(46)エピローグ
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
ブックマーク、誤字脱字指摘ありがとうございました。
カクヨムで「エトゥールの魔導師【この男’sメンズの絆が尊い! 異世界小説コンテスト応募版】」を作成し応募しました。(10万字分の分割)
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「わけのわからないことばかりですよ」
作業をしているクトリの訴えは、ほぼ愚痴に近い。
「途中から恒星間天体の突入データは、ぐちゃぐちゃで一貫性がありません。解析しても計算が一致しないし、いくらカイルが規格外で熱圏近くで防御壁を多重展開しても、こんなことはありえないことです。ここは消滅するはずだったんですから」
エトゥール城の中庭に、メレ・アイフェス達が集合していた。まだ大災厄から数時間しかたっていない。
理論上の安全は確保されているが、ディム・トゥーラは王都を覆う防御壁を消さなかった。
安全とは、あくまでも体内チップを保有する人間の観点であり、一般の地上人など、巻き上げられた粉塵に気管支を損傷し、喘息や肺病を間違いなく発症する汚染された状況だったからだ。
しかも当分の間、酸性雨がこの地域を支配するだろうとクトリは助言した。酸の雨は建物も侵食するし、浴びた人間は皮膚炎を発症するとシルビアも指摘した。
「何が問題なんだ?」
大災厄の検証など、今のディム・トゥーラにとっては、どうでもいいことだったが、耳を傾けることにした。
「今回の件で、直径約200㎞の隕石孔ができていると思います」
「で?」
「深さが40㎞があるべきところが、わずか1㎞です」
「よく、わからない」
「本来なら、直径と隕石孔の深さは一定の比率があるんですっ!爆発の熱量収支があわない、ってことですよっ!。そもそもこんなに早く地上が冷えるはずないしっ!」
「あとで俺にわかるように計算式を教えてくれ」
ディム・トゥーラはクトリを宥めた。
「私はアードゥル達が消えたという状況の方が理解できないのだが」
エルネストがディム・トゥーラに確認をした。
「瞬間移動で避難しただけでは?彼ならそれぐらいできる」
「俺も最初はそう思った。だが、二人のいた場所にこれが落ちていた」
2本の長剣をディム・トゥーラは示した。
「二人が護身のために帯剣していたものだ。そもそも避難したのなら、生体反応で現在位置がわかるはずだ」
ディム・トゥーラはシルビアを見た。シルビアは青ざめた顔で首をふった。
「二人の生体反応は途中で消失しました。私はてっきり王都消失に貴方と一緒に巻き込まれたかと」
「見ての通り、俺は無事。王都も無事だ」
ディム・トゥーラは、アードゥルが所持していた剣をエルネストに渡した。それを検分したエルネストは頷いた。
「確かにアードゥルの剣だ。こちらはエトゥールの紋があるからカイル・リードのものだな」
シルビアの動揺が酷かった。
エルネストはシルビアの顔色の悪さに眉をひそめた。
「彼女はずいぶんと具合が悪そうだが?」
「シルビアはこういう現象に、心的外傷を持っているのよ」
イーレがシルビアを落ち着かせるように背中をさすって、支えていた。
「心的外傷?」
「カイルが観測ステーションでこんな風に消失しちゃったの。その時の医療担当者がシルビア」
「ああ……」
エルネストは納得した。
「なるほど、それで彼に巻き込まれて現在に至る、と」
「巻き込まれて、エトゥール王妃にまでなっちゃうんだから、これ極まりよね」
「西の民の王妃になった君がそれを言うのか?」
やや呆れた視線をエルネストは、イーレに投げた。その視線を完全に無視して、イーレは憂えた吐息をついた。
「成り行きって恐ろしいわ」
「これを成り行きの一言ですませないように」
エルネストは反省の色がみられないイーレをたしなめた。案外いいコンビだな――と、ディムは思った。
「アードゥルは瞬間移動に失敗して、カイルと一緒に蒸発しちゃったのかしら?」
イーレの容赦ない言葉に、全員がドン引きした。
「…………イーレ……」
「も、もう少し言葉を選んでください」
「だって、そんな可能性、貴方達は微塵も思ってないでしょ?サイラスが死んだ時、私とカイルはすぐわかったのよ?貴方達は何か感じた?ディム・トゥーラ、貴方はカイルが死んだらわかるわよね」
イーレの指摘は鋭く、ディム・トゥーラは救われた気分になった。
「わかる」
「ミオラスもエル・エトゥールも同じことを言ってたな。まあ、私だって腐れ縁のアードゥルが死ねば、わかるぞ」
エルネストの主張に、イーレは彼を見上げた。
「本当に貴方とアードゥルって、仲が悪いの?」
「悪い」
「仲が悪いの定義を今度教えてちょうだい」
「こんど100枚くらいの論文を書いてみよう」
軽妙な初代達の会話を聞いて、ディム・トゥーラは精神負荷が軽減したことを感じた。
誰もカイル達が死んだとは、考えていない。
それは、ある意味、ディム・トゥーラの精神を救っていた。
「準備できました」
クトリは組み立てた空中撮影飛行装置を起動させた。それは球形の防護壁に囲まれた浮遊灯のようにも見えた。
「やれることをやろう。まずは正確な状況確認だ。クトリ、飛ばしてくれ」
「はい」
クトリは飛行装置を離陸させた。
皆がクトリの手元にある端末画面を覗きこんだ。
エトゥールの中庭にいるクトリ達が上から見下ろされている。
それが徐々に小さくなっていく。
王城の外壁の外側に、無人の王都の街並みが見えた。野良犬が数匹と、残留していた馬鹿なエトゥールの民が、ちらほら見える。
飛行装置は王都を包んでいる防護壁に接触し、同化したあとに、虹色の光を纏いつつ通過した。
「高度をあげます」
見渡す限りの荒野だった。
何もない。
ディム・トゥーラは虚しい気分に陥った。
カイルと見たあの美しい田園風景は失われていた。
王都を中心として巨大なクレーターが出現していた。直径は200キロ程度であり、それは予想された結果の通りでもあった。
剥き出しになった焼け爛れた地層が、崖をなしている。
巨大なすり鉢状の衝突痕は広大だった。
クレーターの境界はやや丘のように隆起しており、縁を作り出していた。
「変だな。確かに予想よりはるかに浅いぞ」
「本当におかしいです。縁は山脈を形成するぐらい隆起しているはずでした」
「クトリ、ちょっと方向を変えてくれ。そうだな、クレーター・リムから、クレーターの中央に視点をむけてくれ」
「了解です」
画面の視野がゆっくりと水平に回転していく。
全員が、絶句した。
クレーターの中央には綺麗な円柱の岩場がそそり立つ。カイル達が防御壁を地下に張り巡らせた部分だけが残存したのだ。
その上には、エトゥールの王都がほぼ無傷で残っていた。ただし、それは高さ1000メートルの道が存在しない岩場の上だ。
地上からは、接近することができない天空の城が出現していた。
恒例の閑話は別途まとめることにしました。
次回、終章に入ります。




