(70)閑話:拠点の思い出①
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ネタ解説:初公開の初代達のお話
第19章 大災厄(1)(35)解析⑬あたりでチラリと語られる乳児のカイル君をあやす羽目になるアードゥルさんの話
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「エレン、顔色が悪い」
アードゥルは拠点に戻って再会した伴侶の憔悴ぶりに唖然とした。
いったい何があったのだろう。
アードゥルの妻でもあるエレン・アストライアーは身体が丈夫というわけではない。むしろ標準的に言うと虚弱な部類に入るだろう。それは彼女の繊細な精神感応能力のせいでもあったし、彼女自身の食の細さと体力のなさにも起因していた。
彼女の顔色は、体内チップの調整があるにもかかわらず、すこぶる悪かった。
「どうした?地上の未知の風邪か?すぐに中央に戻って治療を――」
「そうではないの。心配をかけてごめんなさい」
エレンはアードゥルの頬にキスをした。それは、アードゥルが帰宅したときの欠かすことがない儀式に近い。
エレンは赤い瞳でアードゥルを見つめ、暗に『ハグして』と求めてきて、アードゥルは愛する伴侶の望みをすぐにかなえた。エレンは寂しがりやでもあり、スキンシップを求めて甘えてくることが多かった。
「――いったい?」
「ロニオスの子供の夜泣きが酷いの。ジェニもこんな感じよ」
夜泣き――聞き慣れない言葉にアードゥルは検索をかけた。中央では死語に近い言い回しで「乳児が眠らないでぐずり、泣き続ける状態」という答えを得た。
「防音室があるだろう?」
夜泣きの何が問題なのか?
地上人が出入りする地上部には、いろいろと細工が多数ある。多分エレンが言う「子供」とは、最近生まれたはずのロニオスと地上人の間にできた三番目の子供のことだと、アードゥルは理解した。だが、アードゥル自身は調査研究のため遠征していたため、まだ面会はしていない。
その赤子の夜泣きと彼女の憔悴の因果関係がわからなかった。
エレンはアードゥルの無理解に失望したかのように首を振った。
「防音の問題じゃないの。今、ロニオスが不在で、こんなことになるとは思わなかったわ」
「どういう意味だ」
エレンは迷ったようだったが、アードゥルを案内することに決めたようだ。アードゥルは地下拠点ではなく、地上部に設けられた偽装地区に案内された。
地上にでたとたん、アードゥルの鋭い感覚は、大きな違和感を捕えた。
「頭と耳が痛い」
「みんな、そうよ」
「なんだ、この発振現象は。どこかの機械が深刻なエラーを起こしているんじゃないか?なぜ修理しないんだ?」
「ロニオスの子供よ」
「なんだって?」
部屋に入るとジェニ・ロウがやはり憔悴した表情で、大声で泣き叫ぶ赤子を抱いていた。
「ジェニ」
「ああ、天の助けが来たわ。お願い、アードゥル。この子を遮蔽してあげて」
「なんだって?」
わけもわからず、求めに応じると不快感は消失し、同時に赤子は泣き止んだ。
アードゥルは驚いてジェニの手の中の赤子を見た。この赤ん坊が発振現象の発生元だったのか?
金髪と金色の瞳を持つ赤ん坊は、今までの癇癪がなかったかのように、無邪気に笑みを見せている。金色の髪と瞳は、父親と同じだった。
「これが最近生まれたロニオスの子供なのか。彼にそっくりだ。ところでジェニ、いったい何が――」
「アードゥル、重要な命令をするわ」
「な、なんだろう?」
ジェニ・ロウの表情は鬼気迫る物があった。
「まずは手を出して」
「うん?」
アードゥルは片手を出した。
「両手」
「言ってくれないと」
「今から繊細なガラス細工のようなものを渡すから、落とさないでね?」
「うん?」
「はい」
アードゥルが理解するより前に、赤子はアードゥルに手渡された。
「?!!?!?!」
「そのまま抱いて、遮蔽を続けて1時間ほどお願いよ」
「ジェニ?!」
「私達はクタクタなのよ。貴方の遮蔽だけが頼り。お願い。助けて」
「アードゥル、お願いよ」
エレンまで縋るような瞳で懇願してきた。
「そっちのリクライニングソファーを使っていいわ。私達もこの部屋にいるから」
「1時間預かってどうするんだ?」
「1時間、この子が泣かないなら、それは奇跡よ。でもその1時間が私達には必要なの」
「1時間で何をするんだ?」
「古代時代から、赤子を育てる女性達が、皆、あこがれて欲したものよ。男性の理解が得られにくく、悲嘆にくれる女性が多かったと。離縁の理由の一つにもなったという歴史的事実があるのよ」
途中、妻帯者であるアードゥルには不吉な言葉が混じっていた。離婚の理由にもなるほど、欲する物とはいったいなんだ?!
「それは、いったい……?」
「邪魔をされない睡眠よ」
「は?」
続きます。




