(2)絆②
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「カイルは帰ってきますよ。大丈夫です」
シルビアは優しく言った。
「お義姉様……」
「ファーレンシア様、カイルの相棒であるディム・トゥーラは、とても離れたところにいながら夢で会話ができたそうですよ。ファーレンシア様の夢もそうかもしれないですね」
ファーレンシアは、はっとした。
過去に、カイルとディム・トゥーラとの会話は、真か偽かの判定を皆で論じたのだ。
実際、ファーレンシアもその夢を証明するために、同行したことがあった。あの時、カイルのウールヴェであるトゥーラがそばにいたのだ。
「もしかして……」
「ええ、前回のようにはっきりとしないのは、トゥーラが旅立ってしまったからではないか、と私達は仮説をたてています。ウールヴェは精神感応――地上で言うところの『加護』を増強していたのではないか、と」
「では、トゥーラがいない今、どうしたら……」
「私達には、まだ力強い味方が残っていますよ」
シルビアは黙って、ファーレンシアの寝台のそばに控えるウールヴェに視線を投げた。
死んだトゥーラの番だったウールヴェは、白い狼に似た姿を保っていた。
「わ、私のウールヴェが役に立つとおっしゃるのですか?」
「もちろんです。私達は、ファーレンシア様の出産が終わるまで、カイルの捜索を控えたのです」
急に朝日が差し込むような希望の光が見えてきたことに、ファーレンシアは驚いた。
「探しに……当てがあるのですか?」
「と、ディム・トゥーラは言ってます」
「ディム様が……」
「彼等は今、その準備をしています。だから、私達は信じて待ちましょう」
シルビアの言葉に、ファーレンシアは何度も頷いた。
「クトリの言いたいことは、よくわかった。確かに衝突のエネルギー収支があわない」
「でしょ、でしょ、でしょ?!」
ディム・トゥーラに問題点を認められたクトリ・ロダスは興奮したように前のめりの姿勢になる。
エトゥール王城の中庭は、書類サイズの金属の板が散乱している。クトリ達がエトゥールの地下拠点から持ちだした端末は、それぞれが観測された情報をフル稼働で解析していた。
二人の議論を聞いていたエルネストは端末の一つを手にして、計算結果を確認した。
「つまり直径200キロのクレーターなら深度40キロあってもおかしくないと……だが、それは純粋に直径が200キロだった場合では?」
「へ?」
エルネストの指摘にクトリはきょとんとする。
「カイル・リードが落下する恒星間天体をかなり砕いていれば、本来のクレーター直径は100キロ程度であり、単に深度分を水平にエネルギーを展開した可能性も捨てきれない」
「えええええ」
クトリは愕然とした。
「そんな物理エネルギーの法則を全無視するような馬鹿な現象が――」
「ウールヴェの特攻だって、十分に馬鹿な現象だろう?ウールヴェがミサイルのような熱量と爆発エネルギーを所持して恒星間天体の質量を削ぐなんてありえない」
「実際、削いだかもしれない。時間があれば、隕石として着弾した恒星間天体の全質量を計測してみたいものだ……。そこから逆算できるかもしれないな……」
ディム・トゥーラがつぶやく。
「動物の特攻が?」
「あれを動物に分類するのは、専門家として断固拒否する」
ディム・トゥーラは真顔できっぱりと言う。
「貴方達の研究馬鹿具合もいい加減にしてよ。今は、カイルとアードゥルの行方が問題でしょ?」
イーレが釘をさし、黙って聞いていたミオラスも、激しく頷いて同意する。
一方、イーレの伴侶である西の民の若長は、中庭の芝生で寝転んでくつろいでいる。
呪文のような意味不明の言葉が飛び交う議論が始まった時点で、彼は体力温存の休憩を選択していた。
「その手がかりが、大災厄のエネルギー収支にあると、俺は思ってる」
「なんで?」
「カイルとアードゥルが消えたからだ」
ディム・トゥーラが端末を指でつつきながら、主張する。
「俺は残って、彼等だけ消えた。アードゥルは、カイルに触れていたから、巻きこまれた」
「じゃあ、カイルは?」
「カイルはあの時、世界の番人と同調していた。ウールヴェの特攻をコントロールしていたと、言ってもいい。カイルがアードゥルに命じて地下1000メートルまで防御壁を展開させたのも、爆発のエネルギーが変遷できることを未来予測したからじゃないか、と思っている」
「先見か」
若長がぼそりと言って、全員が芝生に寝転ぶ西の民を注視した。ハーレイは半身を起こすと胡座を組んだ。
「もともと占者は、世界の番人の審神者であり、先見は世界の番人の助言のようなものだ。カイルが世界の番人と同化していたなら、星の落下の結末は見えていたに違いない」
「認めたくないが俺もそう考えた」
ディム・トゥーラも同意した。




