(27)我が光を示される汝に栄光あれ①
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
ここからのBGMはロジャー・ホジソンの「Only Because of You」で行きたいと思います。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
旧観測ステーションと恒星間天体αの爆発破片は、膨大な宇宙ゴミと将来的な流星を引き起こす流星体を生み出していた。
ロニオスが乗ったシャトルは、その中を突き進んでいく。
復旧した宇宙塵防御システムは正常に作動していたが、多数のデブリの衝突の影響がないわけではない。シャトルに搭載された操縦制御のための量子コンピューターが、設定軌道を維持するために常時再計算を行っている。
『いくら半分まで減量されているとはいえ、このまま海に落ちたら、500年に及ぶ努力が水の泡だ……それにしてもウールヴェが四つ足しか存在しないのは、失敗だった……手がほしいぞ……操作パネルまで思念で扱い……シャトルの加速制御を行い……うん、これは過剰労働だ。対価は10年分の米の発酵酒に相当するな』
ブツブツブツブツ。
愚痴のような独り言が続く。
先にディム・トゥーラを地上に投げたのは、正解だったな――ロニオスはそんなことを思った。
――――大変そうだな
他人事のような言葉が降ってきた。
『実際、大変だとも。「猫の手も借りたい」―― 鼠を捕ること以外何の役にも立たないような猫の手を借りたい、と思うほど忙しいという比喩表現が存在する』
――――ウールヴェの手を借りるか?
『ウールヴェは常日頃から役に立つ優秀な存在だし、ウールヴェの手は………………お菓子をつまみぐいするのに器用に使っていたな』
どのウールヴェか、言わずもがなだった。
『だが、機械操作と理論はさすがに教育する暇がなかったな。私の荷重労働は致し方なし、だ』
――――ロニオス
『安心するといい。約束は果たす。ちゃんと文明は存続する』
ロニオスは作業の手を止めずに答えた。
『君は君の成すべきことを果たせばいい。ただそれだけだ。人間について学べたかね?』
返事はなかった。
『この世で人間ほど複雑な生物はないだろう。「家庭」という極小コミニティーから「国家」という最大コミニティーまで、様々な集団が乱立し、協調するか対立している。「個人」もしくは「集団」の思惑が交錯し、歴史を動かしていくのだ。非効率で時間の無駄ではあるが、そのエネルギッシュな思念が、ほとんど未利用のまま滞納されて放置される。それを享受している君には、どれだけ膨大か理解できるだろう?彼等は自分の放出している思念エネルギーに気づかない。彼等のほとんどが今日生きるという命題に夢中になり、富裕層に支配されていることにも気づかない。視野が狭く、実に愚かだが、意志力の強さと情の深さがこの先、進化と文明の発展を促すんだ。そうやって変化していくのが人間だ』
ロニオスは作業を継続しながら、熱く語った。
『と、私は仮説をたてている。君の意見も拝聴したいものだな』
――――いまだに、よくわからない。特に、他者のために、身体を張って庇うなど
『カイル・リードのことだな』
ロニオスは楽しそうに笑いを漏らした。
『行動の判断基準がリヴィアに似ている。これも遺伝子の成せる技かね?時間があれば、一週間ほど議論したいところだが…………残念だ、あと5分しかない』
ロニオスは作業を終えて、スクリーンが捉えた高速で近づいている恒星間天体βを見つめた。
『君は面白い研究対象であり、惑星存続に対する同志であり、同盟者であり、教え子であり、そして誓約の対象であり……………………よき仲間であり、親しき友であった。この500年、楽しい時間を過ごせた。感謝している。だが、私はそろそろ休みたい』
――――望みは?
『君も仕事中毒だな?惑星文明が存続する様を、あちらでリヴィアと共に平穏に眺める――こんなところで、どうだ?』
――――酒は存在しないが
『抜かりはない。ちゃんと墓前に最上級の米の発酵酒を定期的に供えるよう遺言書に加筆した』
ウールヴェは勝ち誇ったように笑った。
『息子や息子の支援追跡者と交流できて楽しかったぞ。君が息子を地上に引っ張り落とした時には、驚いたものだ。――リヴィアには、詫びて賭けの敗北を認めねばならない。私は情というものを、覚えてしまったようだ』
飛来した恒星間天体βに対して、シャトルはその落下角度を変えるべく、正確に驀進を続けた。




