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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
終章 エトゥールの魔導師
999/1015

(18)絆⑱

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


ブックマークありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 ディム・トゥーラは長々とカイルの顔を(にら)みつけてから、もう一度深い溜息をついた。


「もういい、この話はあとだ。とりあえずこの領域からでて、イーレ達と合流するぞ」

「イーレ達がきているの?」

「もちろんだ。ここに来たことがあるのはイーレ達とお前の専属護衛しかいない」

「もしかしてミナリオも?」

「当然だろう。どれだけお前の関係者が心配したと思っている?各々(おのおの)に説教されろ。いい気味だ」


 不吉な予言をして、ディム・トゥーラは再びカイルの連行を始めた。


 ディムにとりなしてよ、というカイルの懇願(こんがん)の視線をアードゥルは受けた。アードゥルは無情にも首を振った。

 人にはできることと、できないことがあるのだ。


「どうやってあの異空間の位置を割り出したんだ?」


 気まずい沈黙の行進を破ったのは、アードゥルだった。彼は歩きながら、ディム・トゥーラに問いかけた。


「まさしく異空間だと仮定して、物理的な計測値に頼って、おおよその中心地を割り出したんだ」


 ディム・トゥーラは答えた。


「物理的?」

移動装置(ポータル)じゃなく、空間と異空間が繋がっているなら、痕跡のような歪みは生じているのでは、と考えた」

「ほう……結果は?」

「ここらへんは、重力波が乱れている。重力波異常の境界線を測定で割り出して、その円周曲率からおおよその中心位置と距離を割り出した。気休めに安全帯(ハーネス)を用意したんだが、案外正解だったと思ってる」

安全帯(ハーネス)など、よく思いついたものだな」

「死んだサイラスがよく、言ってた。洞窟などの探索で、端末が使えない時の原始的だが、有効な手段だと。イーレが武器を拒絶する領域だと言っていたから、機械も拒絶する可能性があるだろうと予想はした。事実、端末の所持をウールヴェに否定されたんだ」

「ウールヴェが?」

「多分、端末を所持していると、入り口が見つけられなかったと思う。道の途中でおいてきた。忘れずに回収しないとな」


 アードゥルは、しばらく黙ったあと、呟いた。


「……どういう基準なんだろうな?武器は殺傷や(けが)れの理論だと推察するが……ここでも矛盾(むじゅん)が生じている」

矛盾(むじゅん)?」


 ディムは聞き咎めた。


「人の血で汚れている剣などの武器類は不浄なものとされる風習もある。だから剣を持ち込ませなかった、とも考えられるが……。だが、多数の地上人を殺害した経歴を持つ私など(けが)れそのものだと思うが?私など拒絶されて、吹き飛ばされても文句は言えない存在だ」

「だって、()()を助けてくれたじゃないか」


 カイルが口をはさみ、二人は発言者に注目した。

 僕達――無意識にカイルが使っているなら、危険な兆候だ、とディムは思った。意識の境界線が曖昧になっている症例だった。


「それが免罪符になるのか?」

「なるよ。貴方が過去の行為で(ごう)を背負っていても、貴方が協力してくれることでこの先、何千、何万いやそれ以上の人々が飢えることなく生きることができる。穢れなんて清算されちゃうレベルでお釣りがくるよ」

「……私は何もしていないが?」

「地下拠点を一緒に発見してくれた。エレン・アストライアーの地下遺構を一緒に発見してくれた。それを避難地と使用してくれるのを認めてくれた。最後に恒星間天体の質量を減らすことに手を貸してくれた――」


 カイルは、つらつらと項目をあげた。


「そんなことが加点になるのか?」

「そんなことどころじゃないよ。本当にそんなことどころじゃないんだ。だって貴方が協力してくれなければ、歌姫もエルネストも関わらなかった。最悪の未来ってなんだったと思う?民衆の暴動の末、王族であるセオディアやファーレンシアが殺害されることだ。そうなっていたら、僕は地上を救わなかったと思う」


 意外な言葉で、ディムは呆気にとられた。だが、歩みは止めず、カイルの言葉を注意深く聞いていた。


「そんな可能性があったとでも――」

「あったよ。確かにそんな未来線もあったんだ」


 カイルは、小さく息をついた。


「大災厄で生き残った人々が、怒り狂った僕に惨殺(ざんさつ)される未来の一つが本当にあったんだ」

「……その未来は回避されたのか?」

「おかげさまでね」


 カイルは視線を落とした。


「僕にとっての最悪の未来は回避されている」

「…………この先は?」


 ディム・トゥーラは問いかけた。


「この先はどんな未来が待っているんだ?何を見た?」


 カイルはしばし黙った。


「いくつかの未来は見たけど、それは言うべきじゃないと僕は思った。だから僕は語らないよ」

「なぜ?」

「人々の選択を縛ってしまうからだよ」


 カイルははっきりと言った。


「僕が語ることで、人生を左右される人がいる。昔、僕はセオディアに軽い気持ちで、描いた地図を渡し、戦争の結果を大きく変えた。僕が語ることで、それと同じことが起きる」

「俺は地上の未来はどうでもいい。お前の未来を知りたい。()()をいつまで体内で飼うつもりなんだ?」

「…………わかんない」


 馬鹿正直にカイルが答えて、次の瞬間ディム・トゥーラに殴り飛ばされた。

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