(42)我が光を示される汝に栄光あれ⑯
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「アードゥル、僕が合図したら、防御壁を王都の外壁から10メートル外側に王都全体を覆うようにドーム状に展開して。深さは、そのまま地下1000メートルまで。残りの全部を使って、多重展開していい」
アードゥルはカイルの突然の方針変更に訝しんだ。当初は脱出のための時間稼ぎのはずだった。
「それに何の意味がある?王都が爆心地だろうが」
「それを少しずらす」
「は?」
「恒星間天体の着弾点をずらす」
「今更、ずらしようがないだろう?!」
「ずらす」
カイルは恒星間天体を睨みながら、きっぱりと断言した。
アードゥルは、助言を請うようにディム・トゥーラをかえりみた。支援追跡者は憤慨したまま、吐き捨てるように言った
「この馬鹿……世界の番人と同調しやがっているっ!」
「なんだと?!」
「さすが、ディム。よくわかったね」
「この糞ったれの大馬鹿野郎がっ!」
離れた場所からの罵倒にカイルは笑顔で大丈夫と、手を振ってみせて、さらにディム・トゥーラの感情を逆撫でした。
――――我々が天体の着弾点をずらす
「僕達が天体の着弾点をずらす」
カイルの声に、何かの思念が被ったのを、ディム・トゥーラとアードゥルは、はっきりと聞いた。
「どうやって?!」
――でぃむ・とぅーら
それまで沈黙を守っていたカイルのウールヴェであるトゥーラがディム・トゥーラに静かに話しかけた。
この修羅場を全て抑え込むような落ち着いた大人の思念で、いつもの子供が持つような無邪気さは消えていた。
――僕は行く。貴方のウールヴェは残る。それだけだよ
「なんだって?」
――でぃむ・とぅーら。僕は貴方との約束を誇りを持って守る。これで僕は貴方と対等だね
ウールヴェの思念は誇らしげだったが、ディム・トゥーラはその言葉の内容を瞬時には理解できなかった。
「待て、どういう意味――」
――――世界を守るために行け
「――――世界を守るために行け」
ディム・トゥーラがウールヴェの言葉の意味を追求する前に、カイルと世界の番人が命じる強大な思念が世界に響き渡った。
大地が静かに震えたように、ディム・トゥーラは感じた。
後々にクトリ・ロダスは、何の地震波も揺れも観測していないと証明して見せたが、この時ディム・トゥーラは世界が揺れたように思えたのだ。
地上から光が飛び立った。
まばゆく発光したレーザーのような軌跡が重力に逆らって地上から放たれて空を駆け上る。
目指しているのは間違いなく、カイルが展開していた障壁が消え、落下するしかなくなった恒星間天体だった。
地上から新たな光が生まれ空に放たれた。
一つ、また一つ。
それは徐々に数を増していた。
か細い光もあれば、太い光もある。
地上のあらゆる場所から生まれ、天空を目指す。
光の軌跡の誕生は止まない。
それは全て、彼方天空にある忌むべき落下物を標的にして、真っ直ぐに向かっていた。
「…………飛翔誘導兵器……?」
「そんなもの、地上にあるかっ!!」
アードゥルの呆然とした呟きに、ディム・トゥーラは怒鳴った。ディム・トゥーラが使役主であり、今この時点でウールヴェを持っているため、全てを理解した。
「…………あれは…………ウールヴェだ……」
その説明できない不可思議な現象は、衛星軌道上の観測ステーションでも確認されていた。
「多数の高エネルギー体が地上より飛来っ!目標は恒星間天体β!」
「…………なんだ、あれは……」
地下遺構の避難所でも巨大な画面に映し出される歴史上の最大の奇跡は、多数の避難民に目撃されていた。地下の避難所に響き渡る聖歌の大合唱が、引き金になったかのようにも見えた。
ああ――。
その光景を真に理解したのは、賢者達とエトゥールの王族、西の民の占者と加護を持つ若長、歌姫だった。
彼等は皆、世界の番人とカイルが命じる言葉を聞いていた。
ああ――彼等は世界を守るために逝ってしまう。
聖歌を歌い続けるミオラスも、先ほどまで見ていた幻のような光景の意味を理解した。
その証拠に、まだ見え続けている幻から、一匹、また一匹とウールヴェが姿を消していくのだ。
そこへ強烈な光を放つ純白の狼に似たウールヴェが現れた。
それは金髪のメレ・アイフェスのウールヴェで、東国で知己を得たトゥーラだった。
――歌姫
「………………貴方も逝ってしまうの?」
――うん、世界を守るために行くよ
「………………なぜ?」
ミオラスから本音がポロリと漏れた。
「世界は、傲慢で欲と暴力にまみれているじゃない。そんな世界を救うために貴方が犠牲になることはないじゃない!」




