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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(32)我が光を示される汝に栄光あれ⑥

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


ブックマーク、ダウンロード、評価ありがとうございます。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「すみません。わ、忘れてください」


 セオディア・メレ・エトゥールは、静かに恥じらっている賢者(メレ・アイフェス)に近づいた。


「シルビア」


 顔を(おお)っているシルビアの耳元で、セオディア・メレ・エトゥールは低い声で名前を(ささや)いた。その行為は、シルビアの腰が砕けそうになる破壊力があった。

 実際、シルビアは(ささや)き声に驚き、よろめいた。

 それを口実に、メレ・エトゥールはシルビアの身体を支えて、そのまま自然に抱きしめた。


「シルビア、エトゥール王族としてあるまじき発言を、ここだけの話として許してもらえるだろうか?」

「は、はい?」

「貴女に名を呼んでもらえるなら、大災厄襲来も悪くない――そう思ってしまった最低最悪のエトゥール王だ。名を呼んでくれるか?」

「――」


 シルビアは顔をあげたが、変わらず真っ赤だった。


「セオディア…………様?」

「様はいらない」

「……セオディア……」

「最高だ、シルビア。大災厄に立ち向かう勇気を得た」


 セオディアはシルビアの(くちびる)に軽い口づけをした。


 ちゃっかり、ドサクサに(まぎ)れている――と、やりとりを見守っていたファーレンシアは思った。

 その心の突っ込みが聞こえたかのようにセオディアが振り返り、ファーレンシアはやや慌てた。


「ファーレンシア、できることをしたいと言ったな?」

「はい」

「では、エトゥールの王族として、なすべきことを共にしよう」

「…………それは?」

「民衆を説得して、動揺を(しず)め、暴動を未然に防ぐ。それこそが、カイル殿が求めていた任だ」


 ファーレンシアは力強く(うなず)いて同意した。


「シルビア、貴方も協力してくれるか?」

「も、もちろんです」


 メレ・エトゥールはようやく抱きしめていたシルビアの身体を解放した。


「二人ともメレ・アイフェスの布地で作った例の外套(がいとう)を着込むように。いざという時に、あれなら革鎧(かわよろい)より遥かに丈夫なことは証明されている」

「わかりました」


 マリカがその言葉をきき、荷の中から3人分の外套(がいとう)を取り出した。メレ・エトゥールは、シルビアの分を受け取ると、彼女が袖を通せるように広げた。

 シルビアは黙って、外套を着せてもらった。メレ・エトゥールとシルビアの外套には、赤い精霊鷹の紋様が意匠として組み込まれている。

 

「シルビア」

「はい」

「正直言えば、貴女が危険な目に遭わないよう、この初代の遺構(いこう)である中でも一番安全な『かんりしつ』とやらに閉じ込めて、外から鍵をかけようかと思ったこともある」


 意外なことをメレ・エトゥールが言いだした。


「それは監禁と言って、私達の世界では犯罪ですが……」


 妙な突っ込みをシルビアがした。


「同じことをイーレ嬢に言われた。貴女達の世界では男女は対等であり、女性だからという理由で保護される(いわ)れはない、と」

「その通りです」


 シルビアはイーレが助言したことにも驚いたが、その点を認めた。


「私達の世界では、女性といえども、弱くはありません。男性に依存することなく、職をもち、生活することができます。性別による地位の差がありません。まあ。貴族も王族もいませんが……」

「そうらしいな」

「セオディア。私は貴方を支えたいのです。庇護(ひご)される立場ではなく、対等に横に立つものとして。大災厄という重荷を均等に分かち合いたいのです……」


 シルビアの言葉に、セオディア・メレ・エトゥールは微笑を浮かべた。

 彼はいつものように洗練された所作で、エスコートするための手をシルビアに向かって差し出した。


「私の横の場所は永久に貴女の物だ、シルビア」


 新たな殺し文句に、シルビアは自分の脈拍数が跳ね上がったことを感じた。西の民の占者(せんじゃ)先見(さきみ)は正しかった。彼の言動に完全に振り回されている。

 だが、彼の言葉を心地よいと思っている時点でシルビアに勝ち目はない。完敗なのだ。

 シルビアはその手を取った。

 


「では、始めようか。王族として(たみ)を導く責務を」

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