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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(31)我が光を示される汝に栄光あれ⑤

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


謹んで鳥山明先生のご冥福をお祈り申し上げます。

まだまだ現役で活躍なさると思っていただけに……。


ブックマークありがとうございました。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 なんと無力だろう。

 ファーレンシアは何もできない自分に打ちひしがれた。


 身重(みおも)な今、自分はただ守られているだけで、何もなしていない。それどころか警護に人員を()羽目(はめ)になり、明らかに足を引っ張っている。先見の力さえ失わなければ、もっとカイルの役に立てたのだ。

 メレ・エトゥールは、(うつむ)くファーレンシアをしばし見つめ、言葉を投げた。


「カイル殿から伝言だ。『必ず帰るから、待ってて。愛している』と」

「――」


 こんな時だというのに、カイルは自分の存在を忘れずに言葉を伝えてくれる。ファーレンシアはその優しさに救われると同時に(せつ)なくなった。彼は周囲の人間の心情に敏感で、察することに長けているが、誰が彼の計り知れない苦悩を理解できるだろうか?


「ファーレンシア、私はお前が良き伴侶を得たことに、安心した。彼は間違いなく、お前を愛してる」

「……………………」


 しばらく視線を落としていたファーレンシアは、顔をあげた。


「お兄様、今の私にできることはないでしょうか?」

「ファーレンシア?」

「カイル様の伴侶として、私にできることをしたいのです」

「ファーレンシア、今は安全を確保して確実に生き延びることが、彼に対する――」


 ファーレンシアは激しく首を振った。


「正直、泣きたい気持ちでいっぱいです。許されるなら、カイル様の元に駆けつけたい。でも、それができない。でしたら、私は『今』『この時』にできうることをしたいのです」


 ファーレンシアの翠の瞳が、正面からメレ・エトゥールを(とら)えていた。


「私はエル・エトゥールの名を持つものとして、カイル・メレ・アイフェスの妻として、今できることをします」

「天幕の外はいつ暴動が起こるか、わからず危険だ」

「そう思います」

「ここなら、いざという時にアドリー辺境伯が防御壁で守ってくれる」

「引きこもって安全を図ろうとする王族に誰が従いましょうか?そもそも、お兄様は引きこもるつもりはありませんわよね?今から民衆を落ち着かせるおつもりですよね?」


 セオディア・メレ・エトゥールは、妹の懇願にしばし考えこんだ。


先見(さきみ)は?」

「何もありません」

「世界の番人とも(つな)がれないのか?」

「はい」

「世界の番人は消えたのか?」


 セオディアの問いに今度はファーレンシアが考えこんだ。


「いえ……、いらっしゃる気配はあります」


 気配は感じることができる。

 子供を宿したことで、先見の能力が消えたと思っていたが、そうじゃない可能性があることに、ファーレンシアは気づいた。

 占者ナーヤも先見ができない状態だと聞いている。



 今、未来は均等に道が開かれている。

 滅亡か救済か。



 ではなぜ、世界の番人は沈黙を守っているのか。

 未来への助言ではなく――。


「…………お兄様……ウールヴェは何か語りましたか?」

「いや、何も」


 ファーレンシアのウールヴェも同じく沈黙を守っている。まるで、最初から(しゃべ)れなかったように、言葉もない。

 それは、世界の番人と同じだった。


「ウールヴェは世界の番人の手足――ウールヴェも(しゃべ)らなくなったのは、何か意味があるかもしれません」

「カイルのトゥーラは(しゃべ)っていましたが……」


 (そば)に控えていたシルビアは思わず指摘した。


「そういえば、そうだったな」


 ディム・トゥーラが出現した現場にいたセオディアは、傷ついた天上の賢者(メレ・アイフェス)を気遣う白い狼の思念を聞き取っていた。


「だが、カイル殿のウールヴェは、知能の発達の度合いが遥かに上だ。我々のウールヴェとは違う」

「確かに」

「シルビア嬢は世界の番人と何か会話を交わせたか?」

「あの、その前に……」


 メレ・エトゥールの質問に、シルビアが片手を軽くあげた。


「私はいつまで、シルビア『嬢』とシルビア『様』なのでしょう?」

「「……………………え……」」


 シルビアの言葉が、想像の遥か明後日(あさって)の方向に着弾した。

 シルビアは二人の反応に少し頬を染めて、珍しくモジモジとしていた。


「この混乱のさなか、何を言いだすのかと思われるかもしれませんが……この先どうなるか、わからないこそ……確認するのは今しかないかと思いまして……」


 しどろもどろに言い訳をするシルビアの顔が次第(しだい)に真っ赤になっていく。


「その……略式かもしれませんが、結婚の儀も行いましたし……ね、(ねや)も共にしましたし……地上の風習かもしれませんが……そのもう少し……フレンドリーな呼び方でも……」

「貴方は私を『メレ・エトゥール』と呼んでいるが……」


 ぐっ、とシルビアの方が詰まった。


「そ、それは、あくまでも私達が異国の客人であるといった建前(たてまえ)のため、外交上非礼にならないように――」

「夫婦なのに?」


 シルビアは羞恥(しゅうち)に負けて、顔を両手で(おお)った。

 かわいい――エトゥールの王族である兄妹は冷静沈着な治癒師の普段とのギャップに(もだ)えた。



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