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水森さんはエルフに転生しましたが、 【本編完結済】  作者:
3章 エルフ代表者事務局員
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72. 神の子の一行

 ルルシアが引き止められつつもランバート邸から自宅に戻ったころ、シャロはテインツ教会のマイリカの保護下に入ることが内々に決まった。だがまだシャロ本人には知らされておらず、彼女は現在も拘留施設で過ごしている。

 ルルシアがたまにお菓子を持って顔を出しているので、多少打ち解けてきた…とルルシアは思っている。

 一方でアドニスは目を覚ましたものの、まだまともに喋れる状態ではないらしい。だが視線や簡単な腕の動きでの意思疎通はできているらしいので意識はしっかりしているようだ。

 ちなみに意識を取り戻して真っ先に発した言葉は「シャロは」だったらしい。無事に保護されたと聞かされると再び気を失ってしばらく起きなかったというので本当に心配していたのだろう。



 そして、オズテイルからの工作員が一掃できて、エフェドラの教会内で不正などに関与していた教会派を告発する目処もつき、安全が確保されたということでテインツの教会に滞在していた神の子の一行はエフェドラに帰ることになった。


「教会に所属しなくても護衛なら外部委託っていう形で押し通せるんだよ」

「そうそう。それにエフェドラにもエルフ事務局はあるからそこに移籍する手も」


 というわけで、ソファに座ったルルシアはエフェドラへの帰還を間近にした神の子の双子に両脇を挟まれていた。

 テインツを離れる前に挨拶をしたいと言われ、ライノールとともに教会へやってきたのだが、双子はどうしてもルルシアを一緒に連れていきたいらしく、もうかれこれ十分以上左右から交互に説得を続けられている。


「ほらお子様方、あまりしつこくするともう会ってもらえなくなりますよ」

「「ぶー」」


 お茶の給仕を終えたカリンが声をかけてくれてやっと渋々ながら双子がひいた。

 ルルシアとしても二人が自分に懐いてくれているのはとてもうれしいのだが、今のところテインツから、そしてオーリスから大きく離れるつもりはない。


「セネシオさんじゃなくてルルシアさんに来てほしかったのに!」


 そういってルチアが頬を膨らませる。セネシオは今回の神の子一行にくっついてエフェドラへ行くのだそうだ。「一旦懐かしのエフェドラに顔出して、ついでにオズテイルもちょっと脅してくるよー」と言っていたのがなんとも恐ろしい。

 テインツの浄水施設のこともあるからそれほど長居はせずにこちらへ戻ってくる、とも言っていたので、さすがにオズテイルの一部を更地にするようなことはしない…と思いたいところである。


「でもセネシオさんは初代の神の子のアルセア様を直接知ってるから、色々お話聞けるんじゃないですか?」

「僕たちも始めはそう思ったんですけど…」


 ルルシアが少しぐらいセネシオの株を上げてやろうと言った言葉に、ハオルがなんとも微妙な顔をした。ルチアに至っては完全に苦虫をかみつぶした顔をしている。


「セネシオさんが遊びで手を出した子が本気になっちゃって、アルセア様を亡き者にしようと刺客を送ったんだけどアルセア様本人が返り討ちにした話とか聞きました。ついでにセネシオさんもぼこぼこにされたって」

「……」

「あと、セネシオさんの子供がおなかの中にいるからその女と別れて一緒になってって言ってきた女の人に、アルセア様が『おなかの子の将来のためにこんなクズに任せられないから貴女も貴女のおなかの子も私が面倒を見ます』って言ったとか。妊娠してるっていうのは嘘だったらしいけど、その女の人は完全にアルセア様のファンになっちゃったって」

「…アルセア様かっこいいですね…」

「あいつ子供に何話してんだよ…」


 確かにアルセアの話ではあるが、それよりもセネシオの安定したクズっぷりにめまいがしてルルシアは頭を押さえる。ライノールも似たような様子だ。護衛として壁際に控えていたキンシェが「ですよねぇ」と頷く。


「いや、初めはあの人俺とキャラかぶってない?って思ったんすけど、さすがに俺もあそこまでじゃないなって思いましたもん」

「あれはねー。見た目が良くてもさすがにちょっとどころじゃなく引くわー」


 カリンも頷く。それを真剣な表情で見ていたルチアが、ライノールに目を向けて「これは真面目な話なんですけど…」と切り出した。


「ライノールさん…セネシオさんをここに残していくのでルルシアさんをこっちにください」

「その提案、こっちにマイナスしかねえな」

「仕方ない、じゃあルルシアさんは諦めます…セネシオさんとライノールさんがこっちに来て、そのあとルルシアさんとセネシオさんを交換しましょう。…これはすごい譲歩ですよ?」

