(14)我は汝を支えん⑥
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カイルは諦めの短い吐息をついた。
「それをシルビアは、古傷を治療するという真逆の措置をした。まあ、彼女の性格と信念なら、当然そういう選択するだろうとは、思う。問題は――セオディア・メレ・エトゥールが、そこまで先読みして、あえてシルビアに『煮るなり焼くなり好きにしていい』と、許可したことかな」
「え?!」
ミナリオは驚きの声をあげた。
あの場にいた誰もが驚いたメレ・アイフェスの治癒師の選択は、実はエトゥール王に誘導されていたと、カイルは言っているのだ。
「え?いや、まさか……」
「シルビアに対する点数稼ぎや惚れた弱みも多少あったとしても、メレ・エトゥールは元からガルース将軍を引き込む気が満々だった。さすがアッシュやクレイを勧誘しただけの前歴はあるよ。僕はそれに巻き込まれただけだ」
「な、な、な、なんだって??」
それまで黙って話をきいていたクレイは、エトゥール王の思惑よりも、別の意味でミナリオが語る内容に慌てふためいた。
カストの大将軍の対応についての賢者の行動の話題が、自分に飛び火している。そんな心情とシンクロしているように、エトゥールの空に、また一つ大きな火球がよぎっていた。
「ま、まさか、カイル様は私の過去を――」
「当然、ご存じですよ」
「?!?!!!」
滅多に見られない第一兵団の団長の動揺ぶりが酷かった。
「……俺の……俺の黒歴史が……バレている……なんてこった……詰んだ……」
一人称がかわり、ぶつぶつと虚な表情で呟く兵団長に、ミナリオは軽く右手をあげた。
「あ、兵団長がそんな風にこの件で動揺した場合の伝言を、カイル様から預かっていますが……」
「………………なんて?」
「『暗殺者を勧誘している時点で、メレ・エトゥールの選択は今更驚かないし、聞かされている。そもそもクレイ自身が「前職」でマリカに会っているから、マリカはとっくの昔にこのことを知っている』と」
「………………………………え?」
密かに交際中のはずのエル・エトゥールの筆頭侍女の名前を出されて、泣く子も黙る強面の第一兵団長クレイは完全に固まった。
「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。そもそも俺――じゃなく私が、動揺するって、先見じゃあるまいし――」
「『こうどうしんりがく』と言うそうですよ?」
「こうどう……?」
「なんでも行動を観察すると、手にとるようにその心理などを分析できるとか。団長が、そもそも筆頭侍女であるマリカになかなか結婚申込をしないのは、戦争で寡婦にしてしまう危惧の点もあるが、現在街中に舎弟が多数いて治安維持に一役買っている「前職」をマリカに言い出せないからだろう、っておっしゃってましたよ?そうなのですか?」
ミナリオの言葉に、クレイは蒼白になって、口をぱくぱくとさせ言葉を探したが、何も見つからなかった。
そもそも「前職」とメレ・アイフェスは言葉を取り繕っているが、「お忍びででかけていた少年時代のセオディア・メレ・エトゥール相手の誘拐未遂という大罪を犯した街のチンピラ」が正しい表現なのだ。
全てが肯定されたことに、ミナリオは感心した。
「カイル様の洞察通りなんですね。カイル様が言うには、団長はその昔、マリカを街で助けたそうですよ?心あたりはありませんか?だからマリカは貴方の素性を知っているそうです」
「…………助けた?」
記憶にはない。
施療院のエル・エトゥールのお忍びが理由で交流が始まったと思っていたクレイには寝耳に水だった。聖堂で死にかけた自分を助けてくれたのは、メレ・アイフェスとマリカだと認識していた。
あの時点でマリカは素性を知っていたことになる。
ミナリオは少し笑った。絶望の大災厄の中に、未来の希望が生まれることはいいことだ。
「カストの問題も解決に向かうし、結婚申込の障害は全てなくなりますよね」
「…………なんてこった」
クレイは一度、両手で顔を覆ってから、立ち直ったように、顔をあげて正面を睨んだ。
「これは、何が何でも生き延びないと……」
生き延びて、避難地にいるマリカと再会し、多くのことを話さなければならない。
ミナリオも頷いて同意した。
全ては今日という日を生き延びて始まるのだ。
「ですね。ついでにお願いがあるのですが……」
「わかっている。ここはまかせてくれていい。私ももう少ししたら、避難地に移動する」
「ありがとうございます」
ミナリオは短く礼を言って、行動が読みきれない主人がいるであろう中庭に向かうため、持ち場を離れた。




