(3)絆③
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「だが、本来の先見は、起こる可能が高い未来を告げ、回避もしくは成就させるための助言だ。それがあらかじめ起こる未来だったなら、エトゥールの姫や我々の占者が先見できなかったことがおかしい」
「姫が先見ができなかったのは、妊娠していたためという可能性はあるわよ?」
「あるだろう。だが、ナーヤが今でも先見ができない理由がどこかにあるはずだ」
「先見ができない?」
ディム・トゥーラは若長の発言に思わず聞き直した。ハーレイは短い吐息をついた。
「ナーヤは大災厄後、先見ができない状態だ。ナーヤだけではない。西の民の大多数の氏族の占者が先見の能力を失っている。今現在、先見ができていると称する占者は、ほとんど紛い物であることを自ら証明したことになる」
ディム・トゥーラは、意外な事態が進行していたことを知って呆然とした。カイルの行方について老女の助言を当てにしていたからだ。
「その予知能力――『先見』の能力とは、失われるモノなのか?」
「いいや、こんなことは初めてだ」
「多くの氏族の代表が、私達の村に相談に訪れたわ。占者に氏族の方針の判断を依存している西の民にとって、死活問題なのよ」
「イーレ、その報告は初めて聞く」
ディム・トゥーラのやや責めるような口調に、イーレは後ろめたさから、やや身をすくませた。
「だって、大災厄やカイル達の行方不明の方が、遥かに重大な問題で、これは西の民の内部の問題だと思っていたもの」
「ウールヴェが大勢旅立ったことで、世界の番人の力が失われたのではないでしょうか」
遠慮がちにミオラスが意見を述べた。
若長は歌姫の言葉に考えこんだ。
「占者は世界の番人の審神者だから、世界の番人が力を失えば、当然占者という職も失われるな。だが、世界の番人が力を失うことがあるのだろうか?」
「世界の番人の力の源が、思念エネルギーなら無限ではないはずだ」
ディム・トゥーラのつぶやきに、ハーレイはきょとんとした。
「しねんえねるぎー?」
「この世界の人間は、加護を持つ者と、持たない者の二種類だ。この加護を持つ者が、俺達の世界の能力者と同じなら――例えるなら、強い意思を持つか持たないかで能力の発現が変わる。そんな仮説をたててみた」
「よくわからん」
「ディム・トゥーラは、加護を持たない一般人の制御されていない無意識が、世界の番人の糧ではないかと考えているのよ。それこそ、西の民やエトゥールの精霊信仰とか、ね」
「信仰――祈ることが?」
「祈れば、叶えてもらえる。叶えてもらったから、また祈る。それが繰り返され、蓄積されたものが生み出したもの……それが精霊……ディム、あってる?」
「仮説だが……脳科学が発達した俺達には、制御されていない無駄な思念エネルギーなど存在しないから、世界の番人のような存在がない。概念もない」
「信仰もない」
イーレがつぶやくように言葉を引き取った。
「大災厄の時に、聖歌を歌っていると、ウールヴェが集まっているような気配を感じました」
ミオラスの言葉に全員が注目した。
その反応にミオラスはたじろいだ。
「ミオラス、重要なことかもしれない。詳しく話してくれないか?」
エルネストが紳士的に優しく促した。
「地下の避難所で聖歌を歌っていると、ウールヴェがたくさん集まって、歌を聞いているような気がしたのです。トゥーラも……来てくれました。最後の別れに……」
「あの時、ウールヴェのトゥーラは、俺達と一緒にずっと中庭にいたが……」
「でも、来てくれたのです。世界を守るために行くと……あの子はそう言って別れを告げにきてくれました。私の歌が好きだから、大災厄の後も歌い続けてくれと、そう言って逝ってしまいました」
ミオラスは当時の感情を思い出し、涙ぐんだ。エルネストがミオラスの肩を優しくたたき、慰めた。
「聖歌がウールヴェに力を与えた可能性はある。当時、避難民は皆すがるように、ミオラスと共に歌い、大合唱になっていた」
「ウールヴェの特攻と精霊樹が損傷したのは、ほぼ同時だった」
ディム・トゥーラは精霊樹の方向に視線を向けた。天空にそびえ立っていた巨木は、今は砂のように徐々に侵食が止まらず聖堂と同じ高さまでになっていた。
「カイルが世界の番人と同調しているなら、巻き添えを受けている状態かもしれない。俺はあの精霊樹の状態が気になって仕方がない。まるで流れ落ちる命の砂時計の砂だ」




