(36)我が光を示される汝に栄光あれ⑩
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落ちてくる凶悪な星の欠片は、虹色の透明な障壁に何度も阻まれる。
「この非常識な規格外めっ!」
それを目撃したアードゥルが上空を見上げながら、呆れたように酷評した。
「規格外に規格外って、言われたくないと何度言えばわかるのさ?!」
カイルは次々と防御壁を展開しながら、アードゥルの暴言に抗議した。
アードゥルは怒鳴り返した。
「それはこちらの台詞だっ!上空10キロメートル付近に展開する予定だったのに、なんで上空80キロメートルの熱圏付近なんだっ!勝手に計画を変えるなっ!」
「しょうがないじゃない、ディムがいるから飛距離が伸びちゃったんだからっ!」
「飛距離は簡単に伸びるものじゃないっ!」
「え?だって簡単に伸びちゃったし…………ね?」
同意を求めるように視線をむけてくるカイルに、ディム・トゥーラは既視感を覚えた。
シャトルを使った同調実験で、80000キロという規格外の記録を打ち立てた二人は、翌日から関係する研究者から追い回された。この時も、カイルは「なんかディムと組んだら、できちゃった」と無責任これ極まれりな問題発言をした。
支援追跡の有用性についての新たな研究分科会まで発足され、ディム・トゥーラは参加を強要され、巻き込まれて散々だったのだ。
――こいつ、規格外ぶりを、また俺のせいにしようとしている
「俺に同意を求めるな。それから俺のせいにするな」
ディム・トゥーラは、冷淡に応じて全否定した。
「いやいや、ディムの影響は大きいよ?これだけ、飛距離が伸びたことで証明されているよね?」
「だから、俺に責任転嫁するな。俺は無関係だ」
「……………つれない」
「おい、支援追跡者っ!この規格外を野放しにするなっ!」
「俺の優先順位は遮蔽なんだ。今現在この阿鼻叫喚の思念波を食らったら、こいつは一発で病む」
「子守りをこちらに丸投げか?!」
「そうとも言う」
高度読み上げの任務から解放されたミナリオは、そばで機材を片付けて撤収準備をしているクトリに、なんとも言えない表情を向けた。
「…………クトリ様、この人達、ふざけているんですかね?」
「いや、素の会話ですよ?」
「でも、世界が大災厄で終末を迎えるか否かの修羅場の会話に思えないんですが……?」
「まあ、確かにそうですが、面子が面子だけに、しょうがないと諦めてください。間違いなく非常識の規格外集団ですから」
「…………………」
まだ3人はシリアスとは程遠い思えない会話を交わしているが、恒星間天体の落下は、カイルが展開し続ける防御壁によって阻止されていた。
側から見ると、例えるなら雑談をしながら、敵の進軍を片手間で食い止めているような構図だった。
「規格外の能力者を理解しようと努力することは、やめた方がいいですよ?労力と精神負荷に見合ったモノは絶対に得られませんから」
少年姿の賢者は悟りを開いたような口調で、専属護衛に助言した。しかも、やけに説得力があった。
クトリはカイルに声をかけた。
「カイル、僕達、撤収しますね〜」
こちらの賢者の態度も少々おかしい。
天空にここを目指して巨大な星が迫っているのに、そろそろ散歩をやめて戻りますね、に近いニュアンスで避難することを宣言している。
「うん、お疲れ様、協力ありがとう。助かったよ」
「…………カイル様」
「うん、何?」
そんなメレ・エトゥールの執務室で手伝いが終わったような挨拶はやめてください――そう、抗議する機会をミナリオは逃した。
ミナリオは諦めて、意味深なため息をついた。
「夢中になって、帰ることを忘れないでくださいね」
専属護衛の幼児に言い聞かせるような注意の内容に、カイル以外の全員が吹き出した。
「ちょっと、ミナリオ?!」
「カイル様、皆様、ご武運を。皆様の未来が光り輝くものでありますように」
ミナリオは戦場での別れの儀礼の言葉を用いることにした。多分、メレ・アイフェス達の挨拶より、こちらの方がふさわしい。
「ミナリオ」
カイルは移動装置に向かうミナリオに声をかけた。
「ありがとう。僕は君が専属護衛でよかったよ。ファーレンシアのことを安心してまかせられる」
「……………………」
青年はいつものように人を魅了する笑顔を見せた。
去りがたくさせるとは、相変わらずの無自覚無双の凶悪さだった。
「……………………私が胃潰瘍で倒れる前に、無事な姿を見せてください」
「それは責任重大だね」
ミナリオの真顔の突っ込みに、カイルは笑い声をあげた。




