何の条件もなしにドレスを仕立てるのは久々です。
深夜。
〈ディメンション・ゲート〉で迷宮都市の工房にやって来ました。
「お姉さま、おかえりなさいませ」
「ただいまホルトルーデ。工房は変わりありませんか」
「はい。依頼はドッペルレリアが受けてくれますし、私はお菓子の量産を粛々と進めています。いつも通りですね」
「そうですか。折を見てドッペルレリアには迷宮都市で発注しておいたドレスを受け取って貰うように伝えておいてください」
「お姉さま、もう行ってしまわれるのですか?」
「ええ。こんな時間ですからね。明日は王都の屋敷に仕立て屋を呼ぶことになっていますし、寝不足で目の下に隈を作るわけにはいきません」
「そうですか……」
「そんな顔をしないでください、ホルトルーデ。これからはもっと来るようにしますから」
「はい」
私は再び〈ディメンション・ゲート〉を開けて、王都の私室に戻りました。
* * *
翌朝、優雅に朝食を摂ってから、仕立て屋がやって来ました。
侯爵家に出入りしている顔なじみですね。
「お久しゅうございます、フーレリアお嬢様」
「久しぶりですね。今日はドレスをひとまず五着ほど見繕ってもらう予定です。手持ちのドレスや宝飾品は売り払ってしまったので、アクセサリについても合わせて購入したいと思います」
「かしこまりました。それではアクセサリとのバランスも考慮に入れてドレスのデザインを決めましょう」
何の条件もなしにドレスを仕立てるのは久々です。
普段は持っている装飾品と合わせられるようにしたり、他のドレスと被らないようにしたりと、色々な条件があるのですが、今回は何の条件もありません。
迷宮都市で仕立てたドレスは王都の職人が仕立てたものより一段落ちるので、王城へ上がるのには使えません。
せいぜい身内のパーティで着るくらいでしょうか。
最近流行の形を盛り込みつつ、ドレスとアクセサリを決めていきます。
私も女性ですから、衣服をあれこれ選ぶのは楽しい作業です。
あっという間に昼になってしまいました。
しかし五着のドレスとアクセサリは決まりましたので、予定通りですね。
一着は近々、王城に上がるために超特急で仕上げることになるそうです。
午後は自由時間なので、迷宮都市の工房に向かうことにしました。
ホルトルーデが寂しがっていましたし、スロイス先生とインプの暗号解読の進捗も気になりますからね。
婆やには時空魔法で迷宮都市に向かうことを告げて、私の不在を侍従たちに知らせないように言い含めておきます。
「収納だけでなく転移の魔法まで使えるのですか、お嬢様は」
「ええ。ですからこれからも迷宮都市の工房にはちょくちょく顔を出す予定です。影武者任せにできないこともありますからね」
「かしこまりました。お嬢様の不在はテキトーに誤魔化しておきます」
「ではよろしく頼みました。何かあればこの蜘蛛に呼びかけてくれれば、戻りますので」
「……その巨大な蜘蛛は一体?」
「怖がらなくても大丈夫ですよ。私の使い魔です」
「はあ。この蜘蛛に呼びかければ、遠く離れたお嬢様に伝わるのですね?」
「ええ。急な来客や用事があったら、遠慮なく呼んでください。それでは。――〈ディメンション・ゲート〉」
グワっと空いた空間の穴に、婆やは目を見張りました。
私は気にせず空間の穴を通って、迷宮都市の工房に入ります。
さて、ドッペルレリアはちゃんと私の代わりをしているでしょうか?




