中には訝しげな視線も混じっていますが。
まず聖女としての活動として、神殿の講堂で〈コール・ゴッド〉を披露するところからですね。
多くの神官たちが詰めかけており、講堂は熱気で包まれています。
神殿長とハンネリースとともに壇上に上がります。
「こちらは聖女フーレリア様であらせられる。神降ろしの奇跡を体現しており、聖書にはない女神を降臨させることができるそうだ」
神官たちが驚きと興奮とともに、壇上の私に注目しています。
中には訝しげな視線も混じっていますが。
「呼び出せるのは円環の女神。聖書には載っていない女神ではあるものの、神の一柱であることは、【真偽判定】で明らかになっている。……今日は幾つかの質問を女神様にしたいと思う」
神殿長が「聖女様、それでは〈コール・ゴッド〉をお願いします」と告げました。
「――〈コール・ゴッド〉!」
天より一条の光が私に降りてきます。
内面が巨大な存在で塗りつぶされていく感覚には慣れませんが、なんとか円環の女神フーレリアを降ろすことができました。
《我が名は円環の女神。数多いる神々の一柱》
念話が講堂にいるすべての神官たちに届けられます。
警備をしている神殿騎士たちもギョっとした様子で、私に注目しました。
「初めまして、女神様。私は王都の神殿長を務めるゲルンストと申します。本日は幾つかの質問をさせていただければと思っております」
《質問を許す》
「ありがとうございます。まず、あなたは円環の女神とのことですが、どのような事柄を司る女神なのでしょうか」
《特定の過去と未来を司っている。我が権能については語る気はない。なぜなら汝らにとっては何の益ももたらさないからだ》
「ほう、何の益もない。それは意外なお言葉です。神々は世界の運行や人々へ祝福を授ける存在ではないのですか?」
《多くの神々、特に汝らの聖書に記されている神々は確かにそのような性質をもっているものが多い。だが私のように特定の事象を司るような神も存在する》
「なるほど。聖書に描かれている神々は、神々全体からしてどのくらいの割合なのでしょうか」
《主な神々を網羅しているとはいえ、せいぜい二、三割程度の神々の名しかないだろう》
「なんと……そんなにも多くの神々がおわすのですか!」
《私のように取るに足らぬ権能を持つ神々も多い》
「そのように卑下なされることはありませぬ。しかし聖書に載っていない神々の中で、私たちが祈りを捧げるべき神々はおられるのでしたら、お教え願いたい」
《神の家の子らよ。あまねく神々に祈りを捧げよ。聖書にあるなしに関わらず、汝らは神々に祈るべきである》
「なるほど。すべての神々に祈るべき。それが神殿のあるべき姿なのですね」
《然り》
「ありがとうございました。聖女様への負担が大きいので、本日はこれで質問を終わらせていただきます」
《また呼ぶがよい。汝らの疑義に答えよう》
光が消えて、私の中から円環の女神がいなくなります。
ドっと疲労が押し寄せてきます。
ハンネリースが私の背中を支えてくれました。
今や講堂の神官たちと警備にあたる神殿騎士たちは目の色を変えて私を見つめています。
よほど神との触れ合いが刺激になったのでしょうね。




