竜王の番
「ちょっ!? 下ろして!」
いきなり現れた美男子が、私を抱っこしたまま離してくれない。なんでこの人は私をずっと抱っこしてるの?
美男子の髪は紺色で腰まであるストレート、瞳は金色と赤色の斑の瞳で宝石みたいに綺麗……頭には二本ツノ? みたいなのが生えてる。
ーーおい! お前は竜人族の王、竜王だな! 今すぐルチィを離せ!
黒ちゃんがあんなにも怒りを露わにして怒っているのに、我関せずと全く聞く気がない。
……て言うか今、この人の事を竜王って言った?
『……ほう。ルチィとゆうのか?』
美しい顔を私に近付け、首をコテンッと傾けて聞いてくる美男子。
「あうっ」
なんなんですか? このあざとい仕草は。
ーー勝手に名前を呼ぶな! ルチィを下ろせ! 竜王よ。このままだと只で済むと思うなよ!
『いくら聖獣様の申し入れであろうと嫌だ。俺は離さぬ』
はっ? 離さぬって……そんな駄々っ子みたいに。
ええとこの人は、さっするに竜人族の王、竜王様なんだよね?
何でそんな凄い人が、いきなり私を抱っこしてるの? 全く意味が分からない。
そりゃね? 見た目は子供だけど。中身は大人、この体勢は前世を含め男性に免疫がない私には、ちょっと……いやかなり恥ずかしい……。
「あの……下ろして?」
恥ずかしさに耐えきれす、下ろして欲しいと必死な顔で懇願する。
『ふぅむ? 嫌だが其方が望むなら……』
そう言うと竜王様は、私をやっと下ろしてくれた。
その姿は明らかに残念そうで、シッポの下がった犬のよう……そんな目で私を見ないで下さい。だって抱っこは、恥ずかしいんだもん。
竜王様が私を下に下ろすと、白ちゃん黒ちゃんが急いで前に立ち、妖精さん達も心配そうに沢山集まってきた。
ーー何でバハムート帝国の竜王が、こんな所に護衛も付けずにいるんだよ?
白ちゃんが喧嘩腰に質問している。竜王様にそんな言い方して大丈夫なの? さすがは聖獣様。
『我は、番の匂いに誘われてこの場所に来ただけだ!』
ーーへっ!? つっ番だと? まさか、ルチィが?!
黒ちゃんがつがいと聞いて動揺している。つがいってなんなの?
『そうだ! やっと見つけた我の唯一無二の番、愛しい人』
エルフ族の登場だけでもビックリだったのに、今度は竜王様? が登場して訳の分からない事言ってる。
ーールチィが番? そんなっ……間違いないのか?
『我が番を間違うものか、何百年待ったと思ってるんだ!』
ええと……白ちゃんは今、ルチィがつがいと言った? 私がつがい?
『この国に聖女が誕生したと言うから、ちぃと暇つぶしで見に来たら、聖女と言う#女子__おなご__#は魔力も纏っておらんただの女子だった』
この竜王様は、暇潰しに聖女をゲイリー王国まで見にきたの? 竜王様って王様でしょ?
そんな暇なの?
『わざわざ見に来て損したと思っていたら、物凄く良い匂いの芳香がこの庭園からするのだ……俺はドキドキして胸が苦しくて……すぐにこの芳香は、番の香りだとわかった』
つがいの香り? 何それ……意味が分からない。
「あの、つがいって? そのう……何ですか?」
思い切って質問したものの、綺麗な顔で見つめられ、緊張してしまう。
『我の唯一無二の人だ!』
ええと……竜王様? 余計にわからないですが?
ーールチィ、あのね獣人族や竜人族には、番という魂の伴侶がいる。
番と結婚出来るのは最高の幸せであり、見つかるまで永遠に探す愛しき存在。
ええっ! 魂の伴侶!? 何その少女マンガみたいな話は……。
ーー特に寿命が長い竜人族は、番が見つかるまで結婚はしない。生涯の伴侶は番だけだ。竜人は一途だからな、生涯一人だけを愛す。まぁ……その分番に対する執着が酷いんだけどな。
なるほど、生涯一人だけ愛すとか……それは素敵だけれど、黒ちゃん? 執着が酷いとかさっきから、余計な一言が多いよ?
