(22)我は汝が誇りの源④
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
おかげ様で2021/2/20から始めたこの作品も、まる3年になりました。(まあ、予想通り記念の2/20は更新できなかったわけですが)
2024/2/21時点で
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です。
ここまで続けられたのは、読者の皆様のおかげです。
よくぞ、この作品を見つけて読んでくださいました。感謝。
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
ディム・トゥーラは所長のエド・ロウに連れ回された時に鍛えた外面用の完璧な笑顔を、初代のウールヴェに向けた。
「だいたい貴方の趣味は、『親の総取り』じゃないですか。あれだけ文明維持に奔走してたのに、途中で放り出すとは思えませんよ。俺は貴方が、アスク・レピオスをやりこめたあとに必ず戻ってくる方に賭けただけです」
『……………………』
さらに止めを刺すように、ディム・トゥーラはにっこりと笑ってみせた。
「現に貴方は戻ってきた。賭けは俺の勝ちです」
ロニオスは弟子の態度に内心困惑していた。
アスク・レピオスの排除を理解していながら、ディム・トゥーラには、その行為に対する忌避や嫌悪が皆無だった。
『私は君を見捨てたんだぞ?本当にわかっているのか?』
「アスク・レピオスと対峙するためでしょう?俺が貴方の立場ならそうするし、俺に瞬間移動の能力があれば、飛んでいって、俺が奴の首を絞めました。所長が言うには、カイルの育成に横槍をいれたのはアスク・レピオスだそうで」
ロニオスはそこで、合点がいった。
ディム・トゥーラ自身を危機に直面させた減点分より、アスク・レピオスに対する個人的怒りと、彼を始末したことの評価加点分が遥かに凌駕し、ディム・トゥーラの中ではプラス評価に落ち着いているのだ。
『………………私は君のカイル・リード至上主義を低く見積り過ぎたようだ』
はあっ、とウールヴェはため息をついた。
「俺のウールヴェを怪我させた分は、対価を要求しますからね」
『君自身よりウールヴェを優先か?』
「当たり前です。カイルの警告に反応して、こいつ達が動いてくれなければ俺は間違いなく即死だったし、トゥーラにデカい借りをつくってしまったんですからね」
――僕 ライバルに酒を送った
自慢げにトゥーラは胸を張る。
――僕 とてもできる賢い子
「ああ、そうだな。賢くて優秀で、さすがカイルのウールヴェだ」
ディム・トゥーラの褒め言葉に、幼いウールヴェは興奮して尻尾が旋風機状態になった。無重力状態でそれは推進の役割になり、ウールヴェの身体は向かいの壁にすっ飛んでいった。
ディム・トゥーラとロニオスはその光景をしばらく見守った。
『…………なぜだろう……君に対してとんでもない負債を抱えたような気がするのは……』
「よく、気がつきましたね。賭けの報酬は容赦なく取り立てろ、が貴方の教えでしたよね?」
『…………私には、もう最新量子コンピューターを買い与える伝手はないぞ?』
「…………なぜ、そこで最新量子コンピューターが出てくるのですか?」
『昔、ジェニ・ロウに多大な迷惑をかけて、その代価請求が最新量子コンピューターだった』
「それを調達できる人脈の方が俺は恐ろしく感じますし、今、ジェニ・ロウに多大な迷惑をかけていないとでも?」
『……………………』
「……………………」
『…………逃亡用にこのシャトルを拝借してもいいかね?』
「何、馬鹿なことを言っているんですか」
ディム・トゥーラは呆れたようにロニオスを見た。
「そんなことより、シャトルの修復に知恵を貸してください。出力の確保が80%で心許ないです」
『80%か…………』
ロニオスはすぐに空中にモニターを展開して、シャトルの予定軌道を確認した。
ディム・トゥーラの指摘通り、シャトルは修復が間に合わず推力がおち、やや予定より速度が足りなかった。
『わかった。私がシャトルを預かろう』
「はい?」
『地上はまかせる。どうせ、私が不在のへべれけプランを策定しているのだろう?』
名称まで当てられてディム・トゥーラはギクリとした。
ウールヴェが薄暗いシャトルの中を一瞥した。
とたんにエネルギー消費のため切断したシャトル内の灯と重力が復活した。
ディム・トゥーラは、軽く尻餅をついた。
状況の変化は、それだけではなかった。シャトルが加速したのだ。
「ちょっと、何をやっているんですか?!」
ディム・トゥーラは驚きの声をあげた。
『このまま、恒星間天体まで、私が持っていく』
「はあ?!」
『そちらの方が、修復より手っ取り早い。時間も迫っているからな』
「持っていくって……まさか……」
ウールヴェが笑ったように見えた。
「規格外にもほどがある!!!」
『最高の褒め言葉だ』
ウールヴェは金色の瞳でディム・トゥーラを見つめた。
『さて、ディム・トゥーラ。君はなかなか優秀な弟子だった。短い間だったが、楽しかったぞ』
「はい?」
『卒業でいいだろう。弟子教育はここまでだ』
ディム・トゥーラが問い返す前に、ロニオスは言った。
『君は生きろ。カイル・リードとともに』
ディム・トゥーラは、自分の身体が再び無重力状態になったかのようにふわりと浮き上がったことを感じ、次の瞬間、見えない力に弾かれた。




