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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
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(72)閑話:拠点の思い出③

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

電波の悪い場所にいますので、反映されるか心配です。

(アンテナ1本)


ダウンロードありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 ああ、よく寝た――ジェニ・ロウは起き抜けの寝ぼけた頭でそんな感想を抱いた。


 1週間ほどロニオスの子供の世話で眠れていなかったのだ。研究馬鹿共は夢中になると連続で徹夜(てつや)をして体内チップを消費するが、そういうレベルより酷かった。


 今までこの赤ん坊が大人しくしていたのは、父親であるロニオスが始終(しじゅう)遮蔽(しゃへい)をしていて、世の中の(ざわ)めきから隔離(かくり)していたのだ、と気づいた時には遅かった。

 責任者は「手に負えなくなったらアードゥルを呼び出すように」と忠告は残していたが、「どう手に負えなくなるのか」の説明を省いたところが凶悪な確信犯である。

 

 あの古狐(ふるぎつね)め――ジェニは怒り心頭(しんとう)に発する状態である。


 制御(せいぎょ)を知らない赤子の共振(きょうしん)思念波(テレパシー)はすさまじく、世話をするジェニとエレンの精神を疲弊(ひへい)させた。他の研究者は、もともと汚い地上部には、よりつかなかったし、無関心か強い偏見(へんけん)しかなかった。


 ジェニとエレンが孤軍奮闘(こぐんふんとう)した理由は、友情を育んだ地上人であるロニオスの伴侶のために他ならない。彼女は三回目の出産で身体を(いちじる)しく損ない、愛してやまない子供達の世話ができない。


 だがプロジェクトの医療担当者は、ガンとして彼女の治療を拒んでいた。理由は彼女が地上人であることか、もしくはロニオスのスキャンダルに等しい行為に立腹しているかと推察(すいさつ)するが、多分両方だろう。

 医療担当責任者であるアスク・レピオスなどその傾向が顕著(けんちょ)で「無駄」の一言で切り捨てた。

 

 時間を確認したジェニ・ロウは、ぎょっとした。1時間などとっくにすぎている。すぎているどころか6時間だ。

 蒼白になって状況を思い出し、周囲を見渡した。ソファーにアードゥルの姿はなく、別のソファーにはエレン・アストライアーが爆睡(ばくすい)をしていた。


「アードゥル?!」

「ジェニ、こっちだ」


 アードゥルは部屋の片隅の床にいた。胡坐(あぐら)をかいた彼の足の上には、不安定であろうはずなのに熟睡(じゅくすい)している問題の赤ん坊がいた。

 ほっとすると同時に、ジェニは駆け寄り乳児を引き取った。愚図(ぐず)って起きる気配はなかった。

 思わず、詰問(きつもん)するかのような口調になってしまった。


「どうして私達を起こさなかったの?!」

「よく寝ていたし、ジェニを起こしたらエレンも起きるじゃないか」


 愛妻家(あいさいか)を代表するような発言だった。


「でも――」

「それより、この子は腹を()かせているようだ。どうしたらいいのかわからないから、とりあえず眠らせている」


 ジェニは、ハッとした。山羊(やぎ)のミルクを与える時間は、とっくに過ぎている。


「もう貴方に救世主の称号をあげたい気分よ。待っててちょうだい」

「エレンは起こさないでくれ」

「それが条件というなら、いくらでも」


 ジェニはもう一度アードゥルに赤子を託すと、地上拠点のどこかに姿を消した。

 数分で戻ってきた彼女の手には、謎の容器が握られていた。


「それは?」

哺乳瓶(ほにゅうびん)

「ほにゅうびん?」

「中世遺物の検索は大変だったんだから。赤ん坊にミルクをやるためだけに特化した古代遺物(アーティファクト)を再現したの」

「なぜガラス瓶?」

「地上で消毒できるのは熱湯による煮沸(にふつ)手法しかないから」

「これは?」

「吸い口でゴム製よ」

「なぜゴム?」

「赤子の吸いやすいように。中心に穴があいているの。本来なら女性の乳房(ちぶさ)から直接与えるの」


 アードゥルは衝撃を受けたようだった。


「……は?」

「母親の母乳の方が、山羊の乳より赤子に必要な成分が含まれているの。生命の神秘ね。だから赤子は直接、母親の乳房から経口補給(けいこうほきゅう)するの」

不衛生(ふえいせい)だろう?!」

「もっと不衛生(ふえいせい)なことは、山のように存在するわよ?」


 ジェニはアードゥルに不吉なことを告げた。



続きます

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