(52)カウントダウン⑩
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「貴方の時々の容赦なさは、ロニオス直伝ですか?」
「あはは、それは否定しない」
それも否定しないのか――ディム・トゥーラは呆れた。エド・ロウはディム・トゥーラをじっと見つめた。
「君は少しロニオスに似ている」
「あの酔いどれ親父に似ていると言われても嬉しくありません。なんで俺が実の息子より似ているって言うんですか」
ディムはまるで害虫に遭遇したかのように顔をしかめ、憮然と抗議した。
エド・ロウはディム・トゥーラの反応に笑った。
「君だって昔に比べれば、情に厚くなっているんじゃないかな?ロニオスほどではないが、変化している。君は優秀で誰ともつるまない一匹狼だったが、境界線に立ち、人を観察する癖があったな。まるで周囲の人間を野生動物扱いしていた」
ディム・トゥーラは黙りこんだ。まさかエド・ロウに見破られているとは思わなかったからだ。
いや、だから人員選抜の場所に駆り出されたのか――ディムは納得した。エド・ロウ自身もたいした狸親父でロニオスといい勝負だった。こんな双璧が存在していいのだろうか?
「それが精神感応者である君の自己防衛であることは、わかっている。別に悪いことでもない。人間の交流は確かに野生動物の観察のように相手を知ることから始まる。思考の癖や性格を見極めれば、相手をすることは容易いだろう。まあ、だからこそ支援追跡者に選ばれるわけだけど」
「………………」
「人間関係の構築影響はまるで未知の科学反応に似ている。どっちに転ぶかわからないし、時には危険でもある」
「……危険なこともあるんですか?」
「中世ではそれに引きずられて破壊行為がよくなされていたよ。人間は軸がないと、カリスマ的人物に心酔して、盲目的に従うんだ。人は楽な方に引きずられ、簡単に扇動され、利用される。ちょっと中世の歴史心理学を紐解くと面白いよ。大国の現地工作員に面白いほど操られる民衆の例が多数、載っている。まあ、ロニオスの受け売りだけど」
「…………ロニオスの専門ってなんですか?」
「全分野」
「――」
絶句するディム・トゥーラの姿に、エド・ロウは笑った。
「冗談だよ」
本当に冗談だろうか?
ロニオスはどこか全知全能的な存在に思えてしまう。正体を知るまでは、実際にウールヴェの王ではないかと思っていたぐらいだ。
彼なら地上で初代のエトゥール王として君臨し、統べることは容易いことだっただろう。それすらも遊戯の一環であったかもしれない。
「ロニオスがよく言うんだけどね、世の中には軸を持った人間とそうじゃない人間の二種類しかいないんだってさ」
「その場合の軸の定義は?」
「信念とか矜持とか夢とか、それぞれの人間で違うらしいよ?」
「ずいぶん曖昧ですね」
「だって人が望む物は千差万別だろう?ならば行動の原動力も千差万別――そんなものだよ」
エド・ロウはにっこりと笑った。
「君の中で、何が妥協できて、何が譲れない物か、一度ゆっくりと考えてみるといい。君の軸の一つが、カイル・リードの支援追跡者であることなのは周囲が認める事実だし」
「…………」
「軸のない者は、軸のある者に振り回される。もしくは誘蛾灯のように惹きつけられ、己を見失って自滅する。ロニオスは巨大台風の目か、ブラックホール並みの誘蛾灯だから気をつけたまえ。典型的な古狐だし」
『聞こえてるぞ、古狸めっ!』
ロニオスの不機嫌な思念が二人の脳裏に響いた。
「…………本人に聞かれていますが?」
「ロニオスに対して内緒話はできたことがないし、するつもりもないよ」
エド・ロウはしれっとした顔で言ってのけた。
狼姿のウールヴェにその言葉も届いているらしく、ウールヴェはイライラしたように尻尾を大きく振った。
「ところで、なぜ、俺にこんな話を?」
「君が思い悩んで、明後日の方向に突き進んでもらっても困る。例えば、カイル・リードの支援追跡者の地位を返上するとかね」
「…………」
「それにね……」
「それに?」
「たまには上司らしいことをしろって、ジェニが言うんだよ」
「……所長って意外に奥様至上主義ですよね?」
ディム・トゥーラは真顔で突っ込んだ。




