。私と母はルチアとは義理の親子で血が繋がってない事もあり、私は何も出来ず毎日虐げられておりました、今日まで我慢しておりましたが……それもっもう限界でっううっ」
ここでハンカチを出し泣き真似をすると……
「何と! 聖女様を虐げる? 何て事を!」
「そんな令嬢には罰が必要だ」
周りがザワザワと騒ぎだす。よしよし。ここで決めの一言。
「でも聖女となった今は、それも全て許します……」
「なんて慈悲深い……」
「心の広い聖女様なんだ!」
ぐふっぐふっ周りが面白いくらい、反応してくれるわ。
さすが聖女の力ね。
そしていいタイミングで、第二皇子のレオンハルト様が私の横に立つ。
「国王陛下、お願いがあります。聖女リディアを虐げていた女ルチアとの婚約を解消し、私は聖女リディアとの婚約を結びたく。お許し頂けないでしょうか?」
「「「「オオーッ!」」」」
それはおめでたいと、会場が盛り上がる。
この雰囲気には、婚約破棄を渋っていた国王陛下もうんとしか言えない。
「分かった。聖女リディアと第二皇子レオンハルトの婚約を認めよう!」
ワアアー!!!
再び拍手喝采の盛り上がる。
はぁぁ、予定ならルチアに直接婚約破棄をいいたかったのに。どこいったのよ! 家に帰ったらお仕置きが必要ね。
『ルチィ? 俺は何の茶番劇を見せられてるんだ?』