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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
終章 エトゥールの魔導師
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(6)絆⑥

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


ブックマーク、ダウンロードありがとうございました。

現在、更新時間は迷走中です。

面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 一方、ディム・トゥーラは思い出していた。

 カストの大将軍ガルース達が、カスト王に殺されたウールヴェと会話するリアルな夢を見たと語るのを、カイルの中継(テレパシー)でカイルと共に聞いていたのだ。


「カストのガルース大将軍が夢で死んだウールヴェと会話したと言っていた。太陽がない明るい場所で、地平線まで花園が広がる平原で―― カイルもその時に言っていたな。西の地を何日か歩いたあとに聖域と呼ばれる地に入り、忽然(こつぜん)と森が消えてその場所にいた、と」

「それよっ!私達が行った場所はそこっ!私達はそれに同行していたのよ!ミナリオもいたわ。彼にも聞いてみてよっ!」


 ディム・トゥーラに説明するのに、イーレはあの場所を表現する(すべ)をもたなかった。ミナリオやハーレイの方が、はるかに的確に表現できるだろう。


 イーレはいまだにあの体験を消化できないでいた。

 森の中を一歩歩いただけで、別世界なんて誰が信じるだろうか?地中に移動装置(ポータル)が埋まっていました、の方が納得ができるだろう。

 しかも転移先が明らかに異常で、地上ではないのだ。


「イーレ、俺は信じていないわけではない。むしろ、信じている」


 ディム・トゥーラの言葉に、イーレはほっとした。少なくとも狂人判定はされていないようだった。


「…………こんな突拍子もない話を信じてくれるの?」

「カイルもイーレも経験しているなら、それは絶対にある場所だ。問題は行く方法だな」

「そうだな。西の地だから、当然俺も同行した。西北の森で、人の出入りが禁じられている場所だ。案内をしたのは、ほとんどがウールヴェのトゥーラだった。正直、辿り着く自信はない。トゥーラがいない今、あの場所を求めて永遠に彷徨(さまよ)う可能性もある」


 ハーレイもその問題点を認めた。


「案内にウールヴェが必要なのは間違いない」

「俺のウールヴェでわかるかどうか……」


 ちらりとディムは、己のウールヴェを見つめた。ウールヴェは無反応だった。


「それにトゥーラは『飛べない』と言ってたわ」


 イーレは必死にあの時の状況を思い出そうとした。


「人に属したら飛べないと、言ってた。だから歩いていくしかない、と」

「許可がいるとも言ってたな」


 ハーレイも頷いて肯定した。


「誰の?」

「わからない。世界の番人の許可かもしれない」

「その許可を出す世界の番人が瀕死(ひんし)なら、どうなるんだ?」

「わからない」


 ディム・トゥーラは深いため息をついた。


「ああ、畜生(ちくしょう)、ロニオスが生きていれば、話は単純だったに違いない」

「それを言っても仕方あるまい。だが、この件を君はどう思っているんだね?」


 エルネストが静かにディム・トゥーラに尋ねた。

 ディム・トゥーラの中に奇妙な確信が生まれていた。


「カイルはそこにいる。俺はそう思っている」

支援追跡者(バックアップ)である君がそう思うのなら、そうだろう」

「……ずいぶんと曖昧(あいまい)な保証だな」

曖昧(あいまい)なものか。君は支援追跡者と対象者の絆を舐めている。君自身もいってたではないか。カイル・リードが死んだらわかると。この共感力(エンパス)は、しばしば論文のネタになるんだがね。双子にも等しい絆だ。精神の半身と称していいだろう」

「そんな論文は知らないぞ」

「実験対象に言うわけないじゃないか。これは研究都市の永遠の実験テーマでもある」


 ディム・トゥーラは、呆気にとられた。そんな話は聞いたことがなかった。


「…………冗談だよな?」

「残念ながら事実だ」

「…………そういうあんただって、同じ支援追跡者(バックアップ)じゃないか。なんであんたは知ってるんだ?」

「私はその事実を昔、ロニオスに教えてもらった」

「――」


 事実を消化するのに数秒を要した。


「…………ロニオスがなんだって?」

「その研究の中心者はロニオスだった。つまり彼自身が被験者でもあり、探求者でもあったわけだ」

「――」

「君とカイルなど、ロニオスにとって美味しい観察対象だったろう。保証する」

「……………………」


 ブチっと、ディム・トゥーラの中で何かが切れた。


「〜〜〜〜あのクソ親父め〜そんなこと一言も言わなかったぞ!!親子(そろ)って、腹がたつ奴等(やつら)だなぁぁ!!!」


 ディム・トゥーラは、怨嗟(えんさ)の叫びをあげた。

 巧妙に隠し耐えていたカイル・リードへの怒りに、ロニオスの判明した曲者(くせもの)ぶりへの怒りが加算され、臨界突破(りんかいとっぱ)した。

 ロニオスが自分を弟子にしたのは、被験の観察対象として(そば)に置きたかったという事実に気づいたからだ。


 周囲に巻き散らかされた憤慨(ふんがい)の波動に、エルネスト以外の面々は10メートル以上素早く退避した。

 イーレはエルネストに文句を言った。


「ちょっと、やめてよ。ディム・トゥーラが念動能力があったら、王都(エトゥール)崩壊(ほうかい)しているレベルよ?」

「その認識は正しい」

「絶対、貴方の方が、火薬庫にミサイルをぶちこんで楽しんでいるわよね?」

「長生きをしていると、たまに刺激(しげき)が欲しくなるんだ。君にもわかるだろう?」


エルネストは真顔でイーレに言った。

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