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婚約破棄から始まる迷宮都市での錬金術師生活 ~得意の古代語翻訳で裏技錬金術を駆使して平穏に暮らします~  作者: イ尹口欠
エリクサーと賢者の石

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38/81

さてどうやって誤魔化しましょうか。

 一日限定十個のシュークリーム、大人気にて売り切れが続いています。

 本当は十二個作成してあるのですが、ひとつは味見のためにホルトルーデとふたりで一個を食べて、もうひとつは急な来客のためにひとつ、〈ストレージ〉に取っておきます。

 

 その急な来客の先触れがありました。

 今日、カミーリアがウチの工房に遊びに来ます。

 

 * * *

 

 カミーリアの馬車に続いてもう一台、馬車がやってきました。

 やけに大人数だな、と思って出迎えたら、なんとオルナバスとお抱え錬金術師、そして知らないオジサンが出てきましたよ?

 

 カミーリアは申し訳無さそうに「仕事の話があるそうなの。突然でごめんなさいね?」と小声で謝りました。

 いえ仕事の話は別に構わないのですが。

 

「先に仕事の話をしたら、俺たちは帰る。そう嫌そうな顔をするな」

 

「そんな顔になってましたか?」

 

「少なくとも歓迎はされていないようだが」

 

 そりゃね。

 唐突に仕事の話、と言われても。

 こっちはカミーリアとお付きの人の分のお茶とシュークリームしか用意していませんからね。

 

「では仕事の話をするために部屋を一旦、片付けます。すぐに済むのでお待ちいただいてもよろしいですか?」

 

「ふん。まあいいだろう」

 

 相変わらず偉そうなオルナバス――実際、偉いのですが――の許可を得て、ひとまずシュークリームは隠します。

 お茶菓子はリンゴのクッキーにしましょう。

 椅子が足りないので〈ストレージ〉から足りない分を出します。

 

「片付けました。どうぞ中へ」

 

「……本当に早かったな。まあいいが」

 

 ぞろぞろと工房に五人が入ってきます。

 ホルトルーデは居室で休憩してもらっています。

 

「今日は弟子の娘は不在か?」

 

「ええ。休憩させています」

 

「そうか」

 

 オルナバスは興味もないといった感じで、席につきました。

 急遽用意した椅子も違和感なく受け入れられたようで何よりです。

 カミーリアも席につき、お付きの侍女はカミーリアの背後に立ちます。

 

「それでは仕事の話とやらを聞きましょうか」

 

「それでは私の方から。初めましてフーレリア様。私は冒険者ギルドのギルドマスターを務めておりますバッシュと申します」

 

「冒険者ギルドのギルドマスター、ですか」

 

 偉い人ですよ。

 迷宮都市はその名の通りダンジョンで成り立つ街です。

 そのダンジョンに降り立つ冒険者の元締めとあらば、領主であるヴェルナー伯爵家の懐刀に等しいでしょう。

 

「はい。フーレリア様の開発された画期的な保存食。それをウチで取り扱わせてもらいたいのです」

 

「冒険者ギルドで保存食を売りたい、という話ですか?」

 

「量産を含めてこちらでやりたい。お前たちの工房では量産にも限界があるだろう? レシピを買い取らせてもらって、冒険者ギルドの方で工場を作り、大量生産するつもりだ」

 

 笑顔のままのギルドマスターバッシュに代わり、オルナバスが言いました。

 なるほど、保存食の量産、ですか……。

 

 ざっと保存食の作り方に問題がないかを頭の中で確認します。

 空気を遮断する特殊な紙の量産が難点でしょうか。

 

「それで? 幾らでレシピを購入してもらえるのですか?」

 

「……金貨五百枚でどうだ」

 

「ふうむ、まあいいでしょう」

 

 金貨五百枚なら、量産から解放される利点と儲けを失う不利益とをあわせてちょうどいいくらいですね。

 

「ではレシピを書き出すので、少々、お待ち下さい」

 

「話が早くて何よりだ」

 

 オルナバスは腕組みをして、瞑目します。

 金額はもう少し引き出せたかもしれませんが、特にがめつく必要もないので金貨五百枚ももらえれば十分ですね。

 問題は……製法を教えたところで量産体制を作れるのか、です。

 

「これが保存食のレシピです。前者が特殊な紙で空気を遮断したパンやクッキーなどを梱包するやり方。もうひとつは栄養を練り込んだショートブレッド、通称カロリーバーです」

 

「確認しろ、エルサイス」

 

「はい」

 

 お抱えの錬金術師はエルサイスという名前らしいです。

 レシピを見て、難しい顔になりました。

 

「オルナバス様、これは……量産は難しいかもしれません」

 

「なんだと? フーレリアは量産しているではないか。何が問題だ?」

 

