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婚約破棄から始まる迷宮都市での錬金術師生活 ~得意の古代語翻訳で裏技錬金術を駆使して平穏に暮らします~  作者: イ尹口欠
迷宮都市の錬金術師

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はい、夜ふかしする気まんまんです。

 錬金釜の中に佇むのは、色白の少女でした。

 ぼんやりとした双眸は虚空を眺めており、ふと自分がこの世に生まれたことを認識して私の方を見ます。

 

「あなたが私を造ったのですか?」

 

「はい。あなたは私の錬金術師の助手として生み出されたホムンクルスです」

 

「錬金術師……はい、分かります」

 

「では錬金釜から上がりましょう。服のサイズは私と同じみたいですから、いま用意しますね」

 

 衣服を用意して着替えさせると、一見しただけでは私の姉妹にしか見えませんね。

 

「いいですか、あなたがホムンクルスであることは極秘です。秘密にしなければなりません。これからは私の妹として生活してもらいます」

 

「分かりました。それで……マスターのお名前を教えて下さい。それとできれば私に名前をつけてください」

 

「私の名前はフーレリアです。あなたは……そうですね、ホルトルーデと名付けましょう」

 

「フーレリアお姉さま。私の名前はホルトルーデ。覚えました」

 

「じゃあこっちの錬金釜でお菓子と保存食を量産してもらいましょう」

 

「かしこまりました」

 

 ホルトルーデにお菓子と保存食のレシピを教えます。

 素材が足りなければ追加しなければなりません。

 その場合、買い物の仕方も教えなければなりませんね。

 知識は最低限、身に付けさせてありますが、細かなところが抜けていると思うのです。

 初めて造ったホムンクルスですからね、足りない部分は教育でなんとかせねば。

 

 そんなわけで、同居人が増えました。

 

 * * *

 

「いいですかホルトルーデ。スープは音を立てずに飲むのです。私を手本にして真似てみてください」

 

「……こうですか、お姉さま」

 

「大変よろしい」

 

 食事の仕方を教えながら、ひとりではない晩餐を迎えていました。

 いやあ誰かと食べる食事っていいものですね。

 今日の晩餐は黒パンに豆のスープ、そしてサラダです。

 質素に見えるかもしれませんが、……実際、質素な食事ですね。

 

 私はどうも豪勢な食生活に頓着がなかったらしく、あっさりと庶民の食生活に順応していました。

 駄菓子を愛する貧乏舌に感謝ですね。

 侯爵家にいた頃とは違うのですから、このくらい質素な食事で十分なんですよ。

 

 私は「パンは一口大に千切って食べなさい」「サラダをフォークで食べるときの手が優雅じゃありません。無理なく口に入れられるだけを取って食べるのですよ」などと指摘を繰り返しながらホルトルーデに食事マナーを仕込んでいきます。

 

「食事の仕方ひとつ取っても、色々な規則があるのですね。知識にないので新鮮です」

 

「ホルトルーデ、食事のマナーは目の前にお手本があるので、知らない料理が出てきたら私の真似をすることを心がけるといいですよ」

 

「なるほど。お姉さまを真似していれば間違いありませんね」

 

 食事を終えたらお湯を沸かして身体を拭きます。

 背中を洗いっこしてから、髪を良く乾かしてから就寝です。

 ベッドはひとつしかありませんが、ダブルベッドなので狭くはありません。

 広いベッドに慣れていた私ですから、ダブルベッドを購入していたのです。

 

 部屋にふたつ目のベッドを置くスペースまではないので、ホルトルーデと一緒に寝ることになりますね。

 

「おやすみなさい、お姉さま」

 

「はい、おやすみホルトルーデ」

 

「お姉さまはまだ眠らないのですか?」

 

 ベッドで横になったホルトルーデが、椅子に腰掛けて灯りの魔法具をつけて本を開いている私に問うてきました。

 はい、夜ふかしする気まんまんです。

 

「私はこの本を少しだけ読み進めたら、眠ります。ホルトルーデは先に眠ってください。灯りがうるさいかもしれませんが、そこは勘弁してくださいね」

 

「はい。それでは先に休みます。おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい、ホルトルーデ」

 

 初日ですから疲れていたのでしょうか。

 ホルトルーデはすぐに深い眠りに落ちていきました。

 

 さて私はといえば、この前購入しておいた古代語の本を翻訳しつつ読み込みます。

 一行一行、丁寧に訳しながら文章の意味を把握していきます。

 

 ……どうやら日記のようですね。

 

 古代語の文献は、遺跡から様々なものが出土しています。

 ダンジョン産の古代語の書物も同様に玉石混交。

 娯楽小説のようなものから、学術書まで幅広く、しかし読んでみないことには内容が分からないので、有益な情報を得るためにはとにかく数を当たるしかありません。

 

 私の錬金術や時空魔法は、学院でホコリをかぶっていた閉架書庫にあった分厚い古代語の学術書から得たものです。

 五年間の学院生活の多くを図書館で過ごしてきた私にとっては、毎日が古代語との格闘の時間でした。

 司書さんと仲良くなり、閉架書庫にある誰も読まない難解な古代語の書物たちを見つけたときは内心で小躍りしましたね。

 

 さていま読んでいる日記ですが、どうやら古代魔法文明時代の名うての魔法具研究家のもののようです。

 私が使っている〈原質分解〉や〈複製〉の混ぜ棒、あれも古代語の書物で得られた知識から自作した魔法具です。

 かように有用な魔法具の情報は、学術書ではなく日記や小説から魔法の内容を類推して何度も失敗を繰り返しながら作ったものでして、つまり日記といえど有益な情報が隠されていることがあるので、あなどれないのですよ。

 

 私は登場する魔法具――現在では失われた数々のそれらに想像を膨らませながら、日記を読み進めていきます。

 

 ……ああ、せめて作り方のヒントでもあれば良かったのに。

 

 日記には試行錯誤をしたとしか書かれていません。

 その試行錯誤の内容が知りたいというのに……。

 

 まあいいです。

 夜も遅いので、今日はもう眠りましょう。

 

 ホルトルーデの横に潜り込み、私は眠りに落ちました。

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