お姉さんの目が点になります。
依頼を受けて三日目、仕立て屋さんに盤石の形質を付与したクロコダイルの皮を持っていきます。
「こんにちは。依頼の品をお持ちしました」
「ああ、入って入って。どんな感じになったかな?」
「こちらです。ご確認ください」
「どれどれ……え?」
お姉さんの目が点になります。
「何か不都合がありました?」
「いやいや、何これ。傷ひとつない、渡したときのままじゃないか!」
「頑張りました」
「いやいやいやいや! 頑張ってどうにかできるもんじゃないでしょ!?」
「努力ですよ、努力」
「えーあーどうしようかな。これは予想を超えてきた」
うんうん唸りながら、お姉さんは金貨を並べます。
結局、金貨十二枚の報酬をいただくことになりました。
「ありがとう、フーレリア。君の錬金術の腕前には脱帽だ。これからもよろしく」
「はい、またお仕事があればご依頼ください」
私は工房に戻ります。
おっと、お客さんが待っていました。
「あの、留守にしていてごめんなさい」
「あらあなたがこの工房の主? 聞いていた通り、若いのね」
雰囲気で分かります。
この女性は何らかの職人ですね。
「評判になっているリンゴのクッキーを頂けるかしら?」
「はい。少々お待ち下さいね」
私は工房を開けると、リンゴのクッキーを一袋、〈ストレージ〉から取り出しました。
もちろん見えないように気をつけながらです。
「銀貨一枚だったわよね」
「はい。こちらがリンゴのクッキーになります」
私は女性の差し出した銀貨と引き換えにクッキーの袋を渡します。
すると女性は袋を開けてクッキーをひとつ頬張りました。
「……美味しい」
「お気に召されたなら幸いです」
「評判になるわけだわ。私のお菓子と同じくらい美味しいなんて……錬金術師のくせに」
おやどうやら女性はお菓子職人らしいですね。
評判を聞きつけてやって来るとは勉強熱心な方です。
「まだ名乗ってなかったわね。私はシルビーナ。迷宮都市で最も腕の良いお菓子職人よ」
「私はフーレリア。錬金術師です。よろしくシルビーナ」
「まったく……嫌なライバルが現れたものね。お菓子職人なら同じ土俵で戦えるのに、錬金術師が相手じゃ勝手が違う」
「はあ」
どうもライバル認定されたようですね。
負けん気が強い人のようです。
シルビーナは「時間がないから単刀直入に言うわね」と前置きしてから、小さな籠を差し出しました。
「これが私の作品よ。あなたのクッキーは確かに美味だった。今日のところは引き分けね。今度また私が来るときまでに、新しいお菓子を作っておきなさい」
籠を置いていって、シルビーナは颯爽と立ち去りました。
……え、私、これから新しいお菓子を用意しておかなければならないんですか?
随分と勝手な言い分でしたが、商品ラインナップを増やすのも悪くありません。
実際、クッキーの評判で知名度は上がりましたが、二の矢をつぐなら今なのは確かです。
籠の中身はイチゴのショートケーキでした。
クッキーじゃないのかよ! と思いましたが、非常に美味でしたので引き分けにしてくれてありがたく思うべきかもしれません。
何にせよ、再びやって来る気まんまんのシルビーナのために新作のお菓子を用意しておく必要がありそうです。
何がいいかなー……。
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