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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第23章 大災厄⑤
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(12)我は汝を支えん④

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

カクヨムコンの方がラストスパート時期になりました。

応援してもいいよという奇特な方、カクヨムの方もフォロー等をぜひぜひぜひ!


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 敵対していたカスト軍と対峙(たいじ)して応戦していたのは、兵団員であり、旧友や部下が命を落とすこともあった。その積年の恨みは簡単には消えない。

 エトゥール王の慈悲(じひ)を踏みにじり、今また国境を越え、カスト王自ら進軍しているという報もある。


――カストなど(ほろ)んでしまえ


 呪詛(じゅそ)に似たドス黒い想いが、クレイの胸のうちに常にあった。

 その感情はミナリオにも理解できた。ミナリオも第一兵団所属だった親友を国境の小競(こぜ)り合いで、亡くしている。


「一度、カイル様に質問したことがあるのですがね、カイル様の選択や行動の基準がわからない、と」


 ミナリオは告白した。非常に興味深い話題でクレイの方が釣られた。


「それでカイル様は、なんて答えたんだ?」






「僕の選択や行動の基準?」


 ミナリオの質問に当の本人がきょとんとした。


「ごめん。質問の意味がわからない」

「カイル様がメレ・アイフェスであるから、この世界と相容(あいい)れないことが多数あることは理解しているつもりです。どういう判断基準をお持ちかと……例えば殺人を忌避(きひ)しているとか――」

「ああ、うん、僕の世界では人に危害を加えることは禁忌(きんき)だね」

「では、メレ・エトゥールが親族の貴族を断罪した件などは?」

「西の民の和議のために、必要だったことは理解しているし、非難するつもりはないよ」

「例えば、今後カイル様が犯罪に手を染めた貴族や平民を処断することは――」

「ああ、それは無理だね」


 予想通りの返答が来たが、理由は少々方向性が違った。


「だって、僕は外部の人間だから、権限をもたないよ」

「……えっと……権限とは?」

「地上の法律は、地上の人間に適応されるものであり、地上人ではない僕らが行使する権限がないということだよ」


 理解できずにミナリオは首を(かし)げた。


「つまり権限がないから犯罪者に対して、処断するつもりはないということですか?」

「僕は検察官(けんさつかん)ではないからね」

「けんさつ……」

「ああ、えっと、犯罪を捜査して罪の重さを裁定するような存在と言えばいいのかな?エトゥールで言うと、犯罪者を捕まえるのは、兵団とか近衛兵で治安を維持しているよね。それで逮捕者の処断を下すのは地方領主か王、もしくはその代理人だ」

「まあ、そうですね」

「その地方領主の役割をする専門家集団がいる。僕達の世界では、犯罪者にも擁護(ようご)する立場の人間がついたりもする」


 カイルの言葉は、ミナリオの理解を越えていた。


「は?なぜ犯罪者を擁護(ようご)するのですか?」

罪状(ざいじょう)以上の量刑を課せられたりしないようにとか、無実の罪で訴追されないようにとかだよ。()(ぎぬ)を着せられた人間を救う手段とか、犯罪者の基本的人権の保護の役割がある」

「……人権……犯罪者の?人殺しや盗賊に?意味がわかりません」

「まあ、そうだろうね」


 カイルはミナリオの反応に微笑(びしょう)で応じた。


「でも、ミナリオ、ちょっと考えてみてよ。貧困格差や身分差があるこの世界で、貴族に利用されて尻尾切りのように簡単に殺されてしまう存在は、どのくらいいるだろうか」

「――」

「つまりアッシュみたいな職の人だよ。汚れ仕事を引き受けて、いざとなったら切り捨てられる。この世界は、犯罪者の人権以前に不平等が蔓延(まんえん)している。貧困(ひんこん)、身分差など不平等な格差が多数ある。西の民への偏見(へんけん)もあるよね。そもそも、その人達は()(ぎぬ)を着せられて処断されてしまう――そういう問題がこの世界にあるんじゃない?」

「まあ……あります……」


 ミナリオは渋々認めた。

 

「それをなくすための地固めの保護の法だと思ってくれていい。拷問(ごうもん)による自白の防止、弱者への不当な圧力、出自の差による偏見の回避――そういうものを解決する手段だ。もっとも歴史上、そういう仕組みがあったとしても独裁者により形骸(けいがい)化することは多数あるけどね」

「……なんとなく意味はわかります」

「僕は基本、地上の政治とか法とかに口を出すつもりはないよ。文明は長い歴史の中でいろいろな方向に変化していくものだ。僕達がかかわることは、その成長を止めてしまうことになるから」


 ミナリオは思わず聞いた。


「……もしセオディア・メレ・エトゥールがカスト王のような暴君だったら……」

「手を貸さなかった」


 意外なことにカイルは、はっきりと言った。


「それはディム――天上のメレ・アイフェスも同じことを言ってた。偽りなく、民衆に寄り添う道を選んだ賢王でなければ、手を貸すつもりはなかったと」

「そうなると……」

「海に災厄は落ち、巨大な津波に人々は飲み込まれていただろうね」

「――」

「すごく薄情に聞こえるだろう?でも、例えば東国(イストレ)で内乱が起きても、君達は干渉せず、東国(イストレ)にいるエトゥールの民だけを保護するだろう。それと何も変わらない。大陸では国が乱立しているけど、僕達に言わせれば、君たちはみんな『地上人』で干渉する理由はないんだ」

「……でも、カイル様は行動なさっている」


 カイルは苦笑した。


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