斥候役がいないのは私が三人だから仕方がないことです。
「本体、ミスティックトーチを錬成してください!」
セバスチャンが帰ったその夜、〈ディメンション・ゲート〉でダンジョンから帰還した一号がそんなことを言い出しました。
「ミスティックトーチというと、罠を発見するアレ?」
「はい。斥候いらずの魔法具です。実は斥候がいないため、道中の罠でケルベロスが損耗することが多くなってきて……ポーションでその都度、怪我は治しているのですがこのままだと効率が悪いのです」
「そっか……ダンジョンも進んでいくと罠が強力なものになると聞いたことがあるわ」
「そうなんです。第二十階層を越えた辺りから厄介な罠が混じるようになってきていてですね。さしものケルベロスも罠の探知まではできないらしく、被弾が増えているのですよ」
「そこでミスティックトーチの出番というわけですね。しかしあれは……」
「はい。作るのが難しいのはよく分かっています。しかしこのままではダンジョンの奥深くに潜るのに、障害となるので、必須かと」
「そうですねえ。斥候役がいないのは私が三人だから仕方がないことです。ミスティックトーチの錬成、やってみますか」
「もちろん私たちもお手伝いしますから」
「そうですね。手伝ってもらいましょう」
こうしてミスティックトーチの錬成を開始するのでした。
* * *
ミスティックトーチは棒状の魔法具です。
先端から特殊な魔法の明かりが灯り、照らされた範囲に隠された罠や隠し扉を浮かび上がらせる効果のある便利な効果をもっています。
通常、ミスティックトーチはダンジョンの宝箱からしか入手できないとされています。
そのため高額で取引されているのが現状なのですが、私は錬成方法を学院時代に発見しており、その素材と手順を記憶していました。
必要な素材は夜光塗料、魔法のインク、太陽石、宿り木の棒です。
宿り木の棒以外の素材はそれぞれ錬成する必要がありますね。
素材を冒険者ギルドと薬師ギルドで購入して、錬成しましょう。
まずは夜光塗料です。
ギンギラビートルの翅、雪蛍の結晶、透明粘土がその素材です。
ギンギラビートルは七色に輝く魔物で、その翅は貴族向けの装飾品に使われています。
雪蛍の結晶は遠く北方から仕入れてきた白い石で、ほんのりと白い光を灯しているのが特徴的な、これもやはり貴族の装飾品に使われる素材です。
透明粘土はゼラチナスウォールという魔物の素材で、その名の通り透明な粘土です。
これらを錬金釜に投入して魔力を流します。
それなりに強く魔力を流さなければ混じり合わないので、ここは全力で魔力を注ぐの肝要です。
すべてが混じり合うと、黒いタール状の液体が出来上がります。
これが夜光塗料……夜になるとぼんやりと光を放つ魔法の塗料です。
さてお次は魔法のインクですね。
魔墨と呼ばれる魔導書を書くときに使用するインクを〈原質分解〉して魔法の炭を作り出します。
ザクロの実を〈原質分解〉して少量だけ得られる油、バージンポメグラネートオイルを小瓶一杯になるまで錬成します。
この炭とバージンポメグラネートオイルとを錬金釜に投入し、魔力を流せば魔法のインクが完成します。
魔法のインクは一見すると赤いインクですが、しっかりと魔力を帯びたもので、血液の代替品として使える性質があります。
太陽石は日溜まりの石と球体ガラスとを錬成したものになります。
日溜まりの石は山岳地帯で稀に見つかる素材で、太陽の光を長年受け続けた石のことです。
球体ガラスはただのガラスなのですが、なるべく正確な球体でなければなりません。
もし球体が歪んでいたりした場合は、丸いという形質を付与することで正確な球体に矯正することができます。
ガラス職人に注文した球体ガラスは正確な球体でしたので、この工程は不要でしたね。
さあ日溜まりの石と球体ガラスを錬金釜に投入して錬成しましょう。
魔力をかなり持っていかれますが、なんとか太陽石を作り出すことができました。
最後の難関が夜光塗料、魔法のインク、太陽石、宿り木の棒を錬金釜に入れて錬成する工程です。
これには軽く見積もって三日分の魔力が必要となります。
ダンジョン探索で疲れていることでしょうが、ここは素直にドッペルゲンガーたちに頼るとしましょう。
* * *
数日かけて、ミスティックトーチを三本作成しました。
一号、二号、三号がそれぞれ持ち、前方を照らすことで罠を避けるという寸法ですね。
ダンジョンの罠はこれで概ね回避できるはずなので、後は魔物との戦いだけです。
ケルベロス三体と私が三人で、不死鳥の羽根とドラゴンの血の入手は果たして成るのか。
期待して待つとしましょう。
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