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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(16)我の歴史を汝は生きる②

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

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現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

『ディム・トゥーラっ!!!』


 カイルの警告の叫びを、ディム・トゥーラは確かに聞いた。


 ディム・トゥーラが身構えるより早く、カイルの思念に反応した白い虎がディム・トゥーラを(かば)うように前に(おど)り出た。


 その時、シャトルの壁に閃光(せんこう)が走った。


 生まれた爆風でディム・トゥーラの身体は吹き飛んだ。

 この衝撃で即死しなかったのは、自分のウールヴェが(たて)になり、凶器と化した破片をその身体で受け止めたからだ、と瞬時に悟った。


 さらに身体が壁に叩きつけられるところを何かが背後に存在し、クッションの代わりをして衝撃(しょうげき)を吸収したのだ。


 混乱の中、次に来たのは猛烈(もうれつ)な負圧だった。

 爆発で生じた亀裂(きれつ)から空気が凄まじい勢いで宇宙空間に流れ出ていた。

 艦内の幾つかの備品と爆発の金属片が宇宙空間に吐き出され、消えた。


 急激な酸欠は、意識の消失を招き、ディム・トゥーラは数秒ほど窒息(ちっそく)状態に(おちい)った。体内チップが大量に消費された。


 シャトル内の異常を検知したAIがけたたましい警報を鳴らす。

 皮肉なことにシャトル内の酸素が減ったことが消火につながり、火災はあっさりと収まった。次に破壊された隔壁(かくへき)の自動修復が始まった。


 全身が痛い。

 だがなぜ、宇宙空間にこの身体が飛び出さなかったのだろうか?


 警報音は収まらない。酸素濃度の低下を感知したため、新たに空気が供給され始めている。ディム・トゥーラは激しく息をつき、咳き込んだ。


 全身の痛みは治らない。ディム・トゥーラは限界に近い痛みに呻いた。

 意識が朦朧(もうろう)とする中、カイルの思念が聞こえた。


『ディム!!ディム・トゥーラ!!』


 うるさい。本当にうるさい。

 だが、この声が失神することを許さなかった。


 ディム・トゥーラはなんとか目をあけ、白煙がただよう艦内の状況を把握(はあく)しようとした。

 白い虎は、目の前の床に横たわり瀕死(ひんし)に近い状態だった。ディム・トゥーラは全身の痛みは、ウールヴェとの(きずな)のためだと気づいた。

 もちろん、壁に叩きつけられていたら、脳挫傷(のうざしょう)でどうにもならなかっただろう。


「……お前か……」


 カイルのウールヴェであるトゥーラが、ディム・トゥーラの背中を支えていた。カイルと同じ金色の瞳が、力なくもたれかかるディム・トゥーラを見下ろしていた。


 まだ思考はまとまらなかった。


『ディム!!ディム!!』

「…………騒ぐな。……無事だ」

『ディム!本当に無事?!無事なんだね??』

「無事だと言っている……状況を確認するから、切るぞ」

『ちょっと、ディム?!』


 ディム・トゥーラはカイルの思念をシャットアウトをした。


――嘘つき


 ウールヴェのトゥーラは、短く突っ込みをいれた。


「……カイルには伝えるな……奴が不安定になる……無事を伝えろ……」


――僕 また中間管理職の悲哀?


「……なんだ、それは……」


 非常時だと言うのに、ディム・トゥーラは笑ってしまった。板挟(いたばさ)みと言いたいのだろう、とは察した。


『ディム・トゥーラ?!何があった?!ディム・トゥーラ!!』

 シャトルの異常は、観測ステーションも察知したらしい。通信機からエド・ロウの声が聞こえる。

 そっちは無視することにした。


「トゥーラ、こいつの……治療を頼む」


――自分よりも?


「もちろんだ」


 ウールヴェは、ディム・トゥーラの背中側から身体をずらし、器用にディム・トゥーラの身体を壁にもたれかけさせた。

 横たわる仲間のウールヴェのそばに近寄ると、血だらけの(ウールヴェ)の身体の傷を舌で舐め始めた。


 どこか、野生動物の治療方法に似ている。

 傷を舐めることで、唾液に含まれる殺菌成分で傷を癒すのだ。

 ディム・トゥーラはぼんやりとその光景を眺めていた。


 やがて白い狼の全身がゆっくりと金色のオーラに包まれた。その金色の波は、横たわる虎に吸い込まれていく。


 と、同時にディム・トゥーラの全身の痛みが引き始めた。


 しばらくして瀕死だったウールヴェの呼吸が落ち着いてきた頃には、ディム・トゥーラの思考もはっきりとしてきた。


――でぃむ・とぅーらの治療は?


「……いらん」


 ディム・トゥーラは理解したのだ。簡易な監視ツールが存在している。

 それは生体反応(バイタル)だった。医療関係者が確認できるマーキングに等しい。 





 ジェニ・ロウはシャトルの内部爆発という不測の事態に、やや呆然としていたが、ロニオスの意図がようやく理解できた。管理者権限でディム・トゥーラに生体反応による生存を確認すると、ハッキングで()()()()()


 管理室で医療担当者から悲鳴があがる。


「ディム・トゥーラの生体反応(バイタル)が消失っ!!」


 通信でディム・トゥーラに呼び掛けているエド・ロウが蒼白になるのを見たジェニ・ロウは、夫に心の中で謝った。ごめんなさい。

 敵を(だま)すなら味方から――性格の悪いロニオスが好んで使う手法だった。

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