ーーそれに反して、獣人族は番以外も沢山伴侶を娶る。重婚が許されている国だからね。獣人族の王などは十五人も嫁がいる。番が見つかっていないから、正妃は空席のままだけどね。
ーーただどちらの国も番の存在は重要。同じ種族で番が見つかる場合は少ないらしくて、他種族から現れる事が多く、特に人数が多い人族から、番が表れる事が多いみたいだな。
凄い話だ、中には番が見つかるまで旅に出て帰って来ない獣人もいるのだとか。
さらに驚いたのが、竜人族の番が出た人族の家は、竜人族からかなりのお金が、支度金として貰え。
それは番が亡くなるまでお金を保障してもらえるんだとか!
凄い制度だ……。
だから子供が16歳になると、番のいない竜人族と出会うパーティーなどに出ないといけない。
竜人族の番になれたら、一生働かなくていい、お金に困らない生活が待っている。
そりゃ皆必死だ。
なんだか宝くじに当たるみたいだね。
本当に凄い世界だ。
『分かってくれたか? 俺の唯一の番』
「!!!」
そうだった!
他人事の様に聞いていたけれど、私……この竜王様の番と言われてたんだ!
やばい。こんな綺麗な人の番とか急に言われても……何だか動揺してドキドキしてきた。
ーールチィ? 急に番とか言われてもビックリするよね。大丈夫?
白ちゃんが心配してこっちを見る
ーーでも竜人族の番に対する執着は酷い。逃がしては貰えないだろうな。番が竜王ってルチィは色々と凄いな。
黒ちゃん……逃がしてもらえないとか、サラッと怖いこと言わないで。
「でも、あのう……私は竜王様に何も感じないんだけど、正直番とか急に言われても良く分からない」
ーー人族は十六歳にならないと、番を感じる事が出来ない見たいだよ。
ーーまぁ十六歳になったとしても感じとれない奴もいるからな、なってみない事にはわからないな。
白ちゃん黒ちゃんが補足としてさらに詳しく教えてくれる。ほんと二匹は色々と知ってるなぁ。
ってことは……16歳になったら私はこの綺麗な人を好きって意識するの?
ほんとに?
……今はわからないな。
すごく綺麗だとは思うけれど。
『ねぇルチィ? 竜王様なんて呼び方はやめて?シェラと呼んでくれないか?』
「えっ……あの」
そんな潤んだ色っぽい目で、おねだりしないで! ドキドキするよう。
『シェラだよ?ルチィ。ほら? 言ってみて』
「シ……シ、シェラ様。あのう私はまだ番とか良く分からないから……今度会った時までに、番について勉強しときますね」
『今度? ルチィの側をもう離れる気はないが?』
「えっ!?」
ボー然とこのやりとりを見ていたエルフ族のガウディさんが、やっと正気を取り戻し喋った。
今サラッと怖いこと言われた気がしたんだけど……ガウディさんの声で消し飛んじゃった。
「愛し子様が竜王様の番! 何と言う事だ! コレは国に帰って報告しないと」
ーーおい、ちょっと待て! まだルチィが混乱している! エルフ族に報告などは、もっと落ち着いてからにしろ、わかったな!
黒ちゃんがガウディさんを睨みつけ、だめだと注意してくれる。
「聖獣様がそう言われるのなら仕方ありませんね。わかりました」
『ルチィ? 今から竜人族の国バハムート帝国にくるか?』
今度は竜王様が、急に無茶苦茶な事言いだした!
「えっ? ムリです」
そんな事出来る筈がない!!
『どーして? 俺はもう片時もルチィから離れるなんて出来ない』
「はうっ……」
サラッとまた恥ずかしいセリフをこの人は……。
そこまで言ってくれるのは嬉しいけれど、今すぐバハムート帝国に行く訳にはいかないのだ。
だって私はまだあの義母や義姉の謎、さらにはお父様の事! 何にも終わってないのだ。
私はこの理由を全て竜王様に話した。
そうしないと、私を連れて帰るの一点張りで、話が進まなかったからなんだけど。
『俺の愛しい番に何て事を……許せぬ』
話を聞いた竜王様の体が、小刻みに震えている。私の為に怒ってくれてるのだろうか?
『ルチィ? 父上の事など其方の不安が全て片付けば、バハムート帝国に来てくれるな?』
ええ……すぐは無理だけど……でも「はい」って言わないとまた話が進まないなこれは。
「……はい」
『よしっ決まりだな』
シェラ様は嬉しそうに優しく微笑む。
どうせそんな直ぐに、解決は出来ないだろうしね。そんな風に、この時の私は安易に考えていた。
『おい! アレク、ヴィク! 今の話聞いていたな? 直ぐに調べよ』
『『はっ! 仰せのままに』』
どこからともなく急に現れた、部下? の人たち二人にシェラ様は命令する。
すると部下の人たちは、すぐにいなくなってしまった。
そして今、また私は抱っこされている……えええ何で?