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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第22章 大災厄④
929/1015

(69)閑話:前夜③

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


地震で被災された方、お見舞い申し上げます。

震災で亡くなられた方、羽田事故で亡くなられた海保の方の

ご冥福をお祈り申し上げます。

寄付やふるさと納税などで復興に協力したいと思います。


現在、更新時間は迷走中です。

面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

――僕は かいると ずっと一緒にいられるかな?


 子供のような純心な金色の(ひとみ)が不安にゆれ、じっとカイルを見つめてきた。その眼差(まなざ)しが意味することを、誰よりもカイル自身がよく理解していた。


 ああ、これは孤独になることを(おび)える自分と同じだ。


 カイルはウールヴェと主人の間に(きずな)があり、半身(はんしん)と言われることがなぜか、納得できた気がした。

 ウールヴェは主人の心の葛藤(かっとう)深層心理(しんそうしんり)を受け止めて、同じ気持ちを分かち合っている。彼等はそうやって主人と寄り添う道を選んでいるが、大半の使役者(しえきしゃ)はその事実に気付かなかったに違いない。


 カイルは長椅子に座ったまま、目の前にいるウールヴェの頭に手を伸ばして優しく()でた。


「ロニオスが初代のウールヴェの姿で存在しているということは、ウールヴェは長生きってことだろう?」


――うん


「僕達の寿命は長いから、ちょうどいいね。ずっと一緒にいよう」


 カイルの言葉に感激したのか、トゥーラは撫でるカイルの手のひらに、ぐりぐりと頭をこすりつけてきた。まるでそれで親愛を表現する愛玩動物(ペット)のような仕草だった。


――ずっと一緒?


「ああ、一緒だ」


――かいるが そう望んでくれるなら


「望むよ」


――よかった


 なぜだか、ウールヴェはほっとしたようだった。他愛もない会話のはずが、カイルには、このやり取りに重要なことが含まれているような気がした。

 「望む」「一緒」――どちらがウールヴェにとって、重要なキーワードなのだろうか?

もしかしたら両方かもしれない。


「お前も、僕の望みが叶うように手伝ってくれるかい?」


――もちろん


――姫が幸せであること


――まかせて


――僕は 姫の幸せを 守るよ


 自信たっぷりにトゥーラは宣言をした。


 明日――すでに真夜中をすぎているので今日、大災厄は起こり、文明の存続の方向が決まる。


「大災厄を無事乗り越えたら、お前は何がしたい?」


――あいりのお菓子を いっぱい食べたい


「……いつもしていることじゃないか」


――変わらない平穏な日常が 大事


「……名言だ」


 カイルは思わず感心してしまった。

 平穏な日常が貴重なことは誰もが知っていながら、誰もが忘れがちになる。非常に象徴(しょうちょう)的な言葉だった。


――あいりのお菓子は 平穏さの象徴(しょうちょう)


「それを言ったのは、シルビアだね?」


――当たり


――毎日、平和にお茶ができて、アイリのお菓子が食べられるような環境が理想だって


「シルビアらしい表現だ」


――かいるは 大災厄を乗り越えたら 何がしたいの?


 カイルはもう一度考えてみた。自分は何がしたいだろう。


「僕は、肖像画家には、むいてないじゃない?」


――貴族のハゲ頭を そのまま描くもんね


 トゥーラは細かいことを覚えており、カイルは苦笑した。


「僕は想像して描くこともできないから、物語の挿絵(さしえ)画家もダメだ。だから、地上の博物誌の編纂(へんさん)で、実物を見て挿絵(さしえ)を描くとかが天職だと思わない?ファーレンシアが昔、提案してくれた。説明文章はエルネストが担当に乗り気だった。どう思う?」


――「はくぶつし」って?


「自然界の事象を観察して、系統別の項目に分けて説明した本だ。いろいろな知識について細かく書かれている。知識がない人が学べる教科書みたいなものだよ。僕はこの世界に役に立つ書を書き残したい」


――ウールヴェの 項目もある?


「作ろう」


――僕をモデルに 挿絵(さしえ)を描く?


「いいね。でも、ウールヴェだけでは項目が足りない。博物誌を作るためには、いろいろな場所に調査しにいかないと」


――僕 大活躍できるよ


「そういえば、そうだった」


 ウールヴェの空間跳躍は確かな目標があれば、移動が自由自在なのだ。大陸全土を調査研究するには、最適な移動手段だった。


「いろんなところにいこう。一緒に」


――うん、一緒に


「この世界を見て歩こう」


――うん、見て歩こう


 ウールヴェのトゥーラは、主人であるカイルと約束を交わした。

 一人と一匹は、エトゥールでの最後になるはずの夜を共に過ごした。

どうやら過去にハゲ頭の貴族とのトラブルがあった模様。(閑話ボツ作品)

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