(72)閑話:拠点の思い出③
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ああ、よく寝た――ジェニ・ロウは起き抜けの寝ぼけた頭でそんな感想を抱いた。
1週間ほどロニオスの子供の世話で眠れていなかったのだ。研究馬鹿共は夢中になると連続で徹夜をして体内チップを消費するが、そういうレベルより酷かった。
今までこの赤ん坊が大人しくしていたのは、父親であるロニオスが始終遮蔽をしていて、世の中の騒めきから隔離していたのだ、と気づいた時には遅かった。
責任者は「手に負えなくなったらアードゥルを呼び出すように」と忠告は残していたが、「どう手に負えなくなるのか」の説明を省いたところが凶悪な確信犯である。
あの古狐め――ジェニは怒り心頭に発する状態である。
制御を知らない赤子の共振思念波はすさまじく、世話をするジェニとエレンの精神を疲弊させた。他の研究者は、もともと汚い地上部には、よりつかなかったし、無関心か強い偏見しかなかった。
ジェニとエレンが孤軍奮闘した理由は、友情を育んだ地上人であるロニオスの伴侶のために他ならない。彼女は三回目の出産で身体を著しく損ない、愛してやまない子供達の世話ができない。
だがプロジェクトの医療担当者は、ガンとして彼女の治療を拒んでいた。理由は彼女が地上人であることか、もしくはロニオスのスキャンダルに等しい行為に立腹しているかと推察するが、多分両方だろう。
医療担当責任者であるアスク・レピオスなどその傾向が顕著で「無駄」の一言で切り捨てた。
時間を確認したジェニ・ロウは、ぎょっとした。1時間などとっくにすぎている。すぎているどころか6時間だ。
蒼白になって状況を思い出し、周囲を見渡した。ソファーにアードゥルの姿はなく、別のソファーにはエレン・アストライアーが爆睡をしていた。
「アードゥル?!」
「ジェニ、こっちだ」
アードゥルは部屋の片隅の床にいた。胡坐をかいた彼の足の上には、不安定であろうはずなのに熟睡している問題の赤ん坊がいた。
ほっとすると同時に、ジェニは駆け寄り乳児を引き取った。愚図って起きる気配はなかった。
思わず、詰問するかのような口調になってしまった。
「どうして私達を起こさなかったの?!」
「よく寝ていたし、ジェニを起こしたらエレンも起きるじゃないか」
愛妻家を代表するような発言だった。
「でも――」
「それより、この子は腹を空かせているようだ。どうしたらいいのかわからないから、とりあえず眠らせている」
ジェニは、ハッとした。山羊のミルクを与える時間は、とっくに過ぎている。
「もう貴方に救世主の称号をあげたい気分よ。待っててちょうだい」
「エレンは起こさないでくれ」
「それが条件というなら、いくらでも」
ジェニはもう一度アードゥルに赤子を託すと、地上拠点のどこかに姿を消した。
数分で戻ってきた彼女の手には、謎の容器が握られていた。
「それは?」
「哺乳瓶」
「ほにゅうびん?」
「中世遺物の検索は大変だったんだから。赤ん坊にミルクをやるためだけに特化した古代遺物を再現したの」
「なぜガラス瓶?」
「地上で消毒できるのは熱湯による煮沸手法しかないから」
「これは?」
「吸い口でゴム製よ」
「なぜゴム?」
「赤子の吸いやすいように。中心に穴があいているの。本来なら女性の乳房から直接与えるの」
アードゥルは衝撃を受けたようだった。
「……は?」
「母親の母乳の方が、山羊の乳より赤子に必要な成分が含まれているの。生命の神秘ね。だから赤子は直接、母親の乳房から経口補給するの」
「不衛生だろう?!」
「もっと不衛生なことは、山のように存在するわよ?」
ジェニはアードゥルに不吉なことを告げた。
続きます




