(37)我が光を示される汝に栄光あれ⑪
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ミナリオはカイルとの会話の言葉の何かが気になり、言われも得ぬ不安を増殖させた。
――なんだろう?カイル様の言葉の何が気になったのだろうか?
「カイル様――」
だが、ミナリオがそれを追求する前に、少年姿の賢者に腕を掴まれ、移動装置へと連れ込まれた。
協力者である二人が立ち去るのを見届けてからアードゥルは、カイルに声をかけた。
「私達も撤収準備をするぞ。計画通り王都の周りに、時間稼ぎの防御壁を立ち上げる」
――待って
アードゥルを静止したのは、それまで沈黙を守っていたカイルのウールヴェだった。
トゥーラは金色の瞳でアードゥルを見つめた。
――もう少し待って
「馬鹿言え、もう少し待っていたら、我々は全滅だ」
――大丈夫
「大丈夫の根拠を聞かせてもらおうか」
――あーどぅる 歌姫 好き?
「…………………………それと大丈夫の根拠が何の関係がある?」
アードゥルはウールヴェを睨んだが、相手は頓着せずアードゥルの不機嫌な反応に不思議そうに小首を傾げている。
――あるよ 歌姫 好き?
再度の悪意のない質問に根負けして、アードゥルの方が短い吐息をついた。
「…………愛していると思うから伴侶としてそばにいることを選んだ」
――僕も 歌姫 好き
「…………………………」
アードゥルは、くるりとカイルではなく、ディム・トゥーラの方を振り返った。
「…………私はこいつに喧嘩を売られているのだろうか?」
「なぜ、俺にきくんだ?それは使役主に聞いてくれ」
「この修羅場の最中に、精神集中の邪魔をするべきじゃないだろう?」
「だからと言って俺に振られても困る話題だが……あんたと歌姫の関係性など、理解するほど俺との交流時間はなかったぞ?」
「君の支援追跡対象者のウールヴェなら、管理も君の範疇だろう?」
「………………それは、嫌な仕事の分類の仕方だな」
ディム・トゥーラは顔をしかめた。
「ウールヴェの管理は、あくまでも使役主の範疇にしてほしいものだが…………現に、俺のウールヴェは大変優秀だ」
――僕が 優秀じゃないような 言い方 やめて
ディム・トゥーラの言葉に、狼姿のウールヴェが拗ねたように抗議した。
「アードゥルは、防御壁について張ることを待つ理由を、お前に問いかけた」
――うん
「それに対してお前は、アードゥルの伴侶に対する感情を確認した」
――うん
「……それって関係あるのか?」
――あるよ すごい重要なことだよ
「……わけがわからん」
「私だけじゃないようで、安心した」
「では優秀なトゥーラに問うが、なぜ防御壁を張ることを拒む?わかりやすく俺に説明してくれ」
ディム・トゥーラは、同じ名を持つウールヴェに問い返した。
『君は扱いがうまいな』
『慣れだ。おだてて、木に登らせるぐらいは可能だと思う』
――まだ 時間じゃないから
「なんの?」
――かいると 世界の番人の 対話が終わっていない
「なんだと?!」
ディム・トゥーラは目を剥いて、上空の防御壁の展開を平然と続けているカイルに慌てて向き直った。
カイルは空中に防御壁を展開しながらも、ずっと考えていた。ディム・トゥーラの遮蔽は完璧で、カイルの負荷を驚くほど減らし、意識がさえわたる効果をもたらしていた。
落ちてくる恒星間天体は、まだ巨大だった。
カイルが熱圏の境界域で、防御壁を展開することを選択したのは、ディム・トゥーラの支援追跡による自己の能力拡大を自覚したからだ。
熱圏の境界で留めることにより、摩擦熱で巨大隕石の外周部分の崩壊をもたらしていた。
もう少し質量を削ぎたい。
だが、それも展開する防御壁の数が尽きれば、そこまでだった。
カイルはその予想できる結果を理解し、それでも、防御壁を展開しつづけた。
内心、ここまでできるとは思わなかった――カイル自身がそう思っていた。
カイルの同調能力は人の思念を拾いやすい。だからこそ、自己防衛で余計な思念を拾わないように遮蔽をしているのが常だった。
今、その必要行為をディム・トゥーラが代行してくれている。それだけで、カイルは今までそれに浪費していた能力を他に振り分けることができたのだ。
しかも他者の雑念が完全に遮断されている。それは支援追跡者であるディム・トゥーラの能力の高さの証明でもあった。
――ディムがいれば、なんでもできる気がする
それはカイルにとっての本音であり、真実であり、現実だった。
意識が明瞭になり、知覚がまるで無限のように拡大していく。
カイルはいつのまにか、世界の番人の領域に立っていた。
――――やっと、来たな
「うん」




