(11)絆⑪
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「……やはり精霊――世界の番人の加護が欠けた状態だと?」
「前回はカイルのウールヴェが案内していたし、ナーヤが旅の先見をしていて、俺達は事前に準備した。そういう意味では、精霊の支援は間違いなくあった」
「…………やっかいだな」
信仰心のないディム・トゥーラにとって、精霊の見えない加護がどれほどのものかわからない。ないよりはあった方が、物事が順調に進むという曖昧な基準の価値判断をどう評価するべきか。
だが、プロジェクトを進行する場合、想定リスクの設定は重要だった。ディムはイーレの意見を求めた。
「イーレ、どう思う?」
「野営時は、防御壁を展開しましょう。馬をやられると問題だわ」
「他に問題になる野生生物は?」
「毒蛇や肉食動物はいるが、四つ目や野生のウールヴェほどじゃない」
「すると問題は、端末情報が使えなくなった時だな。クトリ、まだ測定値に異常はないか?」
『問題はありません』
「ディム、例の聖域にカイル達は本当にいるの?」
「いる」
ディムは間髪いれずに答えた。
森の聖地への道を辿るにつれて、ほんの微かなカイルの気配を感じるようになっていた。
「あの馬鹿は、この先に絶対にいる。どうしようもないことに足を突っ込んでいるに違いない」
支援追跡者の断言は妙に説得力があった。
「…………私はミオラスの元に帰りたいのだが……」
「だから、ごめんって」
「この異空間と外の時間の流れの差異は?」
「かなりあると思う。少なくともファーレンシアの出産は、無事に終わったよ。計算すると大災厄から、1ヶ月は経過していると思う」
「すると、ここの滞在が長ければ、お前は妻子が老衰する憂き目にあうと」
「不吉なことを言わないでよっ!」
「言いたくはないが、お前が元凶なんだからプレッシャーをかける権利はあると思うぞ」
「はい、おっしゃる通りで」
花園の中でアードゥルは胡座を組みカイルを見据え、カイルは正座をして神妙に聞いている。アードゥルは激情を抑え込んでいる方だと、カイルは思った。
カイルは二度目になる――夢を含めると三度目かもしれない――不可思議な空間を訪れていた。
一度目は、ディム・トゥーラの相方になる大人のウールヴェの探索で、カイルのウールヴェに連れてこられた時だった。あの時は、トゥーラに似た大人の狼型のウールヴェが来た。それはとんでもない飲兵衛であり、知恵者であり、初代であり、カイルの血縁者だった。
二度目は、確かカイルが能力を暴走させて、ディム・トゥーラの怪我を負わせたあとだった。ジェニ・ロウに捕獲されたロニオスの精神的ダメージが、カイルのウールヴェにまで反映されて子犬サイズに縮んでしまった。婚約の儀が近かったので、トゥーラの容貌の変化は大問題だったのだ。
聖堂でトゥーラを癒す力を、無意識に周辺に広げてしまったときに、この場所の幻を見た。
ウールヴェであるロニオスと出会った空間という説明は、アードゥルに絶大な鎮静効果があったようで、その当時の様子を根掘り葉掘り聞かれて時間は経過していた。
その時間の経過に罠があることに気づいたのは、ファーレンシアの出産だった。不意に流れ込んできたファーレンシアのカイルを求める切ない思念に、カイルは彼女が出産の激痛と戦っていることを悟ったのだ。
宥めて励まし癒しの波動を送った。上手く彼女に伝わっただろうか?
時間の流れが違う――カイルとアードゥルは、ようやく地上との差異を悟った。
「で、奴はどうした?」
「僕の中で眠っているよ」
世界の番人は、カイルと同調したまま深い眠りについている。世界を救うために『彼』は力を使い果たしていた。
カイルは消滅しかけている世界の番人と同調したまま、強引にここにくるという選択を咄嗟にし、存在の消滅を食い止めた。
安全な場所にカイルを連れて瞬間移動しようとしたアードゥルの強大な思念エネルギーを、渡りに船とばかりに強引に捻じ曲げ、転移の行き先をここにしたのだ。
ウールヴェですら直接転移できないと言っていた場所に転移できたことは、世界の番人と同調しているからか、世界の番人が衰弱しているからか――カイルには判断できなかった。
だが、この地にきたら世界の番人の衰弱は止まり、回復のための眠りについたことを感じられた。
その選択は正しく、カイルにしかできなかったことは彼自身が自負していた。
その正しさを証明するかのように、カイルが見える未来は、急に灯がともったように様々な道ができた。世界の番人が消滅する危機があったこそ、未来を見通すことはできず、時間の中で闇に包まれていたのかもしれない。
「それをどうするつもりだ」
「奴とかそれとか、もう少し言葉に気をつかってよ。世界を救った最大の功労者だよ?」
「得体が知れない存在なんて、それで十分だろう」
ああ、昔の自分がここにいる――カイルも同じ反応をしていたから、これ以上、アードゥルの態度を諫めることができなかった。その代わり、同調して眠っている世界の番人に全力で詫びる。ごめん、本当にあの頃の僕は頑固だった――と。
ロニオスが世界の番人と誓約を結んでなければ、その無礼な態度で雷にうたれていたかもしれないな、とカイルは深く反省した。