「それは名案だね、チア」

「何も譲ってねえしマイナスが増えてるじゃねぇか。何が名案だ」

「「ぶー!」」


 またもや不満げに頬を膨らませた双子を、カリンがすました顔で「まあまあ」と宥めた。


「ルルシアさんとかライノールさんがこっちについてくれたらうれしいですけど、ハオル様もルチア様も前よりは少し自由に過ごせるようになる予定ですし、落ち着いたら遊びに来てもらえばいいじゃないですか」

「うん…」

「…まあ、エフェドラ行きは時期を変えて蒸し返すとして…」

「蒸し返すのか…」


 ハオルの言葉にライノールがげんなりした顔で呟く。

 それに対しハオルは「もちろんです」と笑顔を見せた後、ルルシアを見た。


「…ルルシアさんはシャロっていう子と話したことがあるんですよね」

「はい。何回か話してますよ」

「マイリカ様が引き取るそうですけど…あの、危険な子ではないですか?」


 やはり襲撃してきた相手をマイリカが引き取るというのは心配なのだろう。ルルシアは「うーん」と言葉を探して首を傾げた。


「セネシオさんが魔力を封じたのでもう魔法は使えませんし、彼女自身は戦闘の訓練などは受けてないみたいです。そう言う意味では危険ではないですね。性格的な部分は…うーん、悪い子ではないと思います」

「一緒にいた男の命令をきいてやってただけで、あいつ自身に他人への害意とか、悪意みたいなもんはないだろうな。あの男が敵に回らん限りは何の問題もない」


 ルルシアのなんとも抽象的な評価に、ライノールが付け足す。


「…その男の人は、今どうしてるんですか」

「瘴気で倒れてる。回復しつつはあるけど影響は残るかもしれないって話だ」

「でも、あの人は回復しても教会に…シャロを保護するって言ってるマイリカ様に敵対するようなことはしないと思いますから大丈夫ですよ。ね、ライ」

「だろうな。どういう理由でオズテイル側に加担してたかは知らんが、周りの評判とかシャロの様子を見る限りどっちかって言うとお人好しだっていう印象だからな…」

「そうですか…」


 ハオルは少しほっとした表情を浮かべつつも、瘴気か…と少し複雑そうな顔をした。彼も瘴気で苦しんだのでそれを思い出しているのかもしれない。そのハオルの腕を、ねぇねぇとルチアがつついた。


「瘴気の影響だったらハオと私でどうにかしてあげられないかな」

「…わかんないけど、やってみる価値はあるかも?」

「それなら…」

「やめとけ。理由があろうと犯罪に加担してお前らの命を狙ったんだ。そんな奴に気軽に癒しを与えるのは真っ当に待ってたお前んとこの信者に対して失礼だろ」


 双子がパッと顔を明るくしたところに、ライノールが冷たく言い放った。口は出さないが、キンシェやカリンも同じように考えているのだろう。複雑な表情をしていた。


「そう…ですけど…」

「で、でもそういう相手にも慈悲深く癒しを与えるって、宣伝効果ありますよ」

「そういうのをやめるために教会内で上層部追い払ってる途中だろうが。周りがお前らを守ろうと動いてるのに、渦中の奴がそこで例外を作るな」

「はい…」


 ライノールに叱られて双子はしゅん…と肩を落とす。

 ライノールの言ってることは正しい。だが可能性があるところに手を差し伸べたい双子の気持ちもわかる。その両立はできないのだろうか…と考えていたルルシアはふと思いついて口を開いた。


「瘴気の影響を受けたあと時間が経ってからでも癒しの効果があるかどうかは現状分からないですよね? だとしたら、癒しの効果を確認するための実験協力要請とかだめかなぁ…それでもし可能なら、そういうので困ってる他の人が助かるでしょう? 治験っていうんですかね、こういうの」


 ルチアがなるほど!と胸の前で手を合わせた。


「癒しを与えるんじゃなくて、症状がある患者に協力してもらって治療の可能性を探る…ってことですね?」

「! それは今度こそ本当に名案ですね」


 双子が揃ってバッとライノールの方を見る。ライノールは苦笑しつつも少し考えこむ。


「…まあそれなら…ただ、それでやろうとするなら教会として正式に協力要請すべきだな。あいつの身柄は今テインツの冒険者ギルドで預かってるから、本気でやる気ならそっちの方に聞いてみろよ。教会側の許可が先だが」

「「はい!」」


 双子は「センナに言ってこよう!」「マイリカ様に先に相談した方がいいよ!」とバタバタ部屋から出て行った。その後を「やれやれ元気なことで…」とキンシェが追っていった。

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