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婚約破棄から始まる迷宮都市での錬金術師生活 ~得意の古代語翻訳で裏技錬金術を駆使して平穏に暮らします~  作者: イ尹口欠
迷宮都市の錬金術師

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……これは意外な結果ですよ?

 ホルトルーデが接客に出るようになってから、数日が経ちました。

 幸いなことに接客マニュアルの作成により失敗はしていません。

 笑顔を絶やさず、丁寧な物腰で接客するホルトルーデは、すぐに常連客に馴染んでいきます。

 

 ちょっと寂しいのは、なんででしょうね。

 自分の子供が独り立ちしている、そんな気分にもさせられるのです。

 

 さて今日からはホルトルーデに魔法を教えることになっています。

 接客が上手くいっているので、そろそろ新しいことを覚えるのにちょうどいい時期でしょう。

 あまり一気に詰め込むのも考えものですからね。

 

 工房の営業が終わって夕食を頂いてから、ホルトルーデとベッドの上で向かい合わせに座ります。

 

「まずは魔力の属性ですが……これは私と同じと見ていいでしょう。私の情報から生まれたわけですし」

 

「はい。お姉さまと一緒なんですね」

 

「ええ。魔力の扱いも日々の錬金術で行っているので、いきなり実践に行きましょうか」

 

「はい!」

 

「……まずは闇属性魔法の〈ライティング・メモリ〉を習得しましょうか」

 

「それはどんな魔法なんですか?」

 

「記憶に直接、覚えたい情報を書き込む魔法ですよ」

 

「わあ、便利な魔法があるんですね」

 

 何を隠そう、この魔法こそ私が最初に覚えた古代語の書物から得た魔法です。

 闇属性は精神に働きかける属性であり、記憶もその一部です。

 〈ライティング・メモリ〉の魔法のお陰で学院の座学の成績は常にトップを誇り、古代語の辞書も頭に丸暗記されているのですよ。

 この魔法は実家の書庫にあった古代語の書物に書かれていました。

 この頃からです、古代語の翻訳にのめり込んだのは。

 

「さっそく習得してみましょうか。魔法の習得には魔導書が欠かせません。とはいえ私の手元に魔導書がないため、作成しておきました」

 

 魔導書は魔法を習得するのに使う道具です。

 特殊な装丁になっており、手を当てて魔力を流すことで、内容を実行。

 魔法を習得できるというわけです。

 

 魔導書の内容は私が記述し、装丁は錬金術を使って行いました。

 隠しておきたい手札の一枚ですから、人の手を介するわけにはいきません。

 

 〈ストレージ〉から取り出した魔導書を、ホルトルーデに差し出します。

 

「この表紙に手を当てて、魔力を流してください。それで習得はできます」

 

「はい。魔法の習得って意外と簡単なんですね」

 

「習得は、ね」

 

 そう習得するだけならば、簡単なのです。

 問題は使うときに発生します。

 持っていない属性の魔法はそもそも魔導書を使っても習得できませんし、属性があっても術者と相性の悪い魔法は習得しても使えません。

 現に私は地属性と炎属性を持っており、その魔法も多数習得していますが、上手く使うことが出来ないのです。

 

 ホルトルーデは無事に〈ライティング・メモリ〉を習得しました。

 では実践ですね。

 

「ホルトルーデ、この表を覚えてください」

 

「お姉さま、これは?」

 

「これは属性一覧です」

 

 地水火風の下位四属性、炎氷雷の中位三属性、光闇の上位二属性。

 そしていずれの分類にも属さない無属性と時空と重力、そして契約の四属性。

 

 全十三属性です。

 

 普通に暗記してもいいのですが、一見しただけで暗記できる〈ライティング・メモリ〉のテストにはちょうどいいでしょう。

 

「分かりました。この表を覚えるんですね……」

 

「ええ。気負う必要はないから、力を抜いて挑みなさいね」

 

「はい。……〈ライティング・メモリ〉」

 

 ジッと表を見つめるホルトルーデ。

 すぐにその表情に苦痛の色が見えてきました。

 

「ホルトルーデ!?」

 

「……っ」

 

 失敗です。

 どうやら〈ライティング・メモリ〉はホルトルーデと相性が悪い魔法だったようですね。

 

 ……これは意外な結果ですよ?

 

 なにせ私から生まれたと言っても過言ではないホルトルーデが、私の得意魔法と相性が悪いのですから。

 いったい全体、どうなっているのでしょう。

 

「ホルトルーデ、表は覚えられましたか?」

 

「はい。完璧に思い出せます」

 

「でも〈ライティング・メモリ〉を使っている間、頭痛がしていたのでしょう?」

 

「え? はい。しました、頭痛」

 

「ならば今後は〈ライティング・メモリ〉の使用を禁じます」

 

「ええ!? 何故ですか、お姉さま!?」

 

「その魔法、どうやらホルトルーデと相性が悪いみたいなので。相性の悪い魔法を無理して使うのは身体に悪いのです。特に精神に作用する闇属性の魔法を無理に使い続けるのは、絶対に良くない結果が待ち受けています。最悪、廃人になってもおかしくないくらい危険なことなんです」

 

「そうなんですか……」

 

「だから別の魔法を覚えましょう」

 

「は、はい。次はどんな魔法でしょう?」

 

「〈ストレージ〉を覚えてもらいます」

 

「やった、便利な魔法ですね!」

 

 〈ストレージ〉の魔導書ももちろん自作したものです。

 今度も習得は簡単に済みました。

 

「それではこの二冊の魔導書を試しに〈ストレージ〉に入れてください」

 

「はい! ――〈ストレージ〉」

 

 二冊はスルリとホルトルーデの個人空間に収納されました。

 

「ホルトルーデ、頭痛がしたり、不快感があったりしませんでしたか?」

 

「大丈夫ですお姉さま。〈ストレージ〉には〈ライティング・メモリ〉のような頭痛や不快感はありませんでした」

 

「そう、良かったわ。魔導書はそのまま持っていて頂戴。ただし決して他人には〈ストレージ〉を使っているところを見せないこと。魔導書も他人に見せるものではないから、〈ストレージ〉に死蔵しておいて」

 

「はい。お姉さまの魔法ですから、誰にも魔導書を見せたりしません」

 

「よろしい。じゃあ今日はこの辺にしておきましょうか」

 

「はい!」

 

 〈ストレージ〉を習得できたということは、少なくとも時空魔法の適性はあるようですね。

 しかし闇属性が上手く使えないのは計算違いでした。

 

 もしかして、私と属性が異なったりして?

 いやいやまさかそんなことがあるはずないのですが。

 

 一度、セバスチャンに見てもらった方がいいかもしれませんね。

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