「ふたつ目のカロリーバーは量産可能ですが、ひとつ目の特殊な紙の量産が難しいです。形質の付与が必要になるため、神殿に支払う経費と形質付与の時間を考えますと、採算がとれない恐れがあります」

 

「……鑑定に形質付与、か。フーレリア、お前の工房ではどうしているのだ?」

 

 当然、そのような話になりますよね。

 さてどうやって誤魔化しましょうか。

 

「私は鑑定は使えませんが、形質を見分けるのは得意です。形質付与も時間を短縮する技術を有しているので、経費を差し引いても利益が出るようになっています」

 

「その時間短縮の技術とやらはこのレシピに含まれていないのか?」

 

「私の秘術ですから、売る気はありません」

 

「金貨二百枚を上乗せする。その秘術とやらを売れ」

 

「秘術を売り物にするつもりはありません」

 

「……フーレリア。お前は自分の立場が分かっているのか?」

 

「なんと言われようとも、考えを変えるつもりはありませんよ。ただし、形質付与した紙を納品するということであれば協力できますが?」

 

「…………エルサイス、それならどうだ?」

 

「そうですね、大幅に経費が削減できそうです。それならば量産の障害となる要素はなくなります」

 

「分かった。空気を遮断する紙だったな、それはこの工房に作成を委託する」

 

「はい」

 

「フーレリア、月に何枚、納品できる?」

 

「そうですね……保存食を二百食分、作成できるだけの紙の納品が可能です」

 

「ではバッシュ、工場建設の手配を頼む。主力はふたつ目のカロリーバーになるだろう。特殊な紙がボトルネックになってひとつ目の保存食は最終的に量産が追いつかなくなるはずだ」

 

 バッシュさんは「かしこまりました」と頷きます。

 

「仕事の話はこれで終わりかしら、オルナバス?」

 

「はい、姉上。私たちは保存食量産のための工場建設の打ち合わせなどがあるので、これで失礼します」

 

「そう。ならとっとと行ってちょうだい」

 

「はい。……フーレリア。金貨五百枚は後日、届けさせる。それでは失礼します、姉上」

 

「はいはい」

 

 オルナバスはカミーリアに一礼してから、バッシュとエルサイスを連れて工房を出ていきました。

 

「ごめんなさいね。錬金術師にとってレシピは命でしょうに。それを断れない状況にあるフーレリアから買い取ろうだなんて……」

 

「いえ、気にしていませんよ。もともと量産には苦労していたので、冒険者ギルドとヴェルナー家がやってくれるのなら助かります」

 

「そうなの? 気を使って言っているのではないの?」

 

「本音ですよ。正直、毎日忙しくしているので、紙の作成だけになって随分と楽になります」

 

「そう……なら良かったわ。金額にも不満はないのよね?」

 

「はい。紙を納品するという条件を考慮すれば、妥当かと思っていますよ」

 

「そう、納得しているなら構わないわ。ああ、もうこのお話は終わりにしましょう。私は友達の家に遊びに来たのだから」

 

「そうですね。あ、いま工房では限定十食でシュークリームを出しているのです。特別に取り置いてあるので、どうぞお召し上がりください。お付きの方の分も用意してありますよ」

 

「まあシュークリーム? このクッキーも手作りなようだけど、フーレリアはお菓子を作れるのね」

 

「このお菓子たちは、錬金術で作ったものですよ?」

 

「え、錬金術ってお菓子も作れるの?」

 

「はい。この工房の前の主であるエルサイスさんも錬金術でお菓子を作っていたと聞いたことがあります。錬金術でお菓子を作るのはそう珍しいことではないと思いますよ」

 

「そうなの。知らなかったわ」

 

 カミーリアは不思議そうな顔でシュークリームを持ち上げ、そんまま頬張りました。

 今更ですが、毒味とかしなくて良かったんでしょうかね?

 

「あら美味しい。よく冷えていて甘くて……製法はともあれ、このシュークリームは美味よ」

 

「ありがとうございます。気に入ってもらえて何よりです」

 

「錬金術といえば石鹸とかを作っているイメージしかなかったわね。フーレリアは石鹸を作ったりもしているの?」

 

「いえ。今の所はお菓子と保存食で手一杯で。石鹸は市場で売っているものを使っていますよ」

 

「市井の薬師が調合した石鹸よね? 品質はどんなものか知らないけど、フーレリアの腕前なら良い石鹸が作れそうなのに」

 

「そうですね。自作した方が良い石鹸が作れるのは確かです。しかし薬屋の石鹸でも汚れは落ちますし……不便はないんですよ」

 

「ふうん。ねえ、それじゃあ今度、私が来たときには石鹸を錬成しましょう。私も錬金術に興味が湧いたわ」

 

「そうですね……それじゃあ素材を用意しておきます。カミーリアでも石鹸なら錬成できると思いますから」

 

「本当? 楽しみにしているわ」

 

 それから雑談をしてから、カミーリアは帰っていきました。

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