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……あの小娘、上手くやっているだろうか。(byアルベリク)

ブックマーク50突破記念。

 俺様の名はアルベリク、この迷宮都市で最も強い冒険者だ。

 今日は仲間とともにダンジョンの第十七階層に潜っている。

 

「アルベリク。周囲に魔物の気配なし。一息、つけそうね」

 

 斥候のエイミーが切れ長の目を左右に走らせながら伝えてきた。

 この階層の魔物はかなり狩ったからな、リポップするまで時間があるのだろう。

 俺様は休憩を指示して、地面にマントを敷いて腰を下ろした。

 座った途端に、身体中にどっと疲労感が押し寄せてくる。

 前線で剣を振るい続けてきたツケだ。

 このまま眠りたい衝動に駆られるが、ここで居眠りなんかしたら死ぬ。

 

 第十七階層の安全地帯はまだ遠いのだ。

 そこまで行けば、今日はゆっくり眠れるだろう。

 

 俺様は保存食を取り出し、水袋に入っているワインで硬パンを食べる。

 酒気で眠気を催すが、硬パンで腹を満たしておかねば、空腹のまま戦わねばならない。

 安全地帯まではまだまだ距離がある。

 今のうちに腹を満たしておくのは必須だ。

 

 ドライフルーツにも手を付ける。

 柔らかくニチャニチャとした食感だが、味は悪くない。

 それもそのはず、ドライフルーツは冒険者ギルドで扱っている保存食ではなく、俺様たちのパーティが個人的に市場で購入しているものだからだ。

 

 ……あの小娘、上手くやっているだろうか。

 

 錬金術師の娘のことを思い出す。

 美味い保存食は必要だ、と俺様は考えている。

 硬くて塩辛い干し肉と、硬パンとドライフルーツ。

 水袋にワインを入れてあるものの、干し肉と硬パンは噛み続けていると顎が痛くなる代物だ。

 しかも味はイマイチときている。

 ダンジョンに何日も潜るのに、食事がこれではいずれもっと深い階層に潜ったときに、食事で苦労することになるのは目に見えていた。

 

 腹を満たしてから、眠気でまぶたが落ちそうになるのを堪えて奥歯を噛みしめる。

 リーダーである俺様がみっともない姿を仲間に見せるわけにはいかない。

 

 腰の剣を抜き、丁寧に手入れをする。

 欠けた部分が気になる。

 地上に戻ったら研ぎに出さなければならないだろう。

 

 ……もう少しの稼ぎでミスリルの剣が手に入る。それまでの辛抱だ。

 

 魔法銀の剣ならば多少乱暴に扱っても刃が欠けることはないと聞く。

 高価だが、それに見合った代物だ。

 

 エイミーが腰を上げた。

 魔物の気配を察知したのだろう、俺様は立ち上がった。

 

「アルベリク、魔物が来る」

 

「分かっている。全員、立ち上がれ。休憩は終わりだ」

 

 暗闇を切り裂いて現れたのは、三体のメイズグリズリー。

 俺の胸辺りまでしか無い小柄の魔物だが、舐めてかかれる相手ではない。

 〈マナライト〉の灯りの範囲内に入ってきた三体のうち、一体を俺様は受け持つ。

 残り二体は他の連中がなんとかするだろう。

 

 大剣を振るう。

 空気を斬り裂き、メイズグリズリーの肩に叩き込んでやる。

 重い肉を断つ感触が手に伝わってきた。

 眼前のメイズグリズリーは苦痛に咆哮し、逆側の腕を伸ばす。

 爪は俺様には届かない。

 なぜなら剣を手放して、バックステップしていたから。

 

「たらふく喰らえ。――〈フレイムジャベリン〉!」

 

 炎属性の投槍がメイズグリズリーの頭部に炸裂した。

 炎が肉と毛を焼く臭い。

 体勢を崩したメイズグリズリーの肩に刺さっていた大剣の柄を取り、引き抜く。

 

「〈ヒートウェポン〉!」

 

 大剣が燃え上がり、熱を帯びる。

 後ずさりしているメイズグリズリーの頭部に大剣を上段から振り下ろす。

 グシャリ、と頭蓋を叩き割った感触に一体を仕留めたことを確信する。

 

 さて残り二体はどうなった?

 

 仲間たちはなんとか二体と渡り合っていた。

 槍使いのロジーが距離をとって牽制しつつ、魔法使いのイェニーが〈アイスブレイド〉を放っている。

 

 一体はこれで倒せそうだ。

 もう一体の方は……やや危なっかしい。

 斥候のエイミーが短剣二刀流で舞うように回避に専念している。

 メイスと盾を持った神官戦士のオグマがシールドバッシュをしながらエイミーを支援していた。

 弓を手にしたボルツが矢を片手に機会を伺っている。

 仲間に当てまいと鋭い瞳で戦況を観察していた。

 

「エイミー、オグマ、加勢するぞ」

 

「助かるわ」

 

「頼む、アルベリク!」

 

 俺は〈ヒートウェポン〉で燃え盛る大剣を手に、メイズグリズリーに斬りかかった。

 

 * * *

 

 熊を解体して皮を剥ぎ、魔石と肉を取る。

 肉は特殊な薬液に漬けなければ魔素が毒となる。

 ただし下処理さえすれば美味なのは確か。

 地上に売却すればいい値段で売れるのだ。

 

「毛皮と肉、全部持って帰れるか?」

 

「一応は。ただ、もう荷物が一杯だ。そろそろ帰還してもいい頃合いじゃないか?」

 

 ロジーが荷物を整理しながら言った。

 俺様の荷物もだいぶかさばっている。

 予定よりも早いが、確かにここらが潮時だろう。

 

「よし、荷物をまとめたら地上に戻るぞ」

 

 仲間たちから弛緩した空気が漂ってくる。

 ようやく地上に戻れることに、安堵しているのだ。

 

 俺様としてはもっと下の階層に挑みたいのだが。

 

 ……地上に戻ったら錬金術師の小娘の様子でも見に行くか。

 

 保存食の開発は順調だろうか?

 食事事情が改善したら、ダンジョンで過ごす時間を伸ばしても大丈夫なようになるだろう。

 俺様はもっと下に、ダンジョンの下層に挑みたいのだ。

 

 地上に戻れると喜んでいる仲間たちに苛立ちに似た感情を抱く。

 もっと下へ、ダンジョンの最奥を覗いてみたいとは思わないのだろうか。

 

 俺様はダンジョンを制覇し、歴史に名を刻みたい。

 吟遊詩人が歌うサーガの主役になりたい。

 何も為さぬまま、老いて朽ちていくのだけは勘弁して欲しかった。

 

 俺様は、生きた証をこの世界に刻み込む。

 そのためには何だってやってやる。

 

 俺様は〈マナライト〉が照らす闇の向こう側を睨みつけて、いずれはその先に足を踏み入れるぞ、と心中で呟いた。

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