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水森さんはエルフに転生しましたが、 【本編完結済】  作者:
3章 エルフ代表者事務局員
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59. 封印が解けて第二形態に

「…もしかして、その封印が完全に解ければ私も転移魔法が使えたり…」

「それはない」

「即答ぉ…」


 ルルシアの言葉は途中でライノールにざっくりと切り捨てられた。


「まあまずは白髪娘の話のほうだろ。男の方は意識がなくて白髪娘はだんまりだ。はっきりとわかってるのは二人が教会の清浄派のフリしたオズテイルの工作員の命令で動いてたってことだけだ。清浄派の中で行方をくらませた連中が何人かいたって聞いてるだろ。その連中が工作員だったらしい」


 つい先日までこの国の国教であるアルセア教は、癒やしの力を持った神の子を金儲けの道具として利用していた教会上層部からなる『教会派』、その腐敗を是正するために神の子を失脚させ教会の権力を削ごうとする『清浄派』、他の二派から神の子を守ろうとする『神の子派』――という三派に分かれていた。

 つい一月ほど前、清浄派の一部が暴走を始め、神の子の殺害計画が実行された。計画は結局失敗に終わり、その後清浄派と神の子派は和解しているのだが――和解後、清浄派のトップが暴走の原因追求を行うと、清浄派の構成員のうち数名が行方をくらませていることが明らかになった。その数人が隣国オズテイルの工作員だったのだ。


 オズテイルの目的は神の子を殺害しアルセア教会を、ひいては教会都市として成り立っているエフェドラを弱体化させ、侵略し占拠すること。


 だが、侵略しようにもオズテイルは内乱状態で、いかに弱体化しようともフェドラに割く戦力はそれほど多くはないはずである。

 おそらくオズテイル側も本腰を入れていない計画なのだろう。工作員たちは完全に使い捨ての道具扱いだったのだ。

 彼らはオズテイル内で犯罪者として扱われており、計画が成功すれば恩赦を受けられると言われエフェドラに送り込まれたという。失敗すれば戻る場所がなく、また計画を第三者に話そうとすると発動する爆発魔術をかけられていたため助けも求められないという状態で潜伏していた。

 自分の命を人質として取られた彼らは清浄派を焚き付け、金でごろつきを雇い、神の子を殺害するために動いていたのだ。

 そこで雇われたのがシャロたちだった。実行犯として動いていた者たちの多くは今回の騒動で魔物に襲われ死亡。かろうじて生き残った、工作員を含む数人がすべての経緯を証言したらしい。


「あれ、工作員は喋ったら爆発するって言ってなかったっけ?」

「オズテイルの連中がどれだけ周到だったとしても、まさか古代種が魔術を無効化するとは考えなかったんだろ」

「無効化しちゃいました。褒めていいよ?」


 セネシオがドヤ顔をする。とてもすごいし、それによって人の命が救われているのだが、すごく褒めたくない気持ちになる顔だ。


 魔術から解放された工作員は堰を切ったように洗いざらいすべてを喋ったそうだ。――そして、そこで語られた採石場での出来事はなんとも無計画なものだった。


 瘴気を魔物に注ぎ込むことで人為的に魔獣を作り出すことが出来るということをシャロから聞き出した工作員たちは、捕獲した魔物を魔術で縛り付け、シャロに瘴気を注がせて魔獣を作ろうとしたのだ。

 彼らはよくわかっていなかったようだが、無理やり魔獣を作り出すということは高濃度の瘴気を使うということでもある。彼らがその事実に気づいたのは、魔物に注ぎ込む際にあふれ出したり、魔獣自体から放出されたりした瘴気が辺りに立ち込めて、周りの人々が倒れ始めた時だった。

 さらに、瘴気があれば魔物が集まって来る。

 最悪なことに、集まり始めた魔物に襲われ真っ先にやられたのは、魔物を縛り付けるために魔術を使っていた魔術師たちだった。魔術を使っている間は無防備な状態となるのに、護衛役を用意していなかったのだ。


「ひどい。杜撰すぎる」

「賢くて計画的な奴らだったらそもそもオズテイルだって捨て駒にはしないだろ」

「そりゃあそうだけど」


 縛るものがなくなった作りかけの魔獣は錯乱状態になっていた。――おそらくこれは急激に大量の瘴気を与えられたせいだろう。猪と熊という二頭の魔獣は、人も、魔物も、目につくもの全て手あたり次第襲いだし、その爪は当然ながらシャロにも向けられた。その時アドがシャロをかばうために間に入り、背中に傷を負ったのだ。

