(51)カウントダウン⑨
お待たせしました。本日分の更新になります。
お楽しみください。
作者もたまに「ちゃんと面白いかなあ」と不安になりますので、ブックマークや評価は大歓迎です。
いつも最新話を読んでくださりありがとうございます。(拝礼)
『どこが、寛大なんだ?』
「え?証明のためにディム・トゥーラに酒瓶を全部割ってもらいたいと?」
『やめてくれ!!』
ウールヴェは尻尾を太くして本気で怯えた。
――やっぱり酒瓶も割っておくべきだった。
ディム・トゥーラは上司達の戯言を背中で聞きながら、ロニオスの仕打ちに憤慨しつつそう思った。彼は今、渡されたシャトルの航行プログラムを修正構築していた。一気に工程が進んだことは喜ばしいが――。
これはおおいに凹む案件だった。
自分一人では、満足に対処できなかった。ロニオスやアードゥル達初代がいなければ、今頃どうなっていたのだろうか。
恒星間天体の軌道変更に失敗し、カイル達が犠牲になっていたかもしれない。そう想像してディム・トゥーラはゾッとした。
カウントダウンが始まっているこの段階での不手際にも等しい状態だった。今までの自信は崩れ去り、支援追跡どころか対象者の足を引っ張りかねないという恐怖が生まれていた。
――俺はカイルの隣に立つ資格があるのか?
ロニオスのように先の先まで見通すことができない。その能力の差は明らかで、埋めようがなかった。
ロニオスやカイルが規格外とはいえ、本来ならその能力をコントロールするべき人間なのに、それもできていない。このアンバランスさは、いつしか取り返しのつかない重大事故を引き起こしかねず――。
「ディム・トゥーラ」
エド・ロウに肩を叩かれて、ディム・トゥーラは我に返った。
「考えすぎない方がいい」
「……別に考えすぎては――」
「いるだろう?」
「……………………」
「ロニオスは時々、ああいうふうに相手をペシャンコに叩きのめす。本人曰く、一種の教訓を与えるために、ね」
「…………教訓?」
「君は人を頼ることが得意ではない」
「そんなことはありませんよ。移動装置の改造には多数の人を使った」
「それは等価交換によるものだろう?」
「……」
「過去にロニオスが叩きのめす理由は様々だったけど、見込みのないものは関知しないからね。ある種、君の成長に期待しているってことだよ。君はもう少し周囲を頼った方がいい」
「妨害者がいるかもしれないのに?」
「もちろん無防備に、という意味ではないよ。私やジェニ、ロニオスとかを指すんだよ。少なくとも私達は君の信頼を得ているだろう?」
「そりゃそうです。ここまでこれたのは貴方達のおかげです」
「君を巻き込んだのも、私達だけど?」
「…………そうですね」
「多分、君の頑なさは、その強大な精神感応のせいだろうね。遮蔽が緩い人間の薄汚い思念を拾うのに慣れすぎて、若干の人間不信に陥っている」
「若干どころじゃないですが……」
「だからお人好しのカイル・リードの支援を買って出たのではないか?彼も一種、君と同様の立場だからね」
「………………」
「君達は性格は真反対だが、対等で、いい関係を築いていた」
「対等……ですかね?」
「君のキツイ性格についてこれるのはカイル・リードだけだったし、カイル・リードの規格外の能力に投げ出さず対応できたのは君だけだったよ」
「…………ロニオスがカイルの支援追跡者である方がいいかもしれない」
エド・ロウは部下を同情的な眼差しで見つめた。
「君のプライドはそこまで砕かれてしまったか。君がそんなことを言いだすなんて、びっくりだ」
「……彼の方が適任です」
「そうだね、適任だよ。カイル・リードが暴走した時は、迷うことなく一撃で瞬殺するよ、彼なら」
「――」
ディム・トゥーラは驚いたようにエド・ロウを見つめた。
「その選択で君はいいのか、という話だよ。ロニオスの強みは自分の感情を持たずに物事を取捨選択できる――それが親子という血縁関係があっても容赦なく切り捨てる。彼が昔、AIとかロボットとか言われた揶揄された由縁だよ。まあ、今はずいぶん人間臭くなっているが……あそこまで酒に執着する性格じゃなかったし、むしろ何も執着しない性格だったのに……」
「俺には酔いどれ中年親父にしか思えませんが……」
「ああ、うん、そうだね」
エド・ロウは少し視線を彷徨わせたが、否定はしなかった。
この物語で一番の苦労人がディム・トゥーラであることは、仕様です。(酷)




