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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
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(75)閑話:拠点の思い出⑥

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


ブックマーク、ダウンロードありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 エレンは何でもお見通しなので、ジェニをよこしたのだろう。

 こういう時、能力者はやっかいだ。


「自分でも、よくわかっていない」


 アードゥルは正直な感想をジェニに懺悔(ざんげ)をした。


「多分、君達と赤子の世話をすることが、興味深く、有意義(ゆういぎ)な時間を過ごせたからだろう」

「そこは端的に『楽しかった』でいいわよ?」

「楽しかった――いや、少し違うな」


 アードゥルは考え込み、言葉を探した。未経験の心理状態を語ることは、アードゥルにとって難しいことだった。


「こんな穏やかな時間で過ごす生活があるのか、と。エレンとの生活に似ているようで似ていない。エレンもいて、さらに穏やかなそのまま続けばいいという願望をひそかに抱かされるような……」

「それは幸福感というものではないかしら?」

「幸福感……?」

「心が満ち足りている状態だったのよ」


 満ち足りている――そうかもしれない。

 赤子の思念は、邪気がなく、純粋で無防備にアードゥルを無条件で信頼をしていた。そんな思慕(しぼ)はエレン以外初めてだったのだ。


「貴方達が子供を作るって道もあるわよ」

「規格外の能力者が二人――遺伝子調整するしかないし、育児は専門機関に託され、引き離される。実験体の可能性もある。それに――」

「それに?」

「エレンは自分が嫌いなんだ。よく、口癖のようにジェニ・ロウのようになりたいと言っていた。そんな彼女が子供をもうけるのは苦痛でしかないだろう。クローン申請さえ、拒否しているんだ」

「そんな話は初耳だし、なぜ私?」

「決断力と行動力があって、健康で、面倒見がよくて、優秀な女性だからだ。エレンは親友である君を尊敬し、憧れている。なんたって周囲に(ひる)むことなく物を申して、あのロニオスさえ君に従う」

「………………後半は解せないわね」

「確かに後半は私の私見がはいったな……」


 アードゥルは失言を認めた。


「まあ、元気を出してちょうだい。ロニオスの息子なんだから、状況が落ち着けばいつでも会わせてくれるし、なんだったら今でもいいわよ?」


 ジェニの提案にアードゥルはたじろいだ。


「いや、今は――」


 自分のこの未知の体験と感情を反芻(はんすう)し、納得するには時間が必要だった。アードゥルは吐息をついた。


「そうだな、このロニオスにもらった植物が根付いて、花が咲く頃には気持ちの整理がついているだろう」

「地上の子供の成長は、早いらしいわよ?とっとと実験栽培に取り掛かることね」


 去っていくジェニ・ロウを見送り、アードゥルは思案した。

 どうせなら、ロニオス夫妻や子供達が静かに過ごせる庭園を作ってもいい。幼い子供がうっかり触れて怪我をしないように、毒や(とげ)の植物は別エリアに移植して、ここは安全な花で満たせば心安まるだろう。

 天井は無機質な材質ではなくドーム状にして外の光景を投影すれば、地上人でも圧迫感を感じない。あとは休憩できるベンチや芝生を敷き詰めて……。

 中世の庭園文化を再現とでも、研究案をでっち上げて、施設改造費の申請でもするか。ロニオスなら酒原料の穀物栽培を組み込めば、すぐに予算もつけてくれるだろう。


「そういえば、子供の名前も聞いてなかったな」


 アードゥルは再会時の確認事項の一つにその点を加えた。







「アードゥル」


 花が咲き乱れる実験区画のベンチにアードゥルは腰を下ろしていた。美しい庭園光景はとても植物栽培実験エリアと思えない。

 エレンは何を目的として、アードゥルが整備したのか知っていたので、いたたまれない気持ちになった。

 エレンは隣に腰を下ろした。


「…………本当に地上人は混血でもあっさり死ぬのだな」

「アードゥル」


 流行性感冒であの子供は死んだという。


 実の父親が平然としているのに、なぜ自分はその事実に衝撃を受けているのだろう――アードゥルは不思議に思った。


 アードゥル達は死という概念とは無縁で暮らしている。事故があっても蘇生処置があるし、クローン体も用意が可能だ。流行性感冒で死ぬのはありえない世界だった。おそらく治療担当者達が混血児の治療を拒否したのだろうと、アードゥルは推測した。


 世界は冷たく、地上環境は無慈悲だった。

 アードゥルは理不尽な別離というものが存在することを初めて知った。


「アードゥル」

「…………」

「アードゥル」

「…………」

「泣かないで」

「泣いてなんかいない」

「心が泣いている」


 エレンは黙ってアードゥルを抱きしめた。それがアードゥルに必要だと彼女は知っていた。

 二人はそのまま抱き合い、お互いの温もりを確かめあった。


「エレン、君は、いなくならないでくれ。君までいなくなったら、どうすればいいかわからない……。こんな喪失感は二度と味わいたくない」


 エレンは微笑んだ。


「どこにも行かない。私はずっとあなたの側にいるわ。約束する」

「エレン」

「愛しているわ、アードゥル」


 二人は造られた花園の中でキスを交わした。






 この約束が果たされず、エレン・アストライアーに不幸な死が訪れ、残されたアードゥルはエルネストともに地上を長く彷徨(さまよ)うことになる。次の出会いがあるまで。


 ――それは別の物語である。

アードゥルさんは、この時点でロニオスさんに騙されているし(酷)、カイル君がエトゥールの地下拠点に登録済みだったのもアードゥルさんが登録してたからだし、なんのかんや文句を言いつつカイル君に付き合う理由の原点はここらへんにあると思われ。

アードゥルさんに同情する人、絶賛募集中。


次回、新章に入るか、まだ不明!(土下座)

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