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破談と破断をかけたわけじゃないですよ。

新連載です。内容も進行もまったりめで進めていきます。

 唐突ながら、私は婚約を破棄されました。

 六歳の頃に結ばれた約束は、あっけなく十年の歳月の重みに耐えかねるかのように破断したのです。

 

 破談と破断をかけたわけじゃないですよ。

 こちとら真面目な話をしていますからね?

 

 私は侯爵家の長女であり、上にいるふたりの兄から可愛がられてきた生来からの甘えん坊です。

 この将来を舐めきっている小娘と婚約を結ばせ遊ばれたのが、次期国王の座が内定しているふたつ年上の王太子でした。

 

 六歳の頃は漠然と「本物の王子様と結婚できるなんて夢みたい」などと無邪気に思っていた私だったが、年経るにつれて「それ本当に幸せになれるの?」という疑問が頭をもたげてきたのです。

 何故なら私という奴は、上級貴族の生まれながら貧乏舌の持ち主で、城下町の駄菓子が大の好物であり、ダンスを踊らせればパートナーの足を親の仇かと思うほど踏みまくり、あげくの果てに読書という他人と話題を共有し辛い趣味の持ち主であったのだから。

 

 読書という趣味は、例えば学院で本を読んでいると「なにあのガリ勉」とか「話しかけるなってこと?」とか言われる不遇な趣味なのです。

 その挙げ句、「で、君の読んでいる本とはどんなところが面白いの?」なんていう絡まれ方をしたら最悪ですね。

 いちいち私がそのときに読んでいる本がどのような内容なのか説明して、その面白い部分を解説しなければならないわけで、ともかく一方的に喋らされるわけですよ。

 私も疲れるが相手も「うわぁ」ってなりますよね?

 

 かくや王太子様の方はエレガントの一言。

 趣味は楽器演奏、ダンスはパートナーにどれだけ足を踏まれても微笑みを絶やさないナイスガイ、社交的で常に人の中心にいます。

 

 彼が日向の存在なら、私は日陰の存在です。

 

 陰と陽。

 まるで噛み合わない。

 

 だから「私たちの婚約、なかったことにしたい」と言われたとき、私はなによりまず納得したのでした。

 

 * * *

 

 侯爵家、つまり実家から放逐されましたとさ。

 

 私は身の回りのものを時空魔法の〈ストレージ〉に仕舞い、家を出ましたから、しばらく暮らしていくくらいの財産は持っていたわけですね。

 しかしながら王都に居続けられるほど神経図太くないし、空気を読んで王都からは離れることにしました。

 

 行く先は迷宮都市。

 ダンジョンの産物で成り立つヤクザな街です。

 

 そう、私は第二の人生に冒険者を……選びませんよ、そんな危ない職業。

 

 じゃあ何をしに迷宮都市へ行くことにしたのかと言うと、ダンジョンで時折見つかる古代語の本が目当てです。

 私、何を隠そう古代語の翻訳は国内随一と自負しておりますの。

 

 そんなわけで迷宮都市を目指すのは決定なのですが。

 まず馬車の手配は必須ですよね。

 徒歩では何ヶ月もかかる上に、途中で山賊や魔物に襲われたら簡単に死にますから。

 時空魔法?

 そりゃ次元を斬り裂く〈ディメンション・ソード〉とかいう物騒な魔法もありますけど、消費魔力が大きくて乱発できないし、そもそも命がけのときに咄嗟に撃てる気がしないので却下です。

 

 というわけでまずは持ち出した身の回りのものを売りさばいて現金を作るところからですね。

 宝飾品はどこへ行ってもお金になるので、王都で換金するのはドレスにすることにしました。

 もう着る機会もないことですし、貴族向けの古着屋に売り払いましたよ。

 

 その結果、持ったことのない数の金貨を受け取ることになりました。

 必死にかばんに詰め込むフリをしながら〈ストレージ〉に入れましたとも。

 

 現金を入手したら、いよいよ馬車探しです。

 幸い、迷宮都市と王都との定期便があるので、それに乗れば大丈夫でした。

 もちろん素性は隠さねばなりません。

 話題の王太子から婚約を破棄された侯爵令嬢だなどとバレては、おちおち旅もできませんから。

 

 一週間ほどの馬車の旅は、適度に退屈で、適度に刺激がありました。

 私の旅行歴は侯爵領との往復くらいしか経験がなく、庶民の乗る馬車の乗り心地の悪さには閉口せざるを得ませんでしたし、それがちょっと楽しいのもまた認めざるを得ないところでして。

 また一週間の馬車旅限定でお友達もできました。

 

 一家で王都から迷宮都市へお引越しするスーザンちゃんとその家族です。

 私は一見して平民の娘にしか見えないので、ひとり旅を大層心配されました。

 

「家族はおりません」

 

 と言ったら何かを察してもらえたらしく、やたら優しくされましたけど。

 勘当されただけで、家族はみんな元気でやってるはずなんですけどね。

 

 スーザンちゃんの家は代々鍛冶師の家系だそうで、王都で一人前になったお父さんが独り立ちをするのに選んだのが迷宮都市なんだとか。

 武器や防具の需要は、やっぱり平和な王都よりも迷宮都市の方があるということでしょう。

 

 職人街に家屋つきの店舗を既に購入済みらしいです。

 職人街かあ。

 私も手に職をつけて生活費を稼ぐ必要があるので、職人街に住むのは悪くない選択肢だと思いました。

 

 実は読書の次に錬金術が趣味で、実家にいた頃は夜な夜な錬金釜をかき混ぜて夜ふかししていたものです。

 

 決めました、私、錬金術で食べていきます!

 

 素材を購入して錬金術で加工して売る。

 雑貨屋というくくりになるのかな。

 迷宮都市なら最悪、ポーションの需要はあるわけですから、やっていけないこともないはずです。

 幸い、愛用の錬金釜は持ち出したことですし。

 

 ようし、迷宮都市についたら宝飾品を売却して、工房を買いましょう。

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