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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(38)我が光を示される汝に栄光あれ⑫

 世界の番人自身の姿は相変わらず見えなかったが、そこに存在していることは、間違いなかった。だが、不思議なことにいつものような全てを支配する膨大(ぼうだい)な圧は存在していない。


「ディムを助けてくれてありがとう」


 カイルは素直に礼の言葉を口にした。


――――勝手にヤツが生き延びただけだ


「僕に悪意の気配を感じさせて、トゥーラを導いてくれたのは、貴方でしょ。トゥーラ達のおかげで即死を(まぬが)れたとディムも言っていた」


 カイルはやんわりと指摘した。


「だいたいいつも僕に警告をくれるし……それも感謝している。本当にありがとう」


――――行動したのはお前だ


 世界の番人は(かたく)なに謝辞をうけいれなかった。


「もう……ディムみたいにツンデレなんだから」


――――なんだと?


「本心から感謝しているんだから、受け取ってよ。貴方は祈りにこめられた地上の民の感謝の意は、受け取るでしょ?それと何ら代わらないよ」


 世界の番人は沈黙した。


「でも、ごめん。地上を救うには、僕は力不足だった。世界を救うとか、デカいことを言ったけど、恒星間天体は止められなかった。もう少し質量を削ぎたかったけど、ロニオスみたいに出来なかったよ」


 カイルは自分の手を見て、力無く笑って()びた。

 それに対して意外な言葉がきた。


――――お前はよくやっている。本当によくやっている


「……」


 カイルは似たような言葉を西の民の占者であるナーヤから聞いたことがあった。

 あれはもしかして世界の番人の言葉だったのかもしれない。その言葉はカイルの自身への失望を少し(ぬぐ)いとった。

 カイルは現実を思い出し、やや慌てたように周囲を見渡した。


「そういえば、ここにいることによる現実の時間の経過はどうなんだろう?」


――――気にしなくていい。ちゃんと戻してやる


「戻す?」


 カイルの問い直しに、世界の番人にはしばし沈黙した。

 どこまで語るか考えあぐねているようだった。


――――お前たちは時間を過去から未来まで一直線で流れるものと思っているだろう?


「………………違うの?」


――――俯瞰(ふかん)して見れば違う


「………………」


カイルは考えた。先見を与える世界の番人には、様々な未来が見えていることは、その映像を与えられて絵を起こしたカイルにも理解できた。

 俯瞰(ふかん)して見る――大空を羽ばたく自由な鳥が見る光景は、地上から見るものとは違う。


「時間の流れは一直線に思えるけど……俯瞰(ふかん)して見るとどうなるの?」


――――過去も現在も未来も同時に存在している


「はい?」


――――時間とは……


――――例えるなら繊細な絹の糸で織り込まれた(あみ)のようなものだ。人の選択で、穴が空いたり、燃えたり、修復されたり、違う色に染まったり、忙しい


「えっと……時間の話だよね?」


――――時間の話だ


「…………よくわからない……」


――――人々の選択で未来は変わる


「うん」


――――想像力のない人間には、見える未来は限られる。その先に無限に広がっている可能性に、人間は気づかない


「…………可能性……」


 カイルはつぶやいた。


「まだ、地上の被害を少なくすることができるの?」


――――できるが、その代価はお前に苦痛を引き起こす


「どんな苦痛?僕ができることだったら――」


 そういいかけて、様々な条件の可能性にカイルは思い当たり、青ざめた。


「ファーレンシアや、ディムとかを犠牲にするとかはなしだよ?!」


――――そうではないが、それに近いことでもある


「僕の知人達を巻き込むのは嫌だっ!」


――――わかっている 巻き込むのは人ではない


「…………人ではない……?」


 世界の番人の口調に、同情の色が含まれた。


――――お前はこの選択をすることで、後悔と罪悪感に長く悩むだろう


――――本来ならこれをするのはロニオスだった


――――だが、今、ここにロニオスはいない


――――その重荷を息子であるお前が引き継ぐかどうかだ


「ロニオスが…………?」


 この時点でカイルは答えを悟ってしまった。カイルの予想を肯定(こうてい)するかのように、カイルの周辺に白い影が現れ、次々と実体化をしていく。


「…………できない…………できないよ…………」


――――お前は命じればいい


――――世界を救う手助けをしろ、と


 いつのまにか、カイルはおびただしい数のウールヴェに囲まれていた。

 ウールヴェ達は愛情のこもった静かな瞳で、カイルを見つめるだけだった。


「やめてくれ、やめてくれよっ!」


 カイルは耐えきれず叫んだ。


「この子達を犠牲にして、どう未来を切り開くんだ?!人間のために、ウールヴェを犠牲にしろと言うのか?!僕にその選択をさせないでくれ!!」


――それはね かいる


 ウールヴェ達の集団が左右に別れ、道ができた。

 よく知っているウールヴェが前方から近づいてくる。


――僕達は 最初からそのために存在していたんだ


 カイルと絆を結び、半身としてそばにいたトゥーラが静かに告げた。


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