(13)精霊の泉②
罵声の反応はすぐにあった。
巨岩に、落雷に似た閃光が着弾した。そこには赤い精霊鷹が降臨していた。その姿は雷のような放電するオーラを帯びていた。
空気が圧で震えている。カイルが見慣れている精霊鷹に宿っているのは間違いなく世界の番人だ。ハーレイはすぐに膝をつき、頭をたれたが、隣にいる白い獣は不遜なままだった。
――――お前は馬鹿か
世界の番人の第一声がそれだった。
――――大陸中の加護持ちに響き渡っている
『それが、目的だからね』
カイルはいい放った。
『来るまで喚くつもりだったけど、ずいぶん早いお越しなことで』
――――うるさいからだ
『次回もこの方法を採用させてもらうよ』
――――何の用だ
『イーレを何で、この地に飛ばした?』
――――必要な時に必要な場所に飛ばすと言った
『イーレは協力してくれる人物だ。その彼女を傷つけるとはどういうことだ。僕は怒っている』
――――質問をしたのも彼女の選択だ
『そうなるよう誘導したのはお前だろうがっ!』
カイルは怒鳴りつけた。
『大災厄以外は誓約がないはずだ。イーレと話したあの声の主は誰だ?』
――――過去にアストライアーに仕えし者
『なぜ彼がイーレに関わる?』
――――彼がそれを望んだからだ。それに彼女も望んだ。
『彼女は傷つくことなど、望んでいない』
――――彼女が真に望んでいることが何か、お前は知っているはずだ、メレ・アイフェス
『――』
――――ついでにお前は、彼女の二つの道を見たはずだ。これはかなりの譲歩だ。本人にも警告したのだからな。
『どこが譲歩だっ⁉︎ お前のしたことは、彼女の心を土足で踏みにじっているんだぞ⁉︎』
――――それは見解の相違というものだ
『これ以上、イーレを傷つけるな。僕は仲間が傷ついてまで大災厄を止める奉仕はしないぞ』
――――そんなことはない。お前は結局奉仕する。
『しない』
――――するぞ、メレ・アイフェス。お前は頑固で、馬鹿で、情にもろい。本当にそういうところは、よく似ている。お前は関わった者を見捨てることなどできない
『うるさい!』
苛立つカイルにファーレンシアの静かな思念が割り込んだ。
『……カイル様、シルビア様が至急戻って欲しいとおっしゃってます』
シルビアも気づいたらしい。
『今日は時間切れだが、またくるからな。首ねっこ洗って待っていろ』
「カイル!!」
カイルの捨て台詞をハーレイが蒼白になって諌める。
――――今度は静かに呼び出せ。それが条件だ。
鷹は姿を消した。たった今までそこにいたはずなのに、空気と同化したように見えなくなった。
一瞬にして空気の圧は消え、森が元の姿を取り戻した。鳥の囀りが戻ってくる。
『ハーレイ、ちょっとここで、待っていてくれないか。15分ほどで戻る』
「待て、カイルっ!!こちらも聞きたいことが――」
先程の世界の番人と同じく、瞬時に青年の気配は消え、無邪気な表情の精霊獣だけがハーレイの目の前に残った。
カイルは目を覚まし、跳ね起きた。同調の補助をしていたファーレンシアがほっとした表情をする。
「すぐにあちらに戻る。シルビア、アストライアーのことだね?」
シルビアは頷いた。
「偶然で片付けるには無理があります。アストライアーはイーレの死んだ原体の姓です。先程ファーレンシア様に中継していただいた老女とのやり取りの記憶で、彼女がパニックを起こしたのはアストライアーの名がでてからです」
シルビアは片手で口を覆った。
「この惑星は、イーレの原体が死んだ場所ではないでしょうか?」
「僕も同じ仮説にたどり着いた。だがそうなると、過去にこの惑星を中央は探索して、しかも降下していたことになる」
「しかもカイルが見た記憶の通りなら、イーレの原体は、過去の西の民を導いた賢人になります。時期的に初代エトゥール王を支えた八賢人と一致しませんか?」
「八賢人も中央の人間だった?」
「八賢人の記録がないことも、エトゥールに不釣り合いな上下水道の技術があるのも説明がつきます。接触を禁じる中央の法規がいつ出来たのか――昔は合法だったのかもしれません」
「だけど、この惑星の探査記録はない、未知の惑星の扱いになっている」
「そこなんです。そればかりは、地上で確認はできません」
「ああ、畜生、ディムがいればなあ……」
「今の最大の問題はイーレです。心的外傷を持つ彼女が死んだ可能性のある西の地にいるのは危険です。彼女の心が壊れてしまう。世界の番人が言っていた『イーレの望む物』は、心的外傷で失われているイーレの原体の記憶だと思います」
「もうひとつ問題がある。イーレの使った移動装置の着床痕跡を見て、ハーレイはそれを幾度か見たことがあるそうだ」
カイルは親指を強く噛んだ。
「現地を確認する必要があるが、誰かが移動装置をこの世界で使っている可能性がある」