 目の前でアドが倒れるのを見たシャロはパニックを起こした。すぐに瘴気を操って魔獣や魔物を採石場の外へ追い出し、そして誰も近づけないように瘴気の壁を作った。


 結局その瘴気に彼女自身も蝕まれてしまったのだ。更に、魔力を放出しすぎたせいで身動きが取れなくなっていた…というのがルルシアたちが見たあの状態だったようだ。


「生き残ったやつらは拘束されたし全員自供もしてる。死んだやつも大体確認取れて、行方不明になってた元清浄派の工作員の連中は全員見つかったみたいだな。シャロに関しては既に魔力が封じられてるのと…多分、まともな教育を受けてない。その辺も合わせて処遇の決定には時間がかかるかもな」

「確かに、言動が幼い感じはしたけど…少なくともテインツの集落には所属してないって言ってたもんね」


 エルフの子供は、孤児となっても所属する集落の大人たちが協力して子供を育てる。他ならぬルルシアがその例である。教育を受けていないということは、どの集落にも所属することができなかった、もしくは、意図的に教育を受けさせなかったということになる。

 総数がそれほど多いわけではないエルフ社会で前者は起きにくい。つまり後者――瘴気を作り出すシャロをネグレクトという形で教育を受けさせなかった集落があるのだ。


「…胸糞悪い」

「まあな。うちの局長様もお怒りみたいだったし、その集落がどこだったかもそのうち割り出されるだろ。まあ、とにかくお前が気絶してる間の出来事はそんなもんだ」

「町の方の被害は?病院が混んでるってメリッサさんに聞いたけど」


 魔物が町の方に入ったりしたのかもしれないと心配だったのだ。だが、ディレルがルルシアを安心させるように「大丈夫」と微笑んだ。


「町の方に被害はなかったよ。怪我して病院の世話になったのは冒険者たちだね。魔物の数が多かったのと、瘴気の影響で町の周辺でも魔物が出たみたいで…でも重傷とか死者は無し。逆に稼ぎになったって喜んでる連中のほうが多いくらい」

「それなら良かった…」


 ルルシアはそれでようやくほっと息をはいた。襲撃者の中に死者が出てしまったようだが、それでも起きた出来事からしたら死傷者は最小限に抑えられた方だろう。


「じゃああとは、セネシオさんの正体と、私の封印が解けて第二形態になるという話ですが」

「第二形態って何だよ」

「だって、魔力が封じられてるっていうことは、それが解けたら魔力がもっと使えるようになるってことでしょう?」

「ほとんど解けてるって言われただろ。ほとんど解けた状態でお前は鼻血出したんだよ。そこがお前の限界だ」

「ええ…なにそれ…何のために何を封じてたの…」


 しょんぼりと肩を落としたルルシアに、ライノールはちらりとディレルの方を見た。そして「まあいいか」と呟いた。


「記憶だよ。お前の前世とやらのな」

「…へ?」

「前世?」

「ああ、ルルシアちゃん前世持ちかぁ。ちょっと変わってるなとは思ったけど、なるほど」


 ライノールの言葉に、ルルシアとディレルはぽかんとして、セネシオは恐ろしくすんなりと受け入れた。


「ライ、私が記憶があること昔から知ってたの!?」

「そこまで細かい記憶があることは知らなかった。お前、高いところから落ちたかなんかして死んだんだろ」

「あー…うん」

「赤ん坊の時、少しでも体が浮くと狂ったように泣いて引き付け起こして大変だったんだよ。ルミノアさん…お前の母親が困って占術の得意な奴に占ってもらったら『前世で死んだ瞬間の記憶が鮮明すぎて悪影響が出てる』って言われて、それで記憶封じの魔法をかけたんだ。その時魔力の一部も封じる形になっちまってただけで、魔力を封じてたわけじゃない。副作用みたいなもんだよ」

「…ルチア様は小さい頃から記憶があったって言ってたけど、私も同じだったんだ。っていうかそれでライは驚かなかったのね」

「まあそういうことだな」


 ルルシアは「そういうことかぁ…」と呟いて、話についていけず戸惑った顔をしているディレルの方を向いた。


「ディルには後でもっとちゃんと説明するけど、わたし、エルフとして生まれる前の、人間として生きてた頃の記憶があるの。だから、普通のエルフよりもちょっと変なところがあるんです」


 ディレルは少し考えるように視線を宙にさまよわせ、首を傾げた。


「……ちょっとなの?」

「え?ちょっとですけど?」


 ぶはっと噴き出したライノールにルルシアはすかさず枕を投げつけたが、枕は風で押し戻されてルルシアの顔面にぶつかって落ちた。

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