有名録音スタジオの怪
こちらは百物語六十話になります。
山ン本怪談百物語↓
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もうごっつ昔の話になるんやけどなぁ。
漫才コンビとして大成功した俺とMは、色々あってCDデビューすることになったんよ。
曲を作ってくれたのは、当時大人気やったKという音楽プロデューサーや。
俺とMは番組の仕事を終えると、すぐに「Tスタジオ」へ向かった。
このTスタジオがちょっと変わっててなぁ…
「このスタジオ、色々あって深夜は使わないんですよ」
レコーディングの時間が深夜になることはよくあることなんやけど、このスタジオはできへんらしい。
当時の俺たちは仕事が忙しくて、仕方なくこのTスタジオを使わせてもらうことになったんや。しかも深夜に…
「今日は無理を言ってスタジオを開けてもらってますので…早いところ終わらせましょう…」
俺たちと数人のスタッフがスタジオの中へ入ると、すぐに準備を始めた。
「M、お前歌詞ちゃんと覚えてきたんか?」
「覚えとるで。明日のネタは忘れてもうたけど…」
スタッフが準備を終えると、簡単なミーティングが始まった。それが終わると、すぐに曲の録音が始まった。
「それじゃあ、2人共よろしくお願いします。3…2…」
今回はあくまで練習みたいなもんやから、すぐに終わらせて帰る予定やった。
「うぇ~るか~むっ♪」
俺とMは気持ちを落ち着かせると、マイクに向かって歌い始めた。
「ふぅ…終わったぁ…!」
曲が終わると、俺とMはすぐにブースの外にいるスタッフたちへアイコンタクトしたんや。すると…
「んんっ?なにこれ…」
「これ壊れているんじゃないか?」
「昼間の収録は特に何も…」
スタッフたちがざわついとる。
気になった俺とMは、ブースの外へ出るとスタッフたちの元へ向かった。
「おい、どしたんや?俺らの歌ヘタクソやったか?」
スタッフたちは俺とMに向かって申し訳なさそうな顔をしながら、何度も頭を下げ始めた。
「すみません、もう1回お願いできますか?ちょっと雑音が入ってて…」
どうやら、録音中に変な音が混じってたらしい。仕方なく俺とMはもう一度ブースへ戻った。
「今度はどうやった?」
歌い終えてから再びスタッフたちの元へ近づくと、またスタッフたちが困った顔をしとる。
「なんや、また失敗か?どんな雑音入ってるんや?」
俺とMがスタッフに文句を言うと、1人のスタッフが録音した歌を再生し始めた。
「そんな君が好きだか~ら~♪」
特におかしいところはなかった。
「ちゃんと録音できてるやん。どこに雑音が…」
Mがそんなことを言い始めた途端…
「僕と君との~♪ウェルカぁあ゛ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
ホンマにびっくりしたわ。
いきなり録音していたMの歌声が叫びに変わったんや。
「な、なんやこれ!?」
「俺こんなこと言ってへんぞ…」
現場はパニックになる…と思いきや…
「あぁ、やっぱりかぁ。また時間があるときにやりましょうか」
スタッフたちは特に大きなリアクションをすることなく、現場は一旦解散することになった。
「お~い!スタジオ閉めちゃいますよ~!」
スタジオを出る準備をしていると、スタッフの1人がスタジオの奥に残っている人影を見つけた。
「なんや、俺たち以外のスタッフもおったんか」
もう警備員くらいしか残っていないと思ってたけど、別のスタッフがまだ残っていたらしい。
…と思ったんやけどな。
「あぁ、あの人はいいよ。早くスタジオから出るぞ」
うちのベテランスタッフがそう言うと、俺たちは急いでスタジオから出て行った。
色々聞いたろうと思ったけど、結局最後まで聞くことができなかった。
これは若手が楽屋で話していたことやけど、あのスタジオの近くに有名な「心霊スポット」があるらしい。
そこにいる「奴ら」がスタジオに集まってくるとか…
もうあのスタジオは取り壊しになってもうたらしいけど、あの土地を買う奴はおらへんやろうなぁ。