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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(14)我は汝を支えん⑥

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


ブックマークありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。

面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 カイルは(あきら)めの短い吐息をついた。


「それをシルビアは、古傷を治療するという真逆の措置(そち)をした。まあ、彼女の性格と信念なら、当然そういう選択するだろうとは、思う。問題は――セオディア・メレ・エトゥールが、そこまで先読みして、あえてシルビアに『煮るなり焼くなり好きにしていい』と、許可したことかな」

「え?!」


 ミナリオは驚きの声をあげた。

 あの場にいた誰もが驚いたメレ・アイフェスの治癒師(ちゆし)の選択は、実はエトゥール王に誘導されていたと、カイルは言っているのだ。


「え?いや、まさか……」

「シルビアに対する点数稼ぎや()れた弱みも多少あったとしても、メレ・エトゥールは元からガルース将軍を引き込む気が満々だった。さすがアッシュやクレイを勧誘しただけの前歴はあるよ。僕はそれに巻き込まれただけだ」





「な、な、な、なんだって??」


 それまで黙って話をきいていたクレイは、エトゥール王の思惑よりも、別の意味でミナリオが語る内容に(あわ)てふためいた。

 カストの大将軍の対応についての賢者の行動の話題が、自分に飛び火している。そんな心情とシンクロしているように、エトゥールの空に、また一つ大きな火球がよぎっていた。


「ま、まさか、カイル様は私の過去を――」

「当然、ご存じですよ」

「?!?!!!」


 滅多(めった)に見られない第一兵団の団長の動揺ぶりが(ひど)かった。


「……俺の……俺の黒歴史が……バレている……なんてこった……()んだ……」


 一人称がかわり、ぶつぶつと(うつろ)な表情で呟く兵団長に、ミナリオは軽く右手をあげた。


「あ、兵団長がそんな風にこの件で動揺した場合の伝言を、カイル様から預かっていますが……」

「………………なんて?」

「『暗殺者(アッシュ)を勧誘している時点で、メレ・エトゥールの選択は今更驚かないし、聞かされている。そもそもクレイ自身が「前職」でマリカに会っているから、マリカはとっくの昔にこのことを知っている』と」

「………………………………え?」


 密かに交際中のはずのエル・エトゥールの筆頭(ひっとう)侍女(じじょ)の名前を出されて、泣く子も黙る強面(こわもて)の第一兵団長クレイは完全に固まった。


「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。そもそも俺――じゃなく私が、動揺するって、先見(さきみ)じゃあるまいし――」

「『こうどうしんりがく』と言うそうですよ?」

「こうどう……?」

「なんでも行動を観察すると、手にとるようにその心理などを分析できるとか。団長が、そもそも筆頭侍女であるマリカになかなか結婚申込をしないのは、戦争で寡婦(かふ)にしてしまう危惧(きぐ)の点もあるが、現在街中に舎弟(しゃてい)が多数いて治安維持に一役買っている「前職」をマリカに言い出せないからだろう、っておっしゃってましたよ?そうなのですか?」


 ミナリオの言葉に、クレイは蒼白(そうはく)になって、口をぱくぱくとさせ言葉を探したが、何も見つからなかった。


 そもそも「前職」とメレ・アイフェスは言葉を取り繕っているが、「お忍びででかけていた少年時代のセオディア・メレ・エトゥール相手の誘拐未遂(ゆうかいみすい)という大罪(たいざい)を犯した街のチンピラ」が正しい表現なのだ。


 全てが肯定されたことに、ミナリオは感心した。


「カイル様の洞察(どうさつ)通りなんですね。カイル様が言うには、団長はその昔、マリカを街で助けたそうですよ?心あたりはありませんか?だからマリカは貴方の素性(すじょう)を知っているそうです」

「…………助けた?」


 記憶にはない。

 施療院(せりょういん)のエル・エトゥールのお忍びが理由で交流が始まったと思っていたクレイには寝耳(ねみみ)(みず)だった。聖堂で死にかけた自分を助けてくれたのは、メレ・アイフェスとマリカだと認識していた。

 あの時点でマリカは素性(すじょう)を知っていたことになる。


 ミナリオは少し笑った。絶望の大災厄の中に、未来の希望が生まれることはいいことだ。


「カストの問題も解決に向かうし、結婚申込の障害は全てなくなりますよね」

「…………なんてこった」


 クレイは一度、両手で顔を(おお)ってから、立ち直ったように、顔をあげて正面を(にら)んだ。


「これは、何が何でも生き延びないと……」


 生き延びて、避難地にいるマリカと再会し、多くのことを話さなければならない。

 ミナリオも(うなず)いて同意した。

 (すべ)ては今日という日を生き延びて始まるのだ。


「ですね。ついでにお願いがあるのですが……」

「わかっている。ここはまかせてくれていい。私ももう少ししたら、避難地に移動する」

「ありがとうございます」


 ミナリオは短く礼を言って、行動が読みきれない主人がいるであろう中庭に向かうため、持ち場を離れた。

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