(57)カウントダウン⑮
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カイルはウールヴェのトゥーラを呼び出した。
トゥーラは最近、身重のファーレンシアの専属護衛のごとく、アドリーにいる彼女のそばから離れなかった。多忙であるカイルの代理として、見守っているような気配すらあった。
純白の狼は軽やかに跳躍してきた。
――なあに?
「傷薬の運搬を手伝ってほしいんだ」
――がるーす将軍の ところにいくの?
トゥーラは会話を聞いていたかのように、察しがよかった。いや、もしかして世界の番人が伝えているのかもしれない。
カイルはトゥーラの質問に考え込んだ。
将軍が作戦中だとしたら、その目の前に出現するのは、まずいかもしれない。
カイルはダナティエに対して短い伝言をかき、彼女のウールヴェと共にトゥーラを一度跳躍させて、様子をうかがうことにした。
二匹はすぐに戻ってきた。
――だなてぃえ 傷薬の補給の件 感激していたよ。 彼女が 代理で受け取るって
「跳躍先は安全かい?」
――大丈夫
カイルはダナティエのウールヴェに背嚢を一つ持たせた。
「私も行こう」
意外なことにアードゥルはそう言うと、ウールヴェへの傷薬の積み込みに手を貸してくれた。
「え?」
「お前が厄介ごとに巻き込まれて、本番に不在とかになると作戦が失敗に終わる」
「不吉なことを言わないでよ」
これは信用がないから同行して見張ることにしたのでは――と、カイルは思った。
「私のウールヴェも使ってください」
有難いことにシルビアが申し出てくれたので、アードゥルは複数の背嚢を背負ってシルビアのウールヴェにまたがった。
カイルはトゥーラにまたがると、猫型のウールヴェに話しかけた。
「ダナティエのところに連れて行っておくれ」
3匹のウールヴェは同時に跳躍した。
跳躍した先には、一人の娘が待ち構えていた。
ディヴィ副官の娘は、複数のウールヴェの出現に動じることなく、丁寧に一礼をして応じた。
「カイル様、ありがとうございます」
「将軍達は不在かな?」
「少々、お待ちいただけますか?」
ダナティエは自分のウールヴェから背嚢をはずすと、何か話しかけ、どこかに飛ばした。彼女はウールヴェを完璧に使いこなしていた。
「……使いこなしているね……」
「はい。頭のいい子で助かっています」
ダナティエはカイルの同行者を見つめた。
「彼はアードゥルと言って――」
「四つ目使いですね?」
ダナティエの言葉に、カイルはあんぐりと口をあけた。
ダナティエはカイルの反応に笑った。
「メレ・エトゥールが彼を指名手配した時に、父はちゃっかりと写し絵を手に入れたそうです。メレ・エトゥールと敵対しているなら、味方にできないか、とまで考えたみたいですよ?」
副官ディヴィが、セオディア・メレ・エトゥール並みに暗躍するタイプだとは思わなかった。有能な大将軍の副官は、やはり有能だった。
「……カスト王が愚か者でよかった……」
カイルは、ぽつりと本音をもらした。カスト王がガルース将軍を厚く重用していたら、恐ろしいことになっていたかもしれない。
もしかして、セオディア・メレ・エトゥールがガルース将軍を欲したのは、有能な副官がセットで付いてくることが理由だったのでは、とカイルは思い当たった。
「私がカストに組することは、天地がひっくり返っても、ないな」
「残念です」
アードゥルのつぶやきに、ダナティエは笑いながらトゥーラの荷をはずしにかかった。
「トゥーラ、あとで林檎をあげるね」
――わーい
アードゥルが呆れたようにカイルを見た。
「お前のウールヴェが買収されているが、いいのか?」
「僕のウールヴェのメレ・エトゥールへの忠義は、林檎より安いんだよ」
――そんなことないよ
トゥーラは抗議したが、若干説得力に欠けた。
「なぜ、ウールヴェが猫型なんだ?」
アードゥルが質問した。ダナティエは隠すことなく、あっさりと答えた。
「どこにでもいて、しかも違和感がない生物だからです」
「なんだって?」
「街や村に猫がいても、誰も気にしないでしょう?猫嫌いじゃない限り、たいていの人は愛でます。まあ、犬でもよかったんですが――」
――犬じゃない
「こんな風に、犬型はウールヴェに拒否されてしまったんです」
ダナティエは肩をすくめてみせた。




