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婚約破棄から始まる迷宮都市での錬金術師生活 ~得意の古代語翻訳で裏技錬金術を駆使して平穏に暮らします~  作者: イ尹口欠
二重生活と復縁

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しかしピリピリしていますね。

 女神フーレリア。

 そんな神は知りません。

 聖書に書かれている神々は数多くあれど、すべてを網羅しているわけではないので知らない神がいるのは不思議ではないのですが。

 

 私と同名で、しかも私の過去と未来を司る神だなんて、随分と個人的な女神がいたものです。

 

《フーレリアは輪廻の環から外れた存在。汝は過去、現在、未来において存在する神の分け御霊である》

 

 私が神の分体ですか。

 それは知りませんでした。

 

《汝の所持する書物がその証左。フーレリアが著したフーレリアのための書物。それはどの時間軸にも存在する》

 

 この学院から盗み出した書物の著者が過去に存在した私自身だったと?

 

《左様。故に汝の習得可能な魔法について書かれている》

 

 確かに。

 錬金術、時空魔法、悪魔召喚、死霊魔法、神降ろし、いずれも私は問題なく習得して使用できる魔法ばかりです。

 偶然ではなく、私に向けて書かれた書物だったのですね。

 

《フーレリアは死と同時に神になる。汝も次のフーレリアのために書物を著して、神に還るのだ》

 

 ほほう。

 未来はもう決定づけられているのですか。

 

《然り。フーレリアは繰り返す》

 

 ふうむ。

 しかし直近の問題として、私は神殿に異端審問にかけられようとしているのですが。

 

《神と交感する者を神殿が異端とそしることはできないはず。我を呼べ》

 

 助けてくれるのですか?

 

《我もまたフーレリア。汝の不利益を見過ごすことはできない》

 

 ではチカラを借りることにしましょう。

 しかしこれ、神殿からしたら喉から手が出るほど欲しい魔法ですよね。

 

《使える者は限られるが、魔導書を神の家に献じれば良い。喜ばれよう》

 

 そりゃ喜ばれるでしょうとも。

 女神がチカラを貸してくれて、〈コール・ゴッド〉の魔導書もある。

 異端審問をなんとかかいくぐれる気がしてきましたよ。

 

 * * *

 

 異端審問官たちを追い返した翌日、さっそく神殿から迎えがやってきました。

 白塗りの馬車。

 銀十字の意匠は神殿長のもので間違いありません。

 

「聖女フーレリア様。神殿へお迎えに上がりました」

 

「神殿に向かうことは問題ありません。新たに聖女の任に就くことも。ただし護衛として騎士ハンネリースを連れて行くことを許可願いたい」

 

「神殿にも神殿騎士団がありますが……そうですな。個人的な護衛もいた方が安心できるというのならば、聖女様の御心のままに」

 

「ありがとうございます。では行きましょう、ハンネリース」

 

「はい!」

 

 騎士ハンネリースを伴い、神殿の馬車に乗り込みます。

 内装は侯爵家の馬車と同等くらいのものでしょうか。

 神殿のお金の流れは知りませんが、神殿長ともなるとこのくらいの馬車に乗れるのですね。

 

「フーレリア様は神殿の聖女になられると同時に、王太子殿下の婚約者でもあります。結婚なされれば神殿を離れることになります。それまでに多くの神官たちに神の声を聞かせていただければと思います。ああ、もちろん聖女様の健康が第一ではありますので、ご心配なく」

 

「分かりました。私では女神の一柱を降ろすことしかできませんが、ここに〈コール・ゴッド〉の魔導書があります。これを神殿に献上します」

 

「な、なんと! これが神降ろしの魔導書! よろしいのですか?」

 

「もちろんです。ただし無属性の超上級魔法ですので、使える者は限られてくるでしょう」

 

「無属性……光属性ではないのですか」

 

「そうです。人によって呼ばれる神が決まっているようなのですよね。どの神が呼ばれるかは個人個人の資質によるのです」

 

「なるほど。聖女様が呼び出される女神は何という名ですか?」

 

「残念ながら聖書には見られない女神でした。円環の女神を名乗っておいでです」

 

「円環の女神……確かに聞いたことのない女神ですな」

 

「それでも神の一柱であることは確実です。他の神々についてもご存知のはずなので、質問をされるとよろしいかと」

 

「なるほど。それは神殿に仕える者としては気になるところです。質問事項を予め準備して臨むのが良いでしょうな」

 

「そうですね。〈コール・ゴッド〉は心身に負担が大きいので、あまり長く神を降ろしていられませんので」

 

 馬車は神殿にたどり着きました。

 神殿騎士団たちが馬車の周囲を守り、高位神官たちが出迎えてくれます。

 

 しかしピリピリしていますね。

 神官や神殿騎士団たちの中には、まだ私が聖女であると認めたくない勢力があるようです。

 当然でしょうが、実際に神を降ろすところを見なければ納得がいかないことでしょう。

 

 しかし乱発もできないので、今ここで、というわけにはいかないんですよね。

 

「聖女様。お部屋にご案内させます」

 

 神殿長は若い女性の神官をふたり、私の侍女として使うようにしてくれました。

 ふたりの神官はうやうやしく(こうべ)を垂れます。

 

 部屋に案内されました。

 神殿の中にあって豪奢な調度品が揃っていますね。

 というか、ここは前の聖女の使っていた部屋のようです。

 さすがに血で汚れた床は清められており、壁紙も張り替えられ、家具も一部が取り替えられていますけどね。

 

「ここで普段は過ごせば良いのですね?」

 

「はい、聖女様。ここには基本的に私たちどちらかが常にいるようになっております」

 

「そうですか。とはいえ私はここですることもないでしょうから、迷宮都市の工房の様子を見に行ったりしても構わないでしょうか?」

 

「……はい?」

 

「私、これでも時空魔法も使えます。迷宮都市とは一瞬で転移できるので、往復に時間はかかりません」

 

「そ、それは……神殿長に確認を取ってもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです。確認してきてください」

 

 ひとりが退出して、もうひとりがお茶の準備をしてくれます。

 さあ、聖女としての生活が始まりますよ!

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