(16)我の歴史を汝は生きる②
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『ディム・トゥーラっ!!!』
カイルの警告の叫びを、ディム・トゥーラは確かに聞いた。
ディム・トゥーラが身構えるより早く、カイルの思念に反応した白い虎がディム・トゥーラを庇うように前に躍り出た。
その時、シャトルの壁に閃光が走った。
生まれた爆風でディム・トゥーラの身体は吹き飛んだ。
この衝撃で即死しなかったのは、自分のウールヴェが盾になり、凶器と化した破片をその身体で受け止めたからだ、と瞬時に悟った。
さらに身体が壁に叩きつけられるところを何かが背後に存在し、クッションの代わりをして衝撃を吸収したのだ。
混乱の中、次に来たのは猛烈な負圧だった。
爆発で生じた亀裂から空気が凄まじい勢いで宇宙空間に流れ出ていた。
艦内の幾つかの備品と爆発の金属片が宇宙空間に吐き出され、消えた。
急激な酸欠は、意識の消失を招き、ディム・トゥーラは数秒ほど窒息状態に陥った。体内チップが大量に消費された。
シャトル内の異常を検知したAIがけたたましい警報を鳴らす。
皮肉なことにシャトル内の酸素が減ったことが消火につながり、火災はあっさりと収まった。次に破壊された隔壁の自動修復が始まった。
全身が痛い。
だがなぜ、宇宙空間にこの身体が飛び出さなかったのだろうか?
警報音は収まらない。酸素濃度の低下を感知したため、新たに空気が供給され始めている。ディム・トゥーラは激しく息をつき、咳き込んだ。
全身の痛みは治らない。ディム・トゥーラは限界に近い痛みに呻いた。
意識が朦朧とする中、カイルの思念が聞こえた。
『ディム!!ディム・トゥーラ!!』
うるさい。本当にうるさい。
だが、この声が失神することを許さなかった。
ディム・トゥーラはなんとか目をあけ、白煙がただよう艦内の状況を把握しようとした。
白い虎は、目の前の床に横たわり瀕死に近い状態だった。ディム・トゥーラは全身の痛みは、ウールヴェとの絆のためだと気づいた。
もちろん、壁に叩きつけられていたら、脳挫傷でどうにもならなかっただろう。
「……お前か……」
カイルのウールヴェであるトゥーラが、ディム・トゥーラの背中を支えていた。カイルと同じ金色の瞳が、力なくもたれかかるディム・トゥーラを見下ろしていた。
まだ思考はまとまらなかった。
『ディム!!ディム!!』
「…………騒ぐな。……無事だ」
『ディム!本当に無事?!無事なんだね??』
「無事だと言っている……状況を確認するから、切るぞ」
『ちょっと、ディム?!』
ディム・トゥーラはカイルの思念をシャットアウトをした。
――嘘つき
ウールヴェのトゥーラは、短く突っ込みをいれた。
「……カイルには伝えるな……奴が不安定になる……無事を伝えろ……」
――僕 また中間管理職の悲哀?
「……なんだ、それは……」
非常時だと言うのに、ディム・トゥーラは笑ってしまった。板挟みと言いたいのだろう、とは察した。
『ディム・トゥーラ?!何があった?!ディム・トゥーラ!!』
シャトルの異常は、観測ステーションも察知したらしい。通信機からエド・ロウの声が聞こえる。
そっちは無視することにした。
「トゥーラ、こいつの……治療を頼む」
――自分よりも?
「もちろんだ」
ウールヴェは、ディム・トゥーラの背中側から身体をずらし、器用にディム・トゥーラの身体を壁にもたれかけさせた。
横たわる仲間のウールヴェのそばに近寄ると、血だらけの虎の身体の傷を舌で舐め始めた。
どこか、野生動物の治療方法に似ている。
傷を舐めることで、唾液に含まれる殺菌成分で傷を癒すのだ。
ディム・トゥーラはぼんやりとその光景を眺めていた。
やがて白い狼の全身がゆっくりと金色のオーラに包まれた。その金色の波は、横たわる虎に吸い込まれていく。
と、同時にディム・トゥーラの全身の痛みが引き始めた。
しばらくして瀕死だったウールヴェの呼吸が落ち着いてきた頃には、ディム・トゥーラの思考もはっきりとしてきた。
――でぃむ・とぅーらの治療は?
「……いらん」
ディム・トゥーラは理解したのだ。簡易な監視ツールが存在している。
それは生体反応だった。医療関係者が確認できるマーキングに等しい。
ジェニ・ロウはシャトルの内部爆発という不測の事態に、やや呆然としていたが、ロニオスの意図がようやく理解できた。管理者権限でディム・トゥーラに生体反応による生存を確認すると、ハッキングで消失させた。
管理室で医療担当者から悲鳴があがる。
「ディム・トゥーラの生体反応が消失っ!!」
通信でディム・トゥーラに呼び掛けているエド・ロウが蒼白になるのを見たジェニ・ロウは、夫に心の中で謝った。ごめんなさい。
敵を騙すなら味方から――性格の悪いロニオスが好んで使う手法だった。




