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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
終章 エトゥールの魔導師
982/1015

(1)絆①

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

終章にはいります。


現在、カクヨムで「エトゥールの魔導師【この男’sメンズの絆が尊い! 異世界小説コンテスト応募版】」を作成し応募しました。(10万字分の分割)

コンテストの応援してもいいよ、という奇特な方がいらしたら、カクヨムでも小説フォロー、評価、布教をお願いします。m(_ _)m


ブックマークありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

痛い。痛い。

ファーレンシアは、気の遠くなるような痛みに耐えていた。話には聞いていたが、実際の経験となると雲泥(うんでい)の差があった。


 だが、昔の先見の時の発作に比べれば、呼吸ができないわけではない。痛いだけだ。激痛がずっと下腹部を襲っている。

 マリカが濡れた布で、(ひたい)の大量の汗を拭いてくれたのがわかる。


「ファーレンシア様、もう少しですよ」


 大丈夫、とファーレンシアは微笑んでみせようとして、再びの激痛に(うめ)く。

 短く息を吐いて、吐いて、長く吐いて、とシルビアが言うが、それがなかなか難しい。一定のリズムで呼吸をすることで、赤ちゃんに十分な酸素がいくのだ、とシルビアに教えられた。そうすることで、出産事故の危険(リスク)が減らせるらしいが、うまく呼吸ができているか、ファーレンシアは自信がなかった。


 シルビアは衛生面を配慮しつつ、ファーレンシアに関して『地上式の出産方法』を選択した。侍女達の出産に何回も立ち会っている女官長であるフランカを中心に、侍女達とシルビアという鉄壁な布陣で、今回のファーレンシアの出産に(いど)んでいる。


 (りき)んで、歯や舌を傷つけないようにと、布を()んで痛みと闘う。この痛みはいつまで続くのだろう。そしてどのくらい時間がたったのだろう。


――ファーレンシア


……カイル様……。


 ファーレンシアは愛しい伴侶の幻聴に答えた。

 早く帰っていらして。子供が生まれます。私、がんばっていますよ。とても痛いけどがんばっています。この子が無事に産まれるように、力を貸してください。そして早く無事な姿を見せてください。


――大丈夫、心配しなくていいよ


 大丈夫なのはどっちですか?生まれてくる子供?それとも貴方?両方とも大丈夫じゃないと困ります。寂しい。会いたい。痛い。もう貴方がいなくて、どうにかなりそう。痛い。会いたい。会いたい。会いたい。

 どこにいるんですか?どうして帰ってきてくれないのですか?約束したじゃないですか?


――ファーレンシア、必ず帰るよ


 本当に?本当に帰ってきてくださる?

 いつ?それはいつ?一人にしないで。


 夢でも幻でもいいから、会いたい。早く帰ってきてほしい。強く願った時、ファーレンシアは一瞬痛みも忘れ、カイルがそばにいるような気配を感じた。

 抱きしめられている――ファーレンシアはそう思った。

 

「ファーレンシア様」


 ふっと波がひくように一瞬で痛みから解放される。

 いったいどうしたのだろう。

 朦朧(もうろう)とした意識の中、ファーレンシアは力強い泣き声を聞いた。本能だけで泣いているような声だ。


「生まれましたよ!元気な女の子です」


ああ、よかった。無事に産むことができた。

 ファーレンシアは自分の成したことに、誇りを覚えた。男性には味わうことのできない達成の感情に違いなかった。




「生まれました。元気な女の子です」


 隣室に待機していた男性陣は、シルビアの報告にほっと息をつく。それはセオディア・メレ・エトゥールも例外ではなかった。


「そうか、生まれたか」

「もっと、喜んでいただいても結構ですよ?」


 冷静沈着な様子に、扉から顔をだして報告したシルビアは揶揄(からか)うように言った。


(めい)という貴方の親族の誕生なんですから」

「親族……そういえば、そうだな……」


当たり前と言えば当たり前の指摘に、セオディアは困惑した。


「セオディア?」

「病弱なファーレンシアが大人になり、子供を成すなど、想像もしなかった。奇跡はこうも続くものなのか……」

「それが世界を救う努力をした者への報酬というものでは、ありませんか?」


 シルビアはセオディアに近づき微笑んだ。

 セオディア・メレ・エトゥールは、しばし伴侶を見つめ、それからシルビアを強く抱きよせた。


「…………私も自分の子供を早くもちたいものだ」


(ささ)かれた言葉に、シルビアは耳まで真っ赤になった。




 エトゥールの出産では、赤子が初めて面会する男性は父親という風習があるので、不在のカイルをたてて男性達は皆遠慮した。

 胎盤が自然に剥離し娩出される後産も無事に終わり、ファーレンシアはようやく休むことができた。

 猿のようなしわくちゃの顔の新生児を、ここぞとばかりに侍女達が世話をしている。

 

「乳母が何人いることやら……」


 自身がセオディアとファーレンシアの乳母だった経歴をもつ女官長のフランカが侍女達の異様なはしゃぎように、やや呆れの吐息をつく。だが諌める無粋なことは、しなかった。

 フランカの言葉に寝台にいるファーレンシアは笑った。


「フランカ、ありがとう……」

 女官長は微笑みながら頭を下げて、ファーレンシアの礼の言葉に応じた。

「シルビア様……いえ、お義姉様も……ありがとうございました……」

「ファーレンシア様こそ、よくがんばりましたね」


 シルビアの言葉は愛情がこもっていたので、ファーレンシアは泣きたくなった。

 

「ファーレンシア様」

 子供をあやすようにシルビアはファーレンシアの頭を優しく撫でた。

「カイル様の声をきいた気がしました」

「そうですか」

「だから思いっきり強請(ねだ)ってみました。早く帰ってきてと」

「そうですか」

「……どうして、あの人はいないのでしょうか?」


 シルビアは手巾でファーレンシアのこぼれおちる涙を優しくふいた。

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