(6)絆⑥
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一方、ディム・トゥーラは思い出していた。
カストの大将軍ガルース達が、カスト王に殺されたウールヴェと会話するリアルな夢を見たと語るのを、カイルの中継でカイルと共に聞いていたのだ。
「カストのガルース大将軍が夢で死んだウールヴェと会話したと言っていた。太陽がない明るい場所で、地平線まで花園が広がる平原で―― カイルもその時に言っていたな。西の地を何日か歩いたあとに聖域と呼ばれる地に入り、忽然と森が消えてその場所にいた、と」
「それよっ!私達が行った場所はそこっ!私達はそれに同行していたのよ!ミナリオもいたわ。彼にも聞いてみてよっ!」
ディム・トゥーラに説明するのに、イーレはあの場所を表現する術をもたなかった。ミナリオやハーレイの方が、はるかに的確に表現できるだろう。
イーレはいまだにあの体験を消化できないでいた。
森の中を一歩歩いただけで、別世界なんて誰が信じるだろうか?地中に移動装置が埋まっていました、の方が納得ができるだろう。
しかも転移先が明らかに異常で、地上ではないのだ。
「イーレ、俺は信じていないわけではない。むしろ、信じている」
ディム・トゥーラの言葉に、イーレはほっとした。少なくとも狂人判定はされていないようだった。
「…………こんな突拍子もない話を信じてくれるの?」
「カイルもイーレも経験しているなら、それは絶対にある場所だ。問題は行く方法だな」
「そうだな。西の地だから、当然俺も同行した。西北の森で、人の出入りが禁じられている場所だ。案内をしたのは、ほとんどがウールヴェのトゥーラだった。正直、辿り着く自信はない。トゥーラがいない今、あの場所を求めて永遠に彷徨う可能性もある」
ハーレイもその問題点を認めた。
「案内にウールヴェが必要なのは間違いない」
「俺のウールヴェでわかるかどうか……」
ちらりとディムは、己のウールヴェを見つめた。ウールヴェは無反応だった。
「それにトゥーラは『飛べない』と言ってたわ」
イーレは必死にあの時の状況を思い出そうとした。
「人に属したら飛べないと、言ってた。だから歩いていくしかない、と」
「許可がいるとも言ってたな」
ハーレイも頷いて肯定した。
「誰の?」
「わからない。世界の番人の許可かもしれない」
「その許可を出す世界の番人が瀕死なら、どうなるんだ?」
「わからない」
ディム・トゥーラは深いため息をついた。
「ああ、畜生、ロニオスが生きていれば、話は単純だったに違いない」
「それを言っても仕方あるまい。だが、この件を君はどう思っているんだね?」
エルネストが静かにディム・トゥーラに尋ねた。
ディム・トゥーラの中に奇妙な確信が生まれていた。
「カイルはそこにいる。俺はそう思っている」
「支援追跡者である君がそう思うのなら、そうだろう」
「……ずいぶんと曖昧な保証だな」
「曖昧なものか。君は支援追跡者と対象者の絆を舐めている。君自身もいってたではないか。カイル・リードが死んだらわかると。この共感力は、しばしば論文のネタになるんだがね。双子にも等しい絆だ。精神の半身と称していいだろう」
「そんな論文は知らないぞ」
「実験対象に言うわけないじゃないか。これは研究都市の永遠の実験テーマでもある」
ディム・トゥーラは、呆気にとられた。そんな話は聞いたことがなかった。
「…………冗談だよな?」
「残念ながら事実だ」
「…………そういうあんただって、同じ支援追跡者じゃないか。なんであんたは知ってるんだ?」
「私はその事実を昔、ロニオスに教えてもらった」
「――」
事実を消化するのに数秒を要した。
「…………ロニオスがなんだって?」
「その研究の中心者はロニオスだった。つまり彼自身が被験者でもあり、探求者でもあったわけだ」
「――」
「君とカイルなど、ロニオスにとって美味しい観察対象だったろう。保証する」
「……………………」
ブチっと、ディム・トゥーラの中で何かが切れた。
「〜〜〜〜あのクソ親父め〜そんなこと一言も言わなかったぞ!!親子揃って、腹がたつ奴等だなぁぁ!!!」
ディム・トゥーラは、怨嗟の叫びをあげた。
巧妙に隠し耐えていたカイル・リードへの怒りに、ロニオスの判明した曲者ぶりへの怒りが加算され、臨界突破した。
ロニオスが自分を弟子にしたのは、被験の観察対象として側に置きたかったという事実に気づいたからだ。
周囲に巻き散らかされた憤慨の波動に、エルネスト以外の面々は10メートル以上素早く退避した。
イーレはエルネストに文句を言った。
「ちょっと、やめてよ。ディム・トゥーラが念動能力があったら、王都が崩壊しているレベルよ?」
「その認識は正しい」
「絶対、貴方の方が、火薬庫にミサイルをぶちこんで楽しんでいるわよね?」
「長生きをしていると、たまに刺激が欲しくなるんだ。君にもわかるだろう?」
エルネストは真顔でイーレに言った。




