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もうこの際ですから、アルベリクさんでもいいでしょう。

 冒険者ギルドに出した依頼は塩漬けになるのだと勝手に思っていましたが、甘かったですね。

 今や錬金術でお菓子と保存食の量産を一手に担う人材であるホルトルーデを狙う悪人が、私よろしくテキトーな設定をでっち上げてホルトルーデを囲おうとしているのですから。

 

 私は冒険者ギルドにホルトルーデを連れてやってきました。

 視線を素早く走らせてセバスチャンがいないか見渡しましたが、残念ながら見当たりません。

 ですが代わりに、――。

 

「おい。錬金術師の小娘ではないか。冒険者ギルドに用事か?」

 

 アルベリクさんがいました。

 もうこの際ですから、アルベリクさんでもいいでしょう。

 

「アルベリクさん。ちょうどいいところに。ちょっと私の用事に立ち会ってもらえますか?」

 

「俺様がか? ……まあいいだろう。今日はちょうどいい依頼もなくてな、暇になりそうだったのだ」

 

 快く引き受けてくださったので良かったです。

 心強い味方を得ましたよ。

 

 受付に来訪を告げて、いざ勝負の場へ。

 冒険者ギルド内の個室に通されました。

 

 私、ホルトルーデ、アルベリクさん、そして向かいに座るのが二人組の中年男性でした。

 ギルドの受付嬢も立ち会います。

 

 中年男性たちが話し始めます。

 

「実はホルトルーデは私たちにとって娘のような存在でした」

 

「俺たちは一緒に住んでいたんだ。ホルトルーデは気立ての良い娘っこで、いつも俺たちのいない家で家事をしていてくれた」

 

「はあ」

 

 うさんくさいことこの上ないですね。

 しかしふたりの中年男性は演技派でした。

 涙を浮かべて、ホルトルーデの手をとったのです。

 

 ……ホルトルーデは嫌そうに顔をしかめていますが。

 

「俺たちのもとへ帰ってきてくれ、ホルトルーデ」

 

「また一緒に暮らそう」

 

 ギルドの受付嬢とアルベリクさんは黙って成り行きを見守っています。

 さて、私が動くとしましょうかね。

 

「あのう、ひとつ質問があるのですが」

 

「「ん?」」

 

「なぜあなた方はホルトルーデとこの子を呼ぶんですか? ホルトルーデは記憶のないこの子に私がつけた名前ですよ?」

 

「「え?」」

 

 固まるふたりの中年男性。

 顔色が変わります。

 

「い、今の名前はホルトルーデなんだろう!? 昔はジェーンだったんだ! なあ、ジェーン、思い出してくれよ!」

 

「そうさジェーン! 家に帰ろう!?」

 

「……そこまでだな。手を離せ」

 

 アルベリクさんが冷たく言い放ちます。

 ギルド職員は唖然とした顔で成り行きを見守っています。

 

「な、お前は関係ないだろ、アルベリク!」

 

「そうだそうだ。そもそもなんでアルベリクがこの部屋にいるんだ」

 

「下らない。お前達の嘘は明らかだ。何の疑問もなくホルトルーデと呼んでいたお前たちは、名前にまで気が回らなかったんだろうな。大方、錬金術を仕込まれていた小娘を攫いたかったんだろう?」

 

「ち、違う……俺たちはジェーンと……」

 

「見苦しい。俺様の目を誤魔化せると思うなよ?」

 

「くっ……」

 

 中年男性たちは顔を俯けて黙りました。

 おお、アルベリクさんが役立っている!

 さすがはこの街で最強の冒険者です。

 いえ、本当に最強かは知りませんけど。

 

 アルベリクさんが中年男性ふたりの手をホルトルーデから払い除けて、この場はお開きとなりました。

 ギルド職員は平謝りです。

 嘘をついた中年男性ふたりにはペナルティが課されることになりました。

 逆恨みがちょっと怖いですね。

 

 しかし次にまた嘘を付くような連中がホルトルーデを狙ってきたら、守りきれる自信がありません。

 名前ネタはもう使っちゃいましたしね。

 

 ですからギルドの受付嬢に言って、依頼票は剥がしてもらいました。

 ホルトルーデの記憶が戻ったときに、本当の家族のもとへと帰すことができるので、それを待つことにすると。

 嘘をついてホルトルーデを攫おうとする輩がまた現れても見抜くことができないので、ホルトルーデである内は私の妹分として、家族として遇することを告げました。

 

「それがいいだろうさ。錬金術師としてのホルトルーデを狙う輩がこれからも出てくるだろうからな」

 

 アルベリクさんも賛成に回ってくれたので、この件は私の希望が通りました。